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第17巻第2号(2019年7月発行)抄録集

【特集 トラウマ焦点化治療の現状と課題】

持続エクスポージャー療法(PE):情動処理による恐怖記憶の修正

金  吉晴
持続エクスポージャー療法(PE)はPTSDへの治療効果が多くの研究によって証明され,各種ガイドラインで推奨されており,日本でも保険適用となっている.慢性PTSDでは記憶の出来事,情動,思考,知覚が断片化して過剰に結びついた恐怖記憶が形成されており,自己と世界についての否定的認知が強化され,そのために恐怖記憶への回避が生じ,負の強化が生じている.PEの目的は修正的情報を取り入れて恐怖記憶を適応的な記憶にすることであり,エクスポージャーの技法は負の強化を減少させ,記憶を適切に賦活することで修正を生じやすくし,記憶の中から修正的情報の発見を促すために用いられる.認知処理によって学習を強化することが重要であり,実験心理学の消去学習とも共通するところが大きい.PEの治療前後の効果量は1.5を越えており,今後のさまざまな精神療法のベンチマークとして位置付けられる.
 

認知処理療法(CPT):包括手引きを踏まえて

伊藤 正哉・片柳 章子・宮前 光宏・高岸百合子・蟹江 絢子・今村 扶美・堀越  勝
認知処理療法(Cognitive Processing Therapy:CPT)は30年以上前に開発され,現在では最も広く研究されているトラウマに焦点を当てた認知行動療法のひとつである.本稿では,最近改定されたCPTの包括手引きを踏まえてその介入内容の現状を紹介するとともに,最新の重要な知見と課題を整理する.
 

眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR):発展の歴史から本邦における課題へ

菊池安希子
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作および再処理法)は,1989年に米国のFrancine Shapiroにより開発された心理療法であり,PTSDに有効なエビデンスのあるトラウマ焦点化治療として諸外国のPTSDガイドラインで推奨されている.本稿では,EMDRの包括的な紹介をすることを目的として,発展の歴史,治療モデルとしての適応的情報処理モデル,3分岐プロトコル,8段階から成るEMDR「標準プロトコル」の概要,PTSDおよびその他の障害に対するエビデンス,効果のメカニズム,そして本邦における普及と課題について概説した.

トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)

亀岡 智美
TF-CBTは,米国のDeblinger,CohenとMannarinoによって開発された,子どものPTSDへの第一選択治療プログラムであり,国際的に最もその効果を実証されているものである.TF-CBTは,さまざまな治療技法の優れた要素を統合し,「PRACTICE」の頭文字で現わされる治療要素から構成される,トラウマに焦点化した認知行動療法である.我々は,2010年からTF-CBTを学び始め,研究班内での実践を積み重ね,わが国における効果検証に取り組んできた.また,研究班内での人材育成システムを構築し,現在では,より広く一般の臨床家への普及啓発を目指している.本稿では,TF-CBTの概略を紹介するとともに,わが国における普及啓発の現状と課題について述べる.

PTSDの治療選択

田中英三郎
過去40年を振り返るとPTSDの治療研究は飛躍的に発展していった.特に認知行動療法を中心とするさまざまな心理療法の有効性が証明されている.しかしながら,どの心理療法がどういった背景のPTSD患者に有効であるかは明らかでない.本稿では,兵庫県こころのケアセンター附属診療所PTSD専門外来の診療機能と外来統計を紹介するとともに,実臨床の場でどのように治療選択がなされているか当センターでの経験的知見を考察した.

被害後早期における犯罪被害者および遺族のPTSD症状

櫻井  鼓
本研究は,被害から比較的早期にある全国の犯罪被害者,遺族を対象に,PTSD症状とそのリスク要因について検討することを目的とし,質問紙調査を行った.有効回答者は合計378名で,そのうち殺人遺族85名,交通事故事件遺族61名,暴力被害者47名,性犯罪被害者40名,被害からの経過期間は平均32.1カ月だった.遺族および暴力被害者では生活全般に対する満足感,性犯罪被害者では異性関係に悪影響があると感じられやすく,遺族および被害者の2割以上が友人または家族関係に悪影響を感じていた.PTSD症状全体の重症度では被害種別による有意差は認められなかったが,過覚醒症状では殺人遺族が有意に低かった.PTSD症状のリスク要因は,遺族では女性であること,被害者では被害からの経過期間の短さであった.支援において,遺族の場合,女性の精神症状に配慮すること,被害者には,被害後の時間が経過していない人の精神症状に配慮することが必要だと考えられた.

ICD-11におけるPTSD/CPTSD診断基準について―研究と臨床における新たな発展の始まりか,長い混乱の幕開けか?

飛鳥井 望
ICDとDSMという国際的に強い影響力を持つ2つの診断システムが,PTSD診断基準に関して異なる立場を取ることがあきらかとなった.DSM-5は,PTSDの病態としての典型的特徴を表す症状項目を一部DESNOS的症状も含めて広く定義している.一方,ICD-11は,診断基準項目を簡素化し,「再体験」「回避」「脅威の感覚」の3症状カテゴリーの中核症状として狭く定義している.さらにICD-11は,長期反復性トラウマとの関連が強い複雑性PTSD(CPTSD)を定義し,その定義の中でDESNOS的症状は「自己組織化の障害(DSO)」として括った.本稿ではDSM-5との相違点を明確にしながら,ICD-11のPTSD/CPTSD診断基準について議論する.
 

トラウマインフォームドケア:公衆衛生の観点から安全を高めるアプローチ

野坂 祐子
トラウマは,精神健康をはじめ身体的健康や社会生活など広範囲にわたる影響を及ぼすことが明らかにされており,さまざまな領域で「トラウマを念頭に置いたケア(Trauma-Informed Care:TIC)」の必要性が認識されつつある.TICは対人援助に関わるすべてのスタッフが援助関係において,対象者と支援者が共有することになるトラウマの影響を認識し,トラウマ反応を理解しながら関わり合うことで,再トラウマ体験を防ぎ,回復を促進させる,ケアシステム全体を意味する.TICは,トラウマに関する情報の周知と心理教育を中心とする公衆衛生的アプローチであり,トラウマに起因するとみられる症状のある人を「トラウマに対応したケア(Trauma-Responsive Care)」や専門的な「トラウマに特化したケア(Trauma-Specific Care)」につなげる.TICは,トラウマを「見える化」し,本人や周囲の理解を得ることで回復への動機を高める.安全の確保と再演の予防も重要である.トラウマは支援者や組織にも影響を及ぼすため,健全な組織づくりが不可欠であり,社会全体がトラウマへの認識を高めることが望まれる.
 

バックナンバーの入手について

学会事務所に残部がある第6巻2号までについては、希望される学会誌の巻号と郵送先を明記のうえ、1冊につき882円分の切手をそえて学会事務局までお申し込みください。
また、7巻1号以降につきましては、下記までお問い合わせください。

(株)金剛出版 出版部 「トラウマティック・ストレス」担当
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