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第12巻第1号(2014年6月発行)抄録集

【特集 福島の被ばく不安】

こころのケアセンターが果たすべき役割とは:ある方部の苦闘から

前田正治*1*2・植田由紀子*2・昼田源四郎*2
*1福島県立医科大学医学部
*2ふくしま心のケアセンター

ふくしま心のケアセンターは2012年2月に設立し,現在3年目を迎えている.その間,紆余曲折を経て現在に至っているが,その経過は,まさにセンターの役割を模索するそれであったといえる.本稿では初年度に危機的状況に陥ったいわき方部の混乱と再建に焦点を当て,混乱の要因とケアセンターの果たすべき役割について述べた.最終的には市町村保健所のような既存支援機関のニーズをもっとも重視することによって,センターとしての機能を果たし,さらにはスタッフの帰属感やセンターの凝集性を高めることに成功した.今後はさらに長期的な視点をもってセンターを運営することが大切である.


相双地区住民(特に南相馬市)の現状と課題

堀 有伸*1*2
*1福島県立医科大学災害医療支援講座
*2雲雀ヶ丘病院

福島県の太平洋沿いの北方約3分の2を占める相双地区は,2011年3月の東日本大震災での地震・津波で大きな被害を受けたことに加え,東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響を最も強く受けた地域である.その発電所から20km圏内は警戒区域に指定され,全住民の避難が指示された.その後は現在にいたるまで避難生活が継続している.屋内退避が指示された30km圏内でも,住民生活に大きな影響があった.震災後に3年が経過してもなお,避難生活が継続していることの住民の健康へ与える影響は小さくない.震災関連死の増加や,認知症や慢性疾患の悪化,子どもの発達の遅れなどについての報告が行われ始めている.これらについては,短絡的に放射線の影響と結びつけずに,総合的な判断がなされるべきである.また,地域社会全体については,若年層の流出と高齢化の急速な進展という課題にも対応する必要がある.


福島県の災害とこどもへの支援

増子 博文

福島県立医科大学医学部

福島県における東日本大震災後の,こどものメンタルヘルスについて概説した.避難を余儀なくされた住民を対象とした福島県県民健康調査の結果では,SDQ(Strength and Difficulties Questionnaire)を指標にした支援を要するこどもの割合は,4~6歳・小学生・中学生のいずれの年齢層においても,一般人口と比較して高値であった.避難生活の長期化に伴い,養育者の疲弊がこどものメンタルヘルスに対して影響することが懸念されている.今後,長期にわたり,身体的・精神的健康調査の継続が必要である.


福島における学校保健の現状と課題

髙橋 紀子

福島県立医科大学医学部

本稿では,臨床心理士として福島で子どもたちや保護者,教職員と関わる中で感じることを起点に,福島における学校保健の現状と課題についてまとめた.震災後,日常で失われがちになった福島の文化や精神性を取り戻す場としても地域に根づく学校の果たす役割は大きい.また,生活環境の変化を余儀なくされ社会資源を失った人々も多い状況では,支援者が対象者の元へ行き潜在的ニーズを探るといった取り組みも重要になっている.今後の課題として,子どもへの放射線についての教育,保護者たちの語り合いの場の支援の充実,支援を受ける側への負担の配慮をあげた.


【総説】

DSM-ⅣからDSM-5へ:PTSDとASDの変更点とその背景

飛鳥井 望

東京都医学総合研究所

米国精神医学会によるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では,心的外傷後ストレス障害(PTSD)と急性ストレス障害(ASD)を含めた「心的外傷およびストレス因関連障害群」が,従来の不安障害カテゴリーから分離独立し,新たなカテゴリーとして設けられた.PTSD診断基準の主要な変更点は,基準Aに該当する外傷的出来事をより具体的に明記し,A2(主観的反応)を削除したことである.症状基準は,これまでの3症状クラスター計17項目から4症状クラスター計20項目に変更された.それらの変更にもかかわらず,DSM-Ⅳ基準とDSM-5基準とでのPTSD診断一致率は十分に高いものである.ASDは従来の下位基準を廃し,侵入症状,陰性気分,解離症状,回避症状,覚醒症状の計14症状項目を一元化し,9項目を診断のカットオフとした.この変更は,トラウマ体験後早期(1カ月以内)の深刻な外傷性ストレス症状を診断し,適切な早期介入につなげることを意識したものである.


小児医療とトラウマ

泉 真由子

横浜国立大学人間科学部

本稿では,小児がん患児に生じる可能性のある心理的問題をPTSDとして評価した研究を紹介し,小児医療とトラウマについて考察した.1994年のDSM-Ⅳの改訂によりトラウマとなる出来事として個人の主観的な外傷体験のあり方にも焦点が当てられるようになり,これをきっかけに生命の危機を引き起こすような治療状況や慢性疾患がトラウマに匹敵するという視点が生まれた.そして多くの海外の先行研究が示すように,日本の小児がん患児においても闘病体験がトラウマとなりPTSD症状を発症する患児が存在することが示された.小児がんに限らず,慢性疾患を抱える子どもは精神的ストレスに対して被損傷性の高い状態を抱えている.そのような患児がさまざまな場面で直面するトラウマティックな出来事に対して,立ち向かう,あるいは上手くかわすことができるよう,これらの子どもたちに関わる専門家が適切な支援を提供することが望まれる.


posttraumatic anger―理論的背景と臨床的意義

大江美佐里*1*2
*1久留米大学保健管理室
*2久留米大学医学部

この総説では,外傷後の怒り(posttraumatic anger)に関する理論的背景と臨床的意義について述べる.Chemtobは,PTSD患者が怒りを調節する機構に問題があるとして生き残りモード理論(survival mode theory)を提唱している.近年のメタ解析では,怒りとPTSD症状との関連が特に深いことが示されている.PTSD治療においても怒りや攻撃性が問題となる場面がある.PTSDの心理教育の中に怒りの性質について取り扱う場をもうけ,自らの心の動きについて冷静に話し合うことで,怒りの噴出を事前に防ぐことができる可能性がある.


犯罪被害者と刑事司法

柑本 美和

東海大学

本稿では,犯罪被害者が刑事司法とどのように関わるのかについて,手続における保護・支援を中心に概観する.その前提として,刑事手続と民事手続がどのように異なるのかを説明する.次に,刑事司法手続を,「捜査」「裁判(公判)」「裁判後」の3つの段階に分け,それぞれの段階で提供される保護・支援策について見ていく.そして,最後に,犯罪により被害者に生じた精神障害が,刑事手続の中でどのように評価されるのかについて,簡単に触れることにする.

 

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(株)金剛出版 出版部 「トラウマティック・ストレス」担当
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