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第5巻第1号(2007年7月28日発行)抄録集

【特集トラウマと解離】

トラウマと脱愛着 ―発達神経学的観点からみた乳幼児の解離―

紀平 省悟
有田市立病院小児科

Bowlbyは乳幼児の脱愛着を観察し,それが母子分離と対象喪失に由来することに注目した.一方,現代の愛着理論は着眼点をむしろ虐待に代表される発達早期のトラウマへ移している.そこでは脱愛着の本質は,愛着行動における混乱や葛藤であるとみなされている.しかしいずれにせよ,Bowlbyによる脱愛着の古典的定義や状態像はそもそも解離と重なり合うところが多い.本稿では,愛着行動をストレス反応/情動制御システムとしてとらえ,脱愛着や解離のメカニズムを文献的に考察した.乳幼児期解離の基本パターンは初期警戒反応に始まる情動の二相性変化(初期活性化相とそれに続く不活性化相)と,それに連動したカスケード反応であると考えられた.乳幼児期の解離関連症候には迷走神経系の関与が大きいと思われた.早期トラウマの予後の多様性を理解するためには,神経学的階層論だけでなくダイナミック・システム理論からの接近が必要であると考えられた.


 周トラウマ期解離 ―その概念と変遷について―

栁田 多美
新潟大学教育人間科学部(教育心理学講座)

本論文では先行研究の展望により「周トラウマ期解離」の概念の概要を示した.周トラウマ期の解離とは,トラウマ体験の“最中および直後”に起こる解離のことで,今日までに多くの研究において,その後のPTSDを予測することが指摘されている.  しかし実際にこの時期の解離がPTSDの有効な予測因子となるかについては,様々な意見が存在し,現在も議論が続いている.また最近では,周トラウマ期の苦痛およびパニックが,トラウマ体験時の解離の発現とその後のPTSDを予測する可能性が指摘されるようになった.そのためトラウマ体験時の反応において,解離にのみ重点的に向けられていた注目が,苦痛およびパニックの反応にまで拡大している.


 わが国における解離性同一性障害 ―その成因についての一考察―

岡野憲一郎
国際医療福祉大学精神科

わが国の多くの臨床家はいまだに解離現象に当惑の念を抱くことが多い.それを理解し取り扱うことに困難さを感じるからだ.他方欧米においてはすでに解離性障害の成因に関しては,それが主として幼児期の性的,身体的虐待であるということがかなり定説化している.しかし筆者は自身の臨床体験から別の可能性を考える.なぜなら日本における筆者の解離性障害の症例のほとんどが,明らかな幼少時の虐待の経歴を有しないからだ.そのかわり彼らは幼少時より親,特に母親と,愛情と過剰な期待におしつぶされるような非常にストレスに満ちた二重拘束の関係にあったという場合が多い.筆者はこれを独自のタイプの虐待と考え,「関係性のストレス」と名づけてその社会的,文化的な意味合いについて論じた.


内と外からみた解離の外傷

柴山 雅俊
東京大学医学部精神神経科

解離性障害における外傷体験を周囲環境からの外傷(外部要因)と外傷を受ける小児期の特徴(内部要因)といった内部と外部の観点から考察した.解離性障害の生育歴に多くみられ,かつ自傷傾向を促進させる外傷体験としては,家族内外傷では両親の不仲,離婚であり,親からの虐待があげられる.また家族外外傷では学校でのいじめや性的外傷体験,交通事故などが注目され,解離を起こしやすい外傷状況について考察した.次に,小児期の特性としてWilsonらの空想傾向を紹介し,気配過敏症状,幻視,離人症状,夢中自己像視など小児期の主観的体験について報告した.そこに表象と知覚を混同する傾向を指摘し,さらに近接化と遠隔化の構造についても考察を加えた.


[原 著]日本語版外傷後ストレス診断 尺度作成の試み
―一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性の検討―

長江 信和*1,2・廣幡小百合*3・志村 ゆず*3・山田 幸恵*4
Edna B. Foa*6・根建 金男*4・金 吉晴*2

外傷後ストレス診断尺度(PDS)は,DSM―IVのPTSD診断基準に準拠して作られた成人用の自己報告尺度である.本研究では,日本語版のPDSを作成し,一般の大学生を対象とした場合の信頼性と妥当性を検討した.2週間間隔の再検査調査を行い,また,PTSD臨床診断面接尺度の判定結果を目標として,PTSD判定の一致度,および,感度・特異度の検討を行った.その結果,PDSには,学生を対象とするPTSDのスクリーニング尺度として,許容できる高さの信頼性と妥当性を認めることができた.ただし,PTSD診断基準Aの判定については若干の偽陰性が認められたため,適用上の注意点が示された.今後の課題としては,PTSDのハイリスク群においても妥当性検討を進めることが必要と考えられた.


[資 料]児童虐待問題における司法面接とは何か?

菱川 愛
東海大学健康科学部社会福祉学科

児童虐待問題における司法面接とは何か? この問いに対する答え方はいろいろとあると思うが,今回の資料は,2005年度9月19日から23日,米国,ヴァージニア州ポーツマス市において開催されたAmerican Professional Society on the Abuse of Children(APSAC)の40時間子どもの司法面接研修(Forensic Interview Clinic)および2006年8月7日から11日,米国,オレゴン州ポートランド市にあるCARES Northwest(Child Abuse Response and Evaluation Services北西部管轄)における初任レベルの研修,さらに2006年度神奈川県児童相談所においての実践を基に現在司法,社会福祉,保健医療などの分野で子どもの臨床に携わる人々から寄せられている司法面接への関心に応えようと,まとめたものである.


[資 料]PCIT(Parent-Child Interaction Therapy) ―親子のための相互交流療法について―

正木 智子*1・栁田 多美*2・金 吉晴*3・加茂 登志子*1

*1 東京女子医科大学附属女性生涯健康センター
*2 新潟大学教育人間科学部
*3 国立精神・神経センター精神保健研究所

現在,筆者らの所属する東京女子医科大学附属女性生涯健康センターには,多くの女性が何らかの被害経験をきっかけとした精神症状を主訴として通院している.特にDV被害を受けた女性は,子どもと同居している場合が多い.このため,当事者の対応のみならず子どもへの治療的介入が必要に迫られている状況である.
本稿では,全米でDV被害を受けた母子に有効とされているフロリダ大学Sheila Eyberg教授らのグループにより開発されたPCIT(Parent-Child Interaction Therapy:親子のための相互交流療法)について紹介するとともに,このプログラムを国内に導入するための留意点と課題について考察を加えた.

 

バックナンバーの入手について

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(株)金剛出版 出版部 「トラウマティック・ストレス」担当
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