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第3巻第2号(2005年10月20日発行)抄録集

子どもの外傷後ストレス障害(PTSD) -その歴史と概念の変遷-

廣常秀人*1,*2,補永栄子*1,斉藤陽子*2,小川朝生*3,大澤智子*2,小笠原將之*1,加藤 寛*2,井上洋一*4,武田雅俊*1

*1大阪大学大学院医学系研究科 精神医学
*2兵庫県こころのケアセンター
*3国立病院機構大阪医療センター
*4大阪大学大学院健康体育部 学生相談室

何らかの心因を契機として精神的変調をきたすという議論は,精神医学・臨床心理学にあって古くからの最大関心事の一つであり続けてきた。一方,トラウマとなる事象を診断基準の上に措定し,一定の記述的症状を認めるものを外傷後ストレス障害(PTSD)とした診断概念の歴史は新しい。子どものPTSDが実証的研究の対象となったのはここ20年余とさらに新しい。さまざまなトラウマに対して再体験・侵入症状,回避・麻痺症状,過覚醒症状という3つの中核症状が共通して認められることについては合意が得られてきたが,何をもって外傷的出来事とするのかについて(基準A問題)は,PTSDという診断基準が定義されたときから常に議論の的となり続けてきた。子どもの場合,「発達」という問題が加わりPTSDの概念が一層複雑なものとなる。日本での「子どものPTSD」に関する総説はまだ多くはなく,子どものPTSD研究の歴史,子どものPTSDに関して基準A問題や「発達」の問題を含めた診断概念,疫学,経過・予後に関して概説した.


 子どもの心的外傷反応の評価・診断 ―主に単回性外傷体験の評価について―

斉藤陽子*1,酒井佐枝子*1,後藤豊実*1,廣常秀人*1,*2,加藤 寛*1,中井久夫*1

*1兵庫県こころのケアセンター
*2大阪大学大学院医学系研究科精神医学

発達途中の子どもが体験した心的外傷の正確な評価を行うことは,その後の援助の方向づけに不可欠なものである。わが国においても,子どもの外傷反応を評価する研究が重ねられているが,信頼性・妥当性のデータが未発表であるなどの不足点がみられるのが現状である。今回筆者らは,主に単回性外傷体験の評価について,欧米の先行研究を概観し,非構造化面接,構造化面接に分けて妥当と考えるところを縮約した。さらに,欧米において頻繁に利用されている17の尺度を選定し,そのうち,日本語版作成が試みられている尺度5つ,現在筆者らが日本語版を作成している尺度1つを中心に紹介する.


子どものトラウマとストレスマネジメント

冨永良喜*1,高橋 哲*2

*1兵庫教育大学大学院学校教育研究科
*2兵庫県スクールカウンセラーアドバイザー

トラウマティック・ストレスに対するストレスマネジメント教育の内容は,トラウマの心理教育,トラウマの自己査定,そして効果的な対処スキルの習得である。台風災害後の小学校と津波被害を受けたスリランカとアチェの教師に,ストレスマネジメント・プログラムを実施した。プログラムは,日常のストレスを表情絵を用いて考えることからはじめ,次に子どもが理解できる言葉でトラウマ反応を説明した。さらに,その反応に人は対処できることを強調した。そして,眠るためのリラックス法,落ち着くためのリラックス法,絆の大切さのワークを提案した。いずれの参加者も,ストレスマネジメント・プログラムを好意的に受け容れ,積極的に取り組んだ。宗教と文化とストレスマネジメントとの関連が考察された.


子どもの単回性外傷を再考する

紀平省悟
有田市立病院小児科

小児期単回性外傷についてのPynoosやTerrの研究は有名であるが,本邦では犯罪事件や災害などを含めても年少児における単回性外傷の発達的研究は多いとはいえない。今回,小児科の一般外来を訪れた年少児の心的外傷事例を参照しながら,外傷性記憶や解離症状の発達的基盤を考察した。Schoreの理論的モデルにしたがうと,小児期解離は感情調節機能の逸脱を背景に起きる症状であると解釈できた。また乳幼児例に見られたstillingについてPutnamの離散的行動状態モデルとSchoreのモデルの両方から検討した.


腸管出血性病原性大腸菌O157集団発症によるPTSDの長期観察例-PTSD症状とそのほかの症状の変遷

長尾圭造*1,進藤英次*2,奥野正景*2

*1独立行政法人国立病院機構榊原病院精神科
*2医療法人サジカム会三国丘病院

近年ドメスティック・バイオレンス(DV)に対する体系的な防止策を推進し始めた国では,いずれにおいても犯罪として対処しており,特に北米では厳罰主義で臨んでいる。加害者更生プログラムは裁判所からの命令に基づいて行われ,プログラムの連続欠席や,期間中の再犯(再暴力)は,即刑務所への収監を意味する。筆者らが実際に現地でグループワークに参与観察した経験からは,認知行動療法や心理教育の方法論を全面的に取り入れた内容であることが,よく理解できたので,少なくとも自主的に参加を表明した男性で行うことは,困難ではないと思われた。DV被害者に対する支援制度が今後充実していくならば,被害者支援の一貫としての加害者更生プログラムという視点は,いずれとり組む課題となるであろう.


海上保安官における惨事ストレスならびに惨事ストレスチェックリストの開発

廣川 進1)・飛鳥井 望2)・岸本淳司3)
1)海上保安庁惨事ストレス対策アドバイザー,大正大学人間学部
2)東京都精神医学総合研究所ストレス障害研究部門
3)東京大学大学院医学系研究科クリニカルバイオインフォマティクス研究ユニット

感染症(腸管出血性病原性大腸菌O157)の集団発症によりPTSDを発症し,その後現在(2005年8月)まで9年間に亘る観察例を報告した。経過の特徴は,

  1. 症状は増悪と寛解を数回繰り返しつつ,かつ横断的には異なる状態像を呈する。
  2. 長期に一貫しての所見は対人関係能力・社会適応能力の低下であった。
  3. 横断的状態像は初期は急性期PTSD症状が,その後は気分障害(うつ)・不安障害が2回(1年間と9カ月間),不潔恐怖・うつが1回(1年9ヶ月間)出現した。
  4. 急性期症状は減衰し,恐怖の原因は忘れ去られ変質し,うつや不安は一見原因疾患と関連が乏しくみえる。
  5. 介入法としては経時的には継続的支援が,横断的には症状増悪時の精神医学的介入が必要であったが,重要なことは本人の克服力であった。回復困難例も,時間をかければ年齢相応の人格課題に直面し,正常体験を取り戻し発達する.

外傷的死別におけるPTSD

白井明美*1,2,木村弓子*2,小西聖子*3

*1国立精神・神経センター精神保健研究所 成人精神保健部
*2武蔵野大学心理臨床センター
*3武蔵野大学人間関係学部

外傷的死別者の精神健康を把握するために49名の犯罪被害者遺族を対象にCAPS,BDI-II,Inventory of Traumatic Grief(複雑性悲嘆尺度)を施行した。生涯診断PTSD者は37名(75.5%)であった。
死別からの経過期間が3年未満の群は3年以上の群より侵入症状が高得点であった。またPTSD群は非PTSD群よりPTSD,抑うつ,悲嘆に高値を示した。
回避症状,過覚醒症状と抑うつ,悲嘆に有意な相関が示された。用いられた3つの尺度から,共通する質問項目を除外しても,なお回避―うつ,回避―悲嘆の相関が示された。
侵入症状は抑うつや複雑性悲嘆との関連は見られず,PTSDに固有な症状であり時間経過と共に減少することが確認された。回避症状は遷延化し抑うつや悲嘆を併発しやすいことが示された。回避症状を治療する際は根底の喪失の否認としての回避や,死者のとらわれ,思慕による探索行動に留意する必要がある.


【症例報告】交通事故を契機に発症したPTSD女児例

福地 成*1,前垣 よし乃*2,氏家 武*2

*1宮城県立精神医療センター精神科
*2医療法人社団 北海道こども心療内科氏家医院

交通事故によるPTSDの女児とその家族への治療経験を通じて,単回性の心的外傷による症状の呈し方が生活環境や年齢によって異なることを考察した。家族5人で乗車中の交通事故であり,外傷の程度こそ異なるものの,各々が呈した症状は異なっていた。積極的な治療を要したのは長女のみだったが,他の家族が発症する危険も考慮して,通院のたびに母親から症状について確認を行った。長女の治療を中心に論じ,家族全員の症状の違い,事故前・事故直後・事故後の要因について要約し考察を行った。年少児では,一時的な不眠・悪夢,夜尿,母親への身体接触の増加などの退行現象が主に認められた。母親は全く症状を呈することなく経過した。兄弟の中で最年長である長女のみがPTSDと診断され,医療的介入を要した。長女のPTSD発症には,事故前の同胞葛藤や事故後の生活環境の変化が関わっていると考えられた。PTSDの発症を予防するには,早期介入と周囲の動揺を最小限に抑えることが重要と考えられた.


【資料】PTSD治療に関する会員アンケート調査報告 PTSD治療に関する検討委員会

飛鳥井望*1,冨永良喜*2,笠原麻里*3,廣常秀人*4,元村直靖*5

*1東京都精神医学総合研究所・社会精神医学研究分野
*2兵庫教育大学・発達心理臨床センター
*3国立成育医療センター・こころの診療部
*4大阪大学大学院医学系研究科・精神医学
*5大阪教育大学・学校危機メンタルサポートセンター

「PTSD治療に関する検討委員会」では,2004年9~10月に医療・心理・保健福祉専門職の会員を対象として「PTSDの治療とケアに関する実態調査」をインターネット上で実施した。その結果,PTSD事例に対するこれまでの治療内容では,支持的精神療法(80%),心理教育(75%),薬物療法(62%)ストレスマネジメント技法(48%)等が広く行なわれていた。一方今後習得したい治療技法としては,認知行動療法(50%),ストレスマネジメント法(41%),EMDR(32%),集団療法(グループケア)(30%)の順に多く,これは医師と心理職でほとんど違いはなかった。医師会員がこれまで使用したことのある薬剤は,パロキセチン82%,抗不安薬82%,睡眠導入剤80%,フルボキサミン76%,抗精神病薬63%,他の抗うつ薬54%の順であった。また現在第一選択の主剤としてもっともよく使用する薬剤は,パロキセチン63%,フルボキサミン19%と8割以上の医師がSSRIを主剤としていた。本調査の結果,PTSDの精神療法については認知行動療法などエビデンスの得られている技法を習得したいという声が大きかった。また薬物療法ではSSRIがすでに広く使用されていることがあきらかとなった.

 

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