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第1巻第1号(2003年2月20日発行)抄録集

トラウマのケア -治療者、支援者の二次的外傷性ストレスの視点から-

小西聖子(武蔵野女子大学人間関係学部)

生物化学兵器を用いたテロリズムは、多数の人々に著しい恐怖をもたらす。生物化学兵器は強力な殺傷能力を持ち、特に生物兵器は、無臭で潜伏期がある上に、他者に感染しうる。そのため、たとえ実際に兵器が使用されなくとも、「使われたかも」という恐怖だけで心理的・行動的反応を引き起こしうる。過去の事例では、曝露されていない人々までが反応して医療機関に殺到し、本来の負傷者以外に「心の」負傷者が大量発生したことが報告されている。 よって、生物・化学テロリズム発生時には、大衆に向けて正確・迅速な情報を伝えることが求められる。適切なリスク伝達は各自の不安緩和に有用であり、混乱や流言など、集団レベルでの心理反応をも予防しうる。 このため、精神保健専門家には、テロ発生時の負傷者の選別、地域における事前教育・研修を通じた行政機関・他領域の専門家との連携など、従来の役割を越えた公衆衛生的見地からの役割が求められる.


 心的外傷を抱えた患者から学ぶこと

田中究(神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学分野)

心的外傷を受傷した年齢、その期間や重篤度などによって、患者の社会的職業的機能、対人関係機能、回復像を持てるかどうかなどが異なり、これらに応じて治療法の選択が重要となる。この障害の範囲が狭い患者では心的外傷記憶の認知再構築法は非常に有効であるが、障害が広範囲に及ぶ複雑性PTSD・他に特定されない極度のストレス障害(DESNOS :disorders of extreme stress not otherwise specified)の患者では現在を中心とした力動的精神療法が安全である。震災によるPTSD、小学校時代の性被害による恐怖症、児童虐待によるDESNOSの3症例を教示例として、外傷性精神障害患者の治療について報告し、患者はHermanの述べた回復過程をさまざまな形でたどるが、特に患者が持つ内的資源および外的資源、あるいはこれらへの気づきが患者を回復へと向かわせることを述べた。また、患者-治療者関係はDESNOSの患者において、相互に精神病水準にまで退行することがあるが、患者の持つ向日性によって治療が導かれていくことを示した.


心的外傷患者に対する入院治療の有用性:複雑性PTSD症例の治療経験から

丸岡隆之・前田正治・山本寛子(久留米大学医学部精神神経科)

本論では、久留米大学病院精神科急性期治療病棟において、主に入院集団療法的アプローチが、PTSD患者の治療に貢献するであろうことを、症例を提示し報告した。症例は、幼少時期に父親からの身体的虐待を受けた33歳男性である。当初患者は、入院という集団状況の中で退行し、患者自身の心的内界をほかの患者やスタッフに投影し、怒りや恐怖感を表出させたが、自分でも何故そのような心情に至るのか理解できなかった。精神力動的なあるいは認知行動療法的ないくつかのグループセッションが導入され、その中で患者は、自身の感情を理解できるようになり、障害の受容や、いまわしい過去を克服し「喪の作業」の過程を機能させることに成功した。入院環境が安全な場所として機能されており、患者の再演された経験に対して有効な関わりを提供し得たならば、PTSD患者の入院治療は効果的で意義深いものになるであろうことを明示した.


交通事故の精神的後遺症

藤田悟郎(科学警察研究所)

交通事故の加害者60人、重傷を負った被害者493人、遺族418人の精神的後遺症を質問紙調査により調べた。加害者、重傷被害者、遺族のいずれにも、再体験や回避などのPTSDに特有の症状が見られた。GHQ20のカットオフポイント以上の被験者は、遺族の76%、重傷被害者の60%、死亡事故加害者の48%であった。加害者は、事故前後における生活環境の変化が少ないために、精神的後遺症の回復が早いと考えられた。重症被害者は、経済的困窮や身体的後遺症などの問題が事故後に存在すると、精神的後遺症が残りやすかった。死別後もトラウマを体験し続ける遺族の場合、精神的後遺症の回復が遅かった。また、悲嘆、精神健康、PTSDの間の相関が高かった。交通事故の体験者には、PTSDに特有な症状が見られるものの、ライフイベント発生時の恐怖や無力感により精神的後遺症が生じるというPTSDの基本モデルだけでは、交通事故の精神的後遺症をうまく説明できないと考えられる.


CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)日本語版の尺度特性

飛鳥井望(東京都精神医学総合研究所ストレス障害研究部門)
廣幡小百合(国立精神神経センター精神保健研究所)
加藤寛(兵庫県ヒューマンケア研究機構・こころのケア研究所)
小西聖子(武蔵野女子大学人間関係学部)

【目的】
PTSD構造化面接尺度として各国で使用されているClinician-Administered PTSD Scale for DSM-IV(CAPS) の日本語版の尺度特性、ことに信頼性と妥当性を検証した。

【方法】
一般工場従業員21名(調査1)、心理臨床センターのクライエント14名(調査2)、阪神淡路大震災被害者13名(調査3)を対象として、それぞれ2名の評価者が同席面接し、独立してCAPS面接評価を行った。調査1では別にSCID臨床診断を行った。

【結果】
評価者間のPTSD診断の一致は、κ=.86-.93であり、十分な信頼性が確かめられた。また精神科医SCID診断との一致は、κ=.82および.87であり、十分な妥当性が確かめられた。現在診断における重症度指標となる総得点の相関係数は.99と高く、優れた信頼性が示された。またB、C、D各症状項目には十分な内部一貫性が確かめられた。

【結論】
CAPS日本語版は、専門職が一定のトレーニングを受けた上で使用すれば、高い評価者間信頼性と臨床診断としての妥当性が得られる尺度である。


地下鉄サリン事件被害者の後遺症、とくに心的外傷後ストレス障害に関する研究
-対照群との比較検討-

石松伸一(聖路加国際病院 救急部)
松井征男(同 副院長)
川名典子(同 リエゾン精神看護師)
玉木真一(同 予防医療センターマネージャー)
菅田勝也(東京大学大学院看護管理学助教授)

地下鉄サリン事件被害者の後遺症、特に心的外傷後ストレス障害の実態を把握するために被害者群と対照群の2群に対してアンケート調査を行った。その結果「だるい」という訴えは20歳代、40歳代、60歳代で、「疲れやすい」は20歳代と40歳代で対照群に多かった。一方、「息が苦しい」と「突然心臓がどきどきする」という症状は60歳代で被害者群に多かった。目の症状では「近くが見えにくい」は30歳代で、「目の焦点を合わせにくい」は20歳代で対照群に多く、「目の異物感」は40歳代で被害者群に多かった。精神症状ではフラッシュバックの症状が全年代で被害者群に多く、また「現場に近づくことに恐怖がある」は30歳代、50歳代で、「落ち着かない、いらいらする」は40歳代で被害者群に多かったが、「興味がなく、無感動」という症状は60歳代で対照群に多かった。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)のスクリーニングに関しては3つの診断基準(DSM-IV、Partial, Masked)とも被害者、非被害者間で差を認めたが特徴的な身体化症状は明確にならなかった。今後は対象者の背景、年齢、性別も加味したスクリーニング方法を検討する必要性がある。


性暴力被害者への早期介入 -ある民間被害者支援団体の相談事例の分析から-

中島聡美(常磐大学コミュニティ振興学部)
正木智子(被害者支援都民センター)

T民間被害者支援センターに面接相談に訪れた性暴力の被害者36事例を対象にその特徴について分析を行った。被害者はすべて女性であり、強姦及び強姦未遂が69.4%であった。被害から相談に訪れるまでの期間が1カ月以内の早期受診の事例は11例(30.6%)であった。このような被害から間もない時期に相談に訪れる事例に対して、早期介入を行うことは侵入症状や過覚醒の症状を軽減し、その後の感情や認知の障害を防止する上で重要である。


シェルター退所後に外傷後ストレス障害が顕在化したDV被害女性の1例

大塚佳子・氏家由里・加茂登志子(東京女子医科大学神経精神科)
症例検討会:
大塚佳子・加茂登志子(東京女子医科大学神経精神科)
大山みち子(武蔵野女子大学人間関係学部)
白川美也子(国立療養所天竜病院)

シェルター退所後に外傷後ストレス障害(PTSD)症状が顕在化したドメスティックバイオレンス(DV)被害女性(27歳)一例について報告した。症例は夫から3年間の身体的、精神的虐待を受けた後、シェルターに一時保護されていたが、保護中、IES-Rの高得点以外には、特に精神科的問題を認めなかった。しかし、退所後離婚手続きを機にPTSD症状が顕在化した。侵入症状、過覚醒症状以外に、弁護士や医師との約束を回避する症状も認めたが、これは人格問題と区別し難く注意が必要である。平成13年10月に施行されたDV防止法はまだ十分浸透してはいない。PTSDや心身健康状態の経過を評価するのにIES-RやGHQ-28といったスケールを用いたが、後者の方が症例の臨床的精神状態をより正確に反映していた。わが国でもDV被害者のサポートシステムはまだ不十分であり、精神科医療を含む多くの分野での理解がさらに必要である。

 

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