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JSTSS 学会誌

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第6巻第1号(2008年2月発行)抄録集

【特集】子どもの虐待

性的虐待のトラウマの特徴

杉山登志郎
あいち小児保健医療総合センター心療科

あいち小児保健医療総合センターにおいて治療を行った被虐待児700名とその親120名について,性的虐待の症例とそれ以外の症例の比較を行った.性的虐待の症例では,児童においては平均年齢が有意に高く,併存症としては反応性愛着障害,解離性障害,PTSD,非行のいずれも有意に多く,特に解離性障害は87%に併存が認められた.男女の比較では,性的虐待の女児でPTSDが有意に多いのに対し,男児において非行や性的加虐が有意に多く認められた.親のうち39.2%に性的虐待か重度の性的被害が認められ,DVの被害,PTSD,解離性障害,非行の既往のいずれもそれ以外の親より有意に多いことが示された.この親子の資料から,性的虐待のトラウマが重症の精神科的症状に結びつき,特に解離性障害の併存が大きな問題であることが示された.性的虐待に対応するため,園や学校による予防,早期発見のシステム構築,また性的虐待ケアセンターの創設が必要であることを提言した.


 被虐待乳幼児に対するトラウマ治療と愛着治療

青木 豊
相州メンタルクリニック中町診療所

乳幼児虐待は本邦における精神保健の重要な課題の一つである.また虐待特異的な乳幼児期の精神病理は,外傷後ストレス障害(PTSD)と愛着の問題・障害であると考えられている.ところが乳幼児期のPTSDと愛着障害の研究は欧米においても診断・評価の研究は進んでいるものの,治療の研究は必ずしも多くない.わが国においてはこれら両病理について,すべての面で研究は遅れているといってよい.このような研究の現状を考慮し,本論文では以下の3つの側面について整理して,臨床の参考に資することを目的とした.すなわち,1)虐待によるトラウマの問題と愛着の問題との発生について,2)それぞれの病理の評価について,3)両病理の治療・支援戦略について―特に並存例について,の3側面である.治療・支援を行うには,個々のケースでトラウマと愛着の問題のそれぞれの重症度を評価する必要があり,さらにはこれら両病理が互いに深く関わっているとの理解も重要となる.次にそれら評価に基づいて,治療戦略―両病理に対しどういう順序で,どの機関の誰が治療・介入・支援を行うかなど―が立てられ実行される必要がある.


 幼児期後期から学童期の子どもの愛着とトラウマに焦点を当てた心理療法

西澤 哲
山梨県立大学人間福祉学部

虐待を受ける子どもの急増に伴い,社会的養護のサービスを受ける子どもたちの,反応性愛着障害などの愛着をめぐる問題が深刻化している.しかし,わが国においては,子どもの愛着をターゲットとした心理療法はほとんど行われていない現状である.そこで今回,5事例を対象に子どもとその養育者が同席して実施するプレイセラピーを実施した.その結果,養育者と子どもとの関係に一定の改善が認められた.


被害体験を持つ虐待的な親への介入・援助―アタッチメントの観点を中心に―

森田 展彰
筑波大学大学院人間総合科学研究科

本稿では,子ども虐待やドメスティックバイオレンスの被害体験を受けた親による虐待行為の心理的メカニズムを,アタッチメント理論をもとに論じた.こうした親とその子どもでは,解体したアタッチメントの表象を持つ場合が多く,それをもとに「役割逆転」パターンを示しやすい.養育者と子どもの関係性に関する認知の歪みを変化させ,肯定的なペアレンティングを促進するためには,どんな種類の介入が有効かということについて論じる.そうした目標を達成するためには,治療者との修正的なアタッチメント体験による解体した内的ワーキングモデルの修復,敏感性に関するスキルトレーニング,有害な親の行動に対する認知行動療法が必要である.特に重篤な虐待事例に対しては,心理学的な治療のみでなく,法的な枠づけが統合的に施行されることが必要である.


虐待の後遺症―特に性犯罪者における被虐待体験を中心に―

小畠 秀吾
国政医療福祉大学大学院臨床心理学

被虐待体験が犯罪行動傾向とくに性犯罪行動におよぼす影響について,文献と自験例に基づいて論じた.性犯罪者はしばしば虐待的な生育歴を有しており,身体的暴力やネグレクトによる対人関係の不安定さや自己イメージの混乱,性的虐待に由来する性イメージの混乱などが性犯罪に影響する.最後に,そのような加害者を治療する際の,被虐待体験の扱い方について私見を述べた.


【原著】児童期中期から青年期前期の慢性反復性トラウマ反応把握の試み―児童養護施設児を対象として―

出野美那子
大阪大学大学院人間科学研究科

本研究では慢性反復性トラウマ反応の視点から,児童期中期から青年期前期の行動を把握することを目的として,児童養護施設で生活する小学4年生~中学3年生206名を対象とし,担当職員101名に回答を依頼した.無記名の質問紙法により子どもの心理・行動特性について回答を求めた.慢性反復性トラウマ反応に該当する43項目について,探索的因子分析,ステップワイズ因子分析を行った結果,29項目について「攻撃性」「回避と孤立/対大人」「衝動調節困難」「反社会的行動」「愛着行動の希求と回避」「回避と孤立/対他児」の6因子が抽出された.「回避と孤立・対大人」以外の5因子において高い適合度が得られ,因子的妥当性と信頼性が確認された.本研究によって,保育者からの評定によって子どもの行動を慢性反復性トラウマ反応の一側面から実証的に捉えられる可能性が見出された.


【総説】暴力的死別による複雑性悲嘆の認知行動療法

飛鳥井 望
東京都精神医学総合研究所

事故,殺人,自殺など暴力的死別による遺族の悲嘆にはPTSDを伴う割合が高く,遷延化,複雑化,難治化しやすい.これまで悲嘆を対象とした治療的介入研究は多く行なわれてきたが,有効性を証明されたのは認知行動療法のみである.複雑性悲嘆治療(CGT)(Shear, K.)は二重過程モデル理論に則り, さらにPE療法(Foa, E.)の技法を取り入れた折衷的認知行動療法技法である.筆者はCGTを一部修正し被害者遺族の治療を試みてきた.本稿では暴力的死別による複雑性悲嘆の認知行動療法について解説する.


【総説】認知処理療法

堀越 勝*1・福森 崇貴*2・樫村 正美*1
*1 筑波大学大学院人間度総合科学研究科
*2 つくば国際大学産業社会学部

認知処理療法(CPT)は,PTSDに特化した12セッションのプロトコール式の認知行動療法である.効果研究の結果,また米国の復員軍人病院での採用などによって注目されている.筆記を用いて曝露や宿題,PTSDに関連する5つの認知的こだわり点を中心に介入を行う点,個人だけでなく,グループを対象に実施可能である点などが特色としてあげることができる.本稿は,CPTの理論的背景,各セクションの大まかな概要などを述べたものである.


【臨床報告】救命救急センターに搬送された夫に面会する妻と看護師のかかわりの一事例

田中 晶子
昭和大学保健医療学部看護学科

精神診断基準DSM―ⅣではPTSDの原因の一つとして,危篤となる重傷を負うような出来事があげられいる。救命センターに搬送された患者の家族は上記PTSD原因の範疇になると考えた。本稿では突然意識を失った夫に寄り添い,救命センターに入院した妻の心理的葛藤に焦点をあて,参加観察法とインタビューから,夫へのかかわり,思いや感情を表現している部分を時間軸で整理した。その結果,夫が意識を取り戻した時に妻は動揺し,筆者に秘密を打ち明けずにはいられない状況になった。そのとき筆者は,妻に肯定的な声かけを行い,妻は安堵した面持ちになったが,翌日以降体調を崩し面会に来られなくなった。このことから面会を重ねるうちにトラウマ反応が悪化したのではないかと考えた。生死をさまよう患者とかかわる家族のなかには,自責の念を強め,自らの心の傷を深くしている場合があることを考慮に入れたかかわりが必要になると考える.


【臨床報告】

事例報告の意味
大山みち子*1,2
*1 武蔵野大学人間関係学部
*2 広尾心理臨床相談室

事例報告は,体験を客観化し考察する助けとなる.提出を前提とする態度も,臨床活動をより冷静にする.効果研究の発展のためにも,治療法の知識・実感のある把握が必要であり,他者の事例報告を知ることが必須である.トラウマ研究においては,個別性は重要である一方で,同定のおそれがあり情報提供の制限を強くせざるをえない.しかし事例をより理解し,援助者の傷つきを防ぐためには,個別性の理解は必要であり,これらのジレンマを乗り越える工夫も事例理解の一助となる.


【資料】専門職者による性的不適切行為(PSM)を防止する

ヴァーナー・チャン*1
訳者 熊谷 珠美*2
監修 宮地 尚子*3
*1 Course Program Director at Zurich University “Intervention and Prevention of Sexual Violence”
*2 八王子市男女共同参画センター
*3 一橋大学大学院社会学研究科

専門職者による性虐待は,「ヒポクラテスの誓い」にも記載されているほど,よくある現象です.被害者は,二重の意味でトラウマを受けることになります.第一に,彼らは助けを必要としている立場におり(例:患者),つまり傷つきやすい状態にあります.第二に,加害者はその職権を濫用し,クライアントが寄せてくれている信頼を悪用するのです.そもそも医師やその他の専門職者たちは,その職務において,クライアントにとって最善のことを行い,そして損害を与えないことに全力を尽くすべき立場の人たちなのです.  専門職者という役割やその職務が何であるかを理解する際に,境界線という概念が役立ちます.PSM(Professional Sexual Misconduct:専門職者による性的不適切行為)とは,専門職者がその専門家としての役割の中で行う,あらゆる形の性虐待のことを指します.境界線を越えて,侵害していく過程は,やがて〔スリッパリー・スロープ(滑りやすい坂)〕とよばれる現象を引き起こしていきます.  筆者は,具体的な介入方法や,この問題の防止のためにできるいくつかのアプローチについても述べたいと思います.

 

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