JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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  第7回大会シンポジウム
シンポジウムB:児童をめぐるトラウマ
『被虐待児童の施設ケアー福祉と医療の連携ー』


座長:
・藤林武史(福岡市こども総合相談センター)
・山下洋(九州大学病院精神科)


【演題】
「情緒障害児短期治療施設におけるトラウマ治療」
宮田雄吾(情緒障害児短期治療施設大村椿の森学園、医療法人カメリア大村共立病院)
「児童自立支援施設における被虐待児に対する支援・治療」
相澤仁(国立武蔵野学園)
「子ども虐待対応における治療的環境について」
山下洋(九州大学病院精神科)
 
 
 

 
 
■総評: 藤林武史(福岡市こども総合相談センター)
山下 洋(九州大学病院精神科)
 

子どものこころのケアにおいて、反復する暴力や心理的脅かしや基本的欲求の無視による安全感の剥奪など深刻な外傷ストレスに曝された子どもへの治療はもっとも重要な課題である。心的外傷から生ずる多様な問題へのマネージメントは福祉、医療、教育など各分野の協働のもとではじめて可能になる。なかでも継続的なケアの現場での治療的環境の整備の方向性については、現実的で多様な視点からの検討が必要と思われる。そこで本シンポジウムでは精神科医療施設を隣接させている情短施設という医療と福祉双方の治療機能を備えた施設、及び、精神科医や心理職は常勤職員としているものの、基本が夫婦小舎制の児童自立支援施設では、どのような治療的環境づくりの配慮がなされているか、その現実と課題についてお話頂いた。また英国での里親を中心に階層化したケアシステムを目指している現状と、インテンシブな治療のニーズのある子どもの受け皿となっている治療共同体を紹介した。

全体討論では人員配置やコストなど実践的問題の確認がなされた。また治療共同体という用語について、非行などの当事者が設立運営する欧米のコミューン的な施設との異同の指摘があった。どの治療施設をとってみても小人数ユニット化は共通する方向性であり、個別の細かい発達段階に応じたスモールステップでの移行が可能な治療構造が提唱されていた。また生活環境整備による基本的欲求の充足はもっとも基本的かつ重要な要素と考えられていた。

宮田は児童精神科医療施設に隣接している情緒障害児短期治療施設大村椿の森学園の入所児と治療環境について「幻想と現実」という切り口で総合的な分析を行った。入所する大多数の子どもは虐待によるトラウマをもち、経済的困難や家族機能不全などの逆境に置かれている。すぐにでもPTSDの治療をと想定するところであるが、臨床現場では外在化症状や愛着障害行動、軽度発達障害など行動障害と認知機能の制限への対応が喫緊の課題となる現状がわかりやすく示された。処遇経過中に半数近くが一時的に精神科病棟に入院し、約1割が統合失調症を発症していたこと、自閉症スペクトラム障害の子どもでトラウマを取り扱う際の陥穽など実際の臨床経験から、現実志向的な精神療法や医療の導入の必要性が指摘された。このような虐待を受けた子どもたちの個別の背景に加え暴力の再演を誘発しやすい集団力動を考慮して、パーソナルスペースの拡張と共に40人をさらに10人以下のユニット化することで空間的にもスタッフの関わりも構造化する工夫が提示された。

相澤は行動化の著しい非行児の治療的処遇に取り組んできた児童自立支援施設における、夫婦小舎制を中心とした小集団での家庭的ケアのあり方を提示した。処遇された子どもは平均して60%、多い施設では80%が被虐待児で、行為障害の初発年齢は低く、30%近くに発達障害が併存し、4割に精神科診断があり、著しい家族機能不全を伴うケースであるという現状が示された。行動障害への治療的対応として生活環境整備、とくに枠組みのある生活を通して情緒行動を制御する外的枠組みを体験しながら子どもの内的枠組みを育むという治療教育の基本が強調された。小さな問題が生じつつも、スタッフとの間や子ども集団で安定した対人関係の深まりを体験するために「被包感のある施設全体の雰囲気」というキーワードが示された。心地よさや温もりは愛着におけるもっとも基本的な感覚である。行動のマネージメントが求められる行為障害の臨床で、「炭火」のようなという比喩に示された愛着を育む基盤としての治療環境の重要性が示されていると考える。

山下も英国でのケアシステムにおかれた子どもたちの基本的ニーズの考え方の根幹にも愛着形成のプロセスが想定されていることを指摘した。英国ではより多くの大人による家庭的環境での養育を、里親制度を土台としたシステムの充実により具現化しようとしている。また英国内で15箇所近くある治療共同体でも36人の入所児(9人ずつが一戸建て全個室のユニットに生活する)に対し、108人のスタッフが一人当たり年間3000万円のコストをかけて治療・教育にあたるという国内では考えられない治療的環境を提示した。

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