JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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『虐待を受けた子どもの精神的問題と治療』
座長:
奥山眞紀子(国立成育医療センター こころの診療部)
西澤哲(大阪大学大学院人間科学研究科) )
 【演 題】
『虐待を受けた子どもの愛着の問題と自己調節の問題』
奥山眞紀子(国立成育医療センターこころの診療部)ほか
『虐待児に見られる解離性障害とその治療』
杉山登志郎(あいち小児保健医療総合センター)ほか
『虐待を受けた子どものプレイセラピー』
西澤哲(大阪大学大学院人間科学研究科)
『虐待を受けた子どもの入院治療』
笠原麻里(国立成育医療センターこころの診療部)
 
 

 
 
総評:大阪大学大学院人間科学研究科 西澤 哲
 
子ども虐待という現象は、単回性のトラウマに起因するPTSDとは異なった症状を子どもにもたらすと考えられる.そこで、本セッションでは、虐待を受けた子どものトラウマ関連症状をどのように把握し、どういった治療的アプローチが必要となるかを、四人の演者がそれぞれの職域での実践を踏まえたプレゼンテーションを行った。
 
奥山氏は虐待を受けた子どもの愛着障害に焦点を当てた報告を行なった。トラウマと愛着は裏表の関係にあり、愛着障害はトラウマを受けやすくするし、トラウマは愛着によって築かれた安心感を崩すことになる。また、愛着‐トラウマ問題を抱えている子ども達は、自己調節に問題を持つことが多いことも経験的に知られている。奥山氏は、某養護施設入所児と一般家庭児の愛着障害チェックリストと自己調節障害チェックリストを比較し、愛着障害および感情の自己調節の問題は養護施設群に有意に多く、養護施設群では愛着障害と感情の自己調節問題は相関が明確であるとの結果を得ている。一方で、睡眠や食事といった生理的な自己調節に関しては養護施設群と正常群では差は見られなかった。
 
杉山氏は虐待経験と解離性障害との関係について報告した。杉山氏が勤務する小児センターでは解離性障害の子どもおよび青年は1年余りで77症例を数え、そのうち74%は虐待の既往を、16%はそれ以外の外傷体験を持ち、両者ともに認められないものは1割程度に過ぎなかった。解離においては、意識の不連続のために、行動化が頻発する傾向が認められる。従って、治療を円滑に進めるには、治療構造や環境設定を丹念に行うことが必要不可欠である。杉山氏は、子どもにおける解離性障害には特異的に有効な治療手技や薬物療法は存在せず、経過としては螺旋状に軽快と再増悪を繰り返すために症状の変動は治療進展の指標とプラスに考える姿勢が重要であること、および、子どもが自己感覚を取り戻すまでには一般的に長期的な治療が必要であり、そのために医療を中心としたチームによる多岐的な治療が必要であることを強調した。
 
西澤は、虐待は慢性的なトラウマ体験を構成すると考え、いわゆるPTSDとは異なった症状形成が見られること、そのために虐待を受けた子どもの治療に関してはPTSDのそれとは異なったフォーカスが必要となることを中心に報告した。西澤は、虐待を受けた子どもへの心理的ケアを、1)怒りのコントロール障害を中心とした感情調整障害へのアプローチ、2)愛着の(再)形成およびトラウマ性の人間関係の修正を中心とした対人関係パターンの修正、3)自己及び他者イメージの修正、4)トラウマとなった体験を統合した自己物語の構成という四つの要素から捕らえている。こうした慢性的なトラウマを抱えた子どもへの心理治療的なアプローチを実施するには、単に狭い意味での心理療法や精神療法だけでは十分ではなく、子どもの生活レベルでのケアを治療的なものにする必要があると考えられる。
 
笠原氏は、虐待を受けた子ども16名の入院治療の経験に基づき、治療に必要な事項について検討した。診断はborderline child・境界型人格障害4名、適応障害3名、転換性障害、解離性同一性障害3名、行為障害2名、反応性愛着障害1名、選択性緘黙1名、摂食障害1名、PTSD1名であった。笠原氏は、虐待を受けた子どもの入院治療に必要な条件として、1)安全が確保されていること、2)治療環境に以下の資質が備わっていること<1>過敏性や対人関係の不安定性に対する調整が可能な環境(個室)を提供できること<2>対象恒常性を確立するための関係性を維持できるスタッフの技能と力量(スタッフのトレーニング)<3>精神的発達段階の課題を乗り越える体験ができること(仲間関係の自由度があること、院内学級における学習のサポート、レクなどを通して社会的体験がつめること)、3)治療にかかる費用の経済的裏づけ、4)各関係機関の連携・ケースワーク機能の充実を指摘した。
 
以上のように、本セッションでは、虐待を受けた子どもの治療において、愛着障害および解離性障害への接近が必要であること、また、治療技法としてはトラウマ体験に焦点付けした個人療法のほかに入院治療などによる環境療法的接近が必要となることが議論された。


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