本シンポジウムは、犯罪被害者等基本法の推進によって司法や地方自治体の被害者支援が進むなか、メンタルヘルスの分野でどのような取り組みがなされているかについて最新の研究について報告を行ったものである。犯罪被害者のメンタルヘルスの推進には、以下の点における研究が不可欠であろう。:
- 犯罪被害者等の精神健康とそれに関連する要因についての疫学・観察研究
- 精神医療・保健、心理の分野における犯罪被害者への治療や支援の取り組みの現状および問題の把握
- 治療および介入に関する臨床研究
- 治療および介入の現場への普及啓発プログラムの開発と評価。
本シンポジウムでは上記の4点のうち治療・介入の臨床研究以外の3つの分野においての主に実証研究についての報告をいただき、東京都精神医学総合研究所の飛鳥井望氏を指定討論者として討議を行った。
D-2-1 「交通事故負傷者の精神健康に関する縦断研究」松岡豊ら(国立精神・神経センター精神保健研究所)
本研究は、日本でははじめての交通事故負傷者における大規模縦断調査である。事故1ヵ月後のPTSDの事故直後に評価された予測因子として、「事故時の生命への脅威の感覚」、「高い心拍数」、「事故直後の侵入症状」があげられた。これらの因子は、救急の現場でPTSDのハイリスク者を同定し、フォロウする上で重要な因子である。飛鳥井氏やフロアからは、後遺症や認知もPTSDの予測因子として重要ではないかという意見があり、これらについては今後の研究でより明らかにする予定であることが述べられた。
D-2-2 「犯罪被害者遺族の精神健康に係わる要因の分析」中島聡美ら(国立精神・神経センター精神保健研究所)
殺人等の犯罪被害者を中心の対象とした遺族研究は数が少なく、本研究の対象者数は73例と少ないものの貴重な報告である。犯罪被害者遺族では死別後平均約8年経過した時点でもPTSD、うつ病、複雑性悲嘆のいずれかを抱えている対象者が31.5%であり、QOLの低下も見られた。疾患の存在に関連している要因として「二次被害の苦痛」、「回復力」、「否定的な認知」などがあげられることから、被害後の体験が精神健康の回復に影響を与えることが示唆された。フロアからは「死の否認」など死の受容などの要因の関連についても分析していく必要があることなどの意見があった。
D-2-3 「臨床心理士の犯罪被害者相談の実態」 大山みち子(武蔵野大学・広尾心理臨床相談室)
日本臨床心理士会に所属する臨床心理士994名を無作為抽出し、犯罪被害者相談の実態についてアンケート調査を実施したところ230名の回答が得られた(回収率30.5%)。約70%の臨床心理士が被害者の相談経験があり、児童虐待、性的暴力、配偶者間暴力の被害者の相談が多かった。また、被害者の相談や支援に関心を持っている人の割合が高い一方で、司法関係や他機関の情報の不足を感じている人も多いことが明らかにされた。また飛鳥井氏からは、米国の調査でも同様の結果があり、現場で実践できるような研修のあり方が求められている点についてコメントがあった。
D-2-4 「精神保健福祉センターにおける犯罪被害者支援の取り組み −相談マニュアル等−」 山下俊幸(京都市こころの相談健康増進センター)
本研究は、演者らが昨年本学会で発表した精神保健福祉センターにおける犯罪被害者相談の実態研究の結果に基づいて作成した「犯罪被害者支援のための地域精神保健福祉活動の手引き」についての報告である。この相談マニュアルでは、被害者の心理と対応の基本に加え、被害者支援に関連する法規、支援団体、司法関連の情報が含まれている。今後はこのマニュアルをもとに、地域の被害者支援NPOと連携するなど地域での被害者支援の実践を検討していく予定であることが発表された。飛鳥井氏とフロアから、被害者がまずかりつけの医師などに相談することが多いことから、地域の医療関係者との連携の重要性についての意見が出された。
本シンポジウムでは、被害者の精神健康についての実態および、現在の相談状況の実態の把握に焦点が置かれた。今後はフロアや指定討論者からの意見にもあったように、このような実証データを基にした治療や予防、支援プログラムの開発・普及に向けた研究の推進が求められている。
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