平成16年は自然災害の多発した1年であった。死者・不明者の出た災害は11事例で、合計300名を超える被害者があったことになる。これらの災害後の精神保健活動は、多くの場合には直後から取り組まれたといわれているが、その詳細はあまり報告されていない。ここでは、筆者が直接関与し情報を得られた4事例について、精神保健活動の内容の概要をまとめた。
(1)新潟・福島水害(平成16年7月12日〜13日)
新潟県は直後から、精神保健担当課が情報を収集し、19日に最初の会議を開催した。そこで精神保健や医療に関係する県内の機関で構成される「こころのケア対策会議」の設置が決定された。具体的な活動としては、三条健康福祉環境事務所に拠点を置き、専門家の派遣、啓発のための配布物作成、および精神健康に関するスクリーニングの実施を取り組むこととなった。さらに、新潟市の新潟県精神保健福祉センター内にホットラインを設置することも決定された。なお、この会議には兵庫県こころのケアセンターから医師と保健師が招聘され、阪神・淡路大震災後の体験をもとにアドバイスを行ったほか、啓発パンフレットの作成の援助をした。活動は7月23日から開始され、当初の2週間は地元の保健所、県立精神保健センター、および県立精神医療センターがアウトリーチを展開した。2週目以降は被災した市町からの依頼を受けて、PTSDおよびうつ症状のスクリーニングも行った。この時期からは民間の精神病院が協力する体制も取られるようになり、2か月間で46名の個別相談を受理している。また、被災者支援の重要な担い手である保育士、ケアマネージャー、老健施設職員、民生委員などを対象とした研修会が数多く行われた(平成16年度中に計12回)。
(2)福井豪雨(7月17日〜18日)
福井県は早い時期から精神保健活動の必要性を認知し、事業の必要性を国に要望した。そして、補助を受けることができたため、「『こころの元気』回復応援事業」として、活動は展開された。その内容は、巡回診察、ホットラインの設置、講演会開催やパンフレット作成などであった。巡回相談には、地元の保健所、市町保健センター、民間精神病院、そして精神保健センターなどのスタッフが従事し、延べ175件の相談を受けている。ホットラインは、福井県臨床心理士会が担当し7月22日から10月31日の間に59件の相談を受けたと報告されている。被災世帯向けにパンフレットが作成され公民館や自治会を通して配布された。
(3)台風10号(7月25日〜18日)
上那賀町と木沢村を管轄する徳島県阿南保健所は、被災者の健康管理を行う立場から精神保健上の問題に対しても早い時期から関心を持っていた。避難所の状況から感染症の予防とともにストレス対策が必要と判断していた。そして、8月12,13日の両日に保健師が聞き取りの健康調査を実施した。用いたのは加藤らが開発した簡易な問診によるスクリーニング質問票(SQD)である。調査が出来た120名の中で、「イライラする」と訴えていたのが40%、気分の落ち込みが28%、災害のことが頭から離れないが28%などの結果から、長期的な対策の必要性を確認し、保健師による訪問活動の継続、関係者への研修会などが実施された。さらに、災害から4ヶ月後の11月末から12月上旬にかけて、上那賀町、木沢村の住民に対して健康調査が再度行われた。
(4)台風23号(10月19日〜20日)
兵庫県洲本市では、洲本健康福祉事務所(洲本保健所)が翌21日から被災世帯の健康調査と訪問相談を行った。調査は、県内他保健所からの応援保健師を得て、9日間で2231世帯を対象とした。この調査は、被災者の健康全般にわたるもので、慢性疾患の管理、要介護の確認、およびメンタルヘルスに関する項目が含まれていた。6日後には、兵庫県こころのケアセンターから精神科医および精神保健福祉士が派遣され、避難所や自宅でのケース対応、今後の精神保健活動に関する企画、啓発パンフレットの作成などに助言した。その後、地元の精神科病院医師、および臨床心理士会を交えて定期的に支援会議が開催された。個別ケースについては、要フォロー者をリストアップして、在宅介護支援センターとの連携の中で、保健師が定期的に訪問した。また、被災地域ごとに「こころのケア座談会」と銘打った住民向けの講演会を計8回開催し、啓発を行った。
一方、兵庫県北部の豊岡市とその周辺地域では、豊岡健康福祉事務所および被災の激しかった豊岡市、出石町、但東町の保健師が、直後から健康調査を行い、精神保健上のニーズを抽出した。また、各避難所には市町職員が張り付き、必要な場合には保健師がケアする体制が当初より取られた。1週後からは、県立精神保健福祉センターおよび兵庫県こころのケアセンターの精神科医とPSWが、3回にわたり現地入りし、必要な助言とケース対応を行った。また、住民向けおよび担当者向けのパンフレットは早い段階で配布し、避難所でのメンタルヘルス講演会なども開催された。 阪神・淡路大震災以降の自然災害では、精神保健活動が展開されることが着実に増えていることは以前も報告したが、2004年の災害の多くでは外部の専門家をスーパーバイザイーとして活用しながら、保健所と精神保健センター、市町の保健センターなどが、早い時期から活動を始めていたことが分かった。その際、精神的症状に関するスクリーニングもほとんどの災害で行われており、より効率的な活動の展開が指向されている。今後の課題は、活動の質を評価し高めることと、スーパーバイズやコーディネートを行う専門家を効果的に使えるようなシステムを整備することであろう。
災害はそれぞれが個々の特徴を有し、地域保健活動もそれぞれの地域の特質によって展開する方向性が異なる。最近では、災害が発生すると多くの場合、他の災害の情報を得て、精神保健活動の内容を検討し始める。例えば、被災者向けの啓発資料(パンフレットなど)を作成する際には、何らかのひな形を参考にして作ることが多い。したがって、過去の災害に関する情報が効率的に入手でき、適切な助言が得られるようなシステムが整備されれば、効果的な活動を開始することに寄与できるだろう。また、システム作りやその後の運営に関与できるコーディネーターやスーパーバイザーを、適切な時期に要請できる体制があればさらに効率的となるだろう。周知のようにアメリカではFEMA(連邦危機管理局)が、災害や大事故の際には、専門家を派遣する。その中には精神保健の専門家も含まれることが多く、活動の運営に必要なノウハウを提供し、資金面での援助も行う。わが国の場合は、システマティックに情報が提供されるのではなく、現場の要請を得て、ごく限られた専門家が動き出すというのが現状である。したがって、今後は、コーディネーターを各地域に養成し確保しておくことと、スーパーバイザーが国などの指示によって現地に行き、協力して活動を展開する体制を整えておくことが、ますます重要となるだろう。
(兵庫県こころのケアセンター、加藤 寛)
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