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| 『ジェンダーとトラウマ』 |
| 座長:小西聖子(武蔵野女子大学)、宮地尚子(一橋大学) |
| 【演 題】 |
| ・ |
『トラウマとジェンダーはいかに結びついているか?』
宮地尚子(一橋大学社会学研究科) |
| ・ |
『小児科医療とジェンダー:日常診療の背景にある虐待とDV』
紀平省悟(済生会有田病院小児科) |
| ・ |
『性暴力被害のセクシュアリティに及ぼす影響とその回復過程』
白川美也子(国立天竜病院)ほか |
| ・ |
『解離性障害、外傷性精神障害における性差はあるのか?』
大矢 大(関西記念病院) |
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| ■ |
総評 一橋大学 宮地尚子 |
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ジェンダーは、外傷的事件の被害率の性差(例えば性暴力やDV)だけでなく、被害への本人の意味づけや周囲の反応にも影響を及ぼし、トラウマ反応とその回復過程を規定する重要な要因と考えられる。けれどもこれまでトラウマの臨床や研究においては、ジェンダーの視点が不十分だったのではないかという問題意識から、このシンポジウムは企画された。
ジェンダーというと一方的な男性批判と誤解されやすいので、「ジェンダーは苦手」「ジェンダーはパス」という参加者が多いのではと心配していたが、開けてみると会場は満席でかつ男性の参加者が多かった。座長の小西と宮地は、98年の沖縄での日本精神神経学会でのシンポジウム「女性の精神医学に関する今日的問題」で、席がガラガラの会場に向かって話をした記憶があるので、時代の流れなのかと感慨深かった。
発表は、まず宮地が「トラウマとジェンダーはいかに結びついているか?」で、ジェンダー概念と、トラウマ反応や回復過程にジェンダーが影響をもたらす経路について概説した。ジェンダー分析が重要だと思われる具体例としてはPTSD発症率の性差研究と、トラウマ関連の人格障害理論を、治療者の無自覚なジェンダー・バイアスがトラウマからの回復を妨げる例としてDV被害や性被害の治療を挙げた。臨床で省察すべきポイントとしては、クライアント及び家族等周囲のもつジェンダー規範の内容と柔軟さ、外傷的事件がジェンダー・アイデンティやセクシュアル・アイデンティティに及ぼす影響、治療者側のジェンダー規範、適用する理論や治療技法のジェンダー・バイアス、治療関係や治療チーム内のジェンダーにもとづく権力関係を挙げた。
次の紀平は、「小児科医療とジェンダー:日常診療の背景にある虐待とDV」において、発達障害児の母親が父親から暴力を受けていることに気づき、小児科医として支援した事例を中心に報告した。そして、小児科医療は、子どもの症状形成や修飾に関与するのが母親であることを暗黙の了解とし、ある種の「母性愛管理システム」として働いてしまうことを指摘した。しかも、この「システム」は1970年代以後の日本における発達障害観の成立と結びつくことを示唆した。
白川は「性暴力被害のセクシュアリティに及ぼす影響とその回復過程」において、性暴力被害者へのインタビュー調査をもとに、被害者のセクシュアリティの変容や、それと自分の「女らしさ」や「男らしさ」の認識との関連、回復に役立ったことやインタビューへの反応について発表した。
最後の大矢は、「解離性障害、外傷性精神障害における性差はあるのか?」というタイトルで、ヒステリー性障害の歴史を概観し、解離性障害、ことに解離性同一性障害の性差について、女性例と男性例の治療経験をもとに発表した。
会場とのディスカッションでは、中井久夫先生の男性のセクシュアリティについてのコメントと質問のほか、女性治療者/男性患者の間での権力関係への問いかけや、シンポジストの性別によって発表自体にジェンダー差が現れているのではないかという指摘があった。大矢は発表において、「女性患者は衣をまとい、男性患者は鎧をまとう」とジェンダーを鮮やかに言い表したが、同様の作用がシンポジウムという場でもおきるのかもしれないと興味深かった。時間の関係で、それぞれの論点を十分深めることはできなかったが、日々のトラウマ臨床に密着した形で、ジェンダーやセクシュアリティへの関心やセンシティビティを喚起し、今後の議論を活発にしていくきっかけとしては、よいシンポジウムとなったのではないかと思う。
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