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総評 飛鳥井望(東京都精神医学総合研究所) |
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欧米のPTSD治療ガイドラインでは、曝露療法に代表されるトラウマ焦点化認知行動療法は、エビデンスに基づいた治療の中核的技法として強く推奨されている。また2007年10月発表の全米アカデミーズ医学機構PTSD治療評価委員会報告は、各種の薬物療法や心理療法の中で、現在のところ有効性が十分に証明されているのは曝露療法のみであり、他の治療法に関するエビデンスはいまだ不十分であると結論づけた。
米国ペンシルバニア大学のFoaが創始したPE療法は代表的なPTSDの曝露療法技法であり、呼吸法、心理教育、実生活内曝露(現実曝露)、イメージ曝露(想像曝露)から構成される1回90分、10−15セッションの治療プログラムである。また認知療法とは技法的に異なるものの、イメージ曝露後の話し合い(プロセッシング)において認知の修正が促されるのも特徴である。
本シンポジウムでは、PE療法の効果と有用性ならびに実施に伴う問題点等に関して、4施設からの様々な視点による報告と議論を行った。
藤井千太先生は兵庫県こころのケアセンターでPE療法を実施した男女10症例(完了9例、中断1例:交通事故9例、暴行被害1例)について報告した。PE療法実施前後のCAPS得点の変化では、ほとんどの症例で点数の減少を認めており、得点の下がり幅はほぼ同様であった。また症例の中にはJR脱線事故の被害者も複数含まれており、大規模災害後の治療的介入技法としても活用できることが示唆された。
元村直靖先生は大阪医科大学附属病院精神科外来でPE療法を実施した男女7症例について報告した。大学病院精神科の外来でもPE療法の有用性を確かめることができたが、時間のかかる心理療法を通常の外来予約枠で実施し続けることには困難が伴い、面接室と時間枠確保、人的資源、診療報酬などの面での整備がなされることが、実際の臨床にPE療法を活用するためには必要であることが指摘された。
小西聖子先生は武蔵野大学心理臨床センターで7名のセラピストが実施した19女性症例のPE療法について報告した。同センターにおけるPE療法の対象者は、DV被害者や性的虐待を含む性暴力の被害者が多いことが特徴となっており、また複数のトラウマ歴や長期慢性にわたる暴力被害歴があり、通常難治と考えられるケースが多くを占めていた。これらの女性クライエントのPTSDや解離症状、抑うつ症状に対してPE療法は有効であり、またSSRIの効果が部分的に留まったケースにもPE療法が有効であることが示唆された。
齋藤梓先生は東京医科歯科大学・心的外傷ケアユニットでのPE療法例の中から男女12例を対象として、イメージ曝露後のプロセッシングにおける患者のナラティブの質的分析を行った。その結果、治療過程における認知の修正はトラウマ記憶の組織化と関連していた。トラウマ記憶の賦活と馴化を通じて、患者はトラウマ体験時の思考・感情・感覚・行動を圧倒されずに詳細に振り返ることが可能となり、その詳細な記憶想起と相まって非機能的認知の再検証と修正が促されていた。
各施設からの報告を見るかぎり、PE療法は本邦のさまざまな外傷的出来事によるPTSDに対して有用な治療法であることの知見が蓄積されつつあることは確かである。今後は中断例や無効例の問題、適応の可否、治療者トレーニング、診療報酬の問題などを、引き続き課題として検証し議論する必要があろう。またEMDRや認知再構成法との優劣に関する議論はすでに終息しつつあるのかもしれない。どの技法も有効性を証明されており、格段の効果の違いはないこともあきらかにされている。ただし少なくともトラウマ焦点化心理療法に関して言えば、曝露療法の技法を中核的手法として、EMDRや認知再構成法を、あるときは代替技法としてあるいは補足的技法として使用していくという方向に向かうのではないであろうか。
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