|
 |
 |
 |
 |
|
 |
| |
JSTSS
第2回大会(2003.3) での講演から
『症状の評価からどう援助を展開するか』
飛鳥井 望(JSTSS会長、東京都精神医学総合研究所)
|
|
 |
|
 |
|
 |
| |
トラウマ体験後に特徴的な一連の表出症状を、誰にでも生じ得るストレス反応として捉え、ケアやサポートの対象と見る立場は、このような症状に対する偏見除去に大きく役立ってきた。一方で、症状を生物・心理・社会的次元を含むストレス障害として捉え、治療の対象と見る立場は、症状回復に向けたより有効な治療介入戦略の探求の土台となっている。大規模疫学研究の結果において、PTSDの7割弱は治療をせずとも6年以内に回復しているという事実は前者の立場を支持するように見える。逆に、治療をした方が早い回復が得られるということと、3割強は長期にわたり慢性化しているという事実は後者の立場を支持するように見える。トラウマ体験後のストレス症状に対する早期の援助は、このふたつの立場にまたがるものであることをまず理解しておく必要がある。すなわち早期の援助とは、個人の復元力が発揮されるのを支えることで回復を促すプロセスであるとともに、薬物療法や認知行動療法その他、個別の治療ニーズをモニターするプロセスでもある。
トラウマ体験後のストレス症状に対する標準化された評価法の登場により、わが国においてもようやく実証に基づいた検討が可能となった。ことに自記式質問紙法としてのIES‐Rと構造化診断面接法としてのCAPSは、この数年間わが国で実施されたさまざまなフィールドサーベイと臨床研究の中で使用されてきた。集団災害もある程度規模が大きくなるとスクリーニングが必須となる。これまでの使用経験から、IES-Rは汎用性が高く、ことに早期の段階では感度と特異性に優れた有用なスクリーニング尺度であることが明らかとなった。またCAPSは海外同様に治療効果研究には欠かせない尺度となるであろう。
一方で、これらの評価尺度の登場は、国際比較研究にも道を開くものである。ドメスティック・バイオレンス研究や性暴力被害研究の結果では、共通尺度で測定した被害者のストレス症状程度は日米でほとんど一致するものであった。ストレス症状の表出に関しては、文化的多様性と文化差を越えた共通性を考えなければならないが、これまでの実証データが示すところは、文化差を越えた共通性である。このことは、対処行動の国民性をある程度考慮するにせよ、援助技法や治療法においても文化差を越えた共通の理念を求めることが可能ということにほかならない。
なお早期の援助として安全確保のための介入までを求められる場合、被害実態の簡便なスクリーニング法が有用である。その一例として、すでに標準化されているドメスティックバイオレンス・スクリーニング尺度(DVSI)を紹介する。
災害や事件後の中長期の時点となってもストレス症状得点が高いもののほとんどは早期の時点ですでに高得点を示しており、したがって早期における症状評価は中長期の転帰を予測するのに役立つ。また被害集団における平均ストレス症状得点は、通常は時間経過とともに低下するが、これは主として早期の時点における高得点者群が時間経過とともに高得点と低得点に分かれた効果による。さらに中長期の時点における高得点者群には、トラウマ体験自体の衝撃だけではなく、他の精神健康上の問題や二次的ストレス状況などの複合的要因がしばしば存在している。
トラウマ体験後のストレス症状の多くは、かならずしも集中的治療を施されなくても、周囲のケアやサポートの中で回復していくことが期待できる。しかしいったん慢性化したPTSDは、有効とされる治療を施されても、現在のところ報告されている治療反応性は5−6割である。
Post-traumatic stress(PTS)への早期介入技法としては、ディブリーフィング法やイメージ曝露を主とする短期間の認知行動療法が、その是非や効果をめぐって議論されている。しかし早期の援助の役割は、症状評価を行った上で回復プロセスを支えながら転帰を予測し個別の治療ニーズに対応していくことであり、求められるのはそのための柔軟で汎用性の高い方法である。ここではそのような方法として、早期の援助としてのPTSケアを提唱したい。これは(1)ストレス症状、(2)思考の機能不全、(3)生活の機能不全、(4)サポート資源、(5)二次外傷(代理受傷)の5要素にそって、それぞれ検出、検証、転換の作業を3−5回のセッションを通じて行うものである。内容としては心理教育、認知再構成、生活機能回復、サポート強化、援助者のストレス対処を含んでいる。(第2回大会基調講演から)
|
 |
|