JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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『EMDR:基礎と臨床』
企画・座長:市井雅哉(琉球大学)、本多正道(本多クリニック)
指定討論者:大河原美以(東京学芸大学)
 【演 題】
『EMDRの理論と実際』
市井雅哉(琉球大学)
『単回性トラウマ性障害に対するEMDRの有効性と位置づけ』
本多正道(本多クリニック)
『子どもへのEMDRの適用-子どもが持ち込んだものを利用するアプローチ-』
柴田健(秋田県障害者相談センター)
 
 

 
 
総評: 琉球大学教育学部 市井雅哉
 

本シンポジウムではEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)に関して、理論面、実践面双方からの話題提供と討議がなされた。 初めに市井がEMDRの発展し、受け入れられてきた十年余の歴史に触れた。実証的な研究が行われ、効果が確認されてきた。

続いて本多氏がDV被害のPTSDをEMDRで治療した1症例を提示し、EMDR治療の具体的な流れを紹介した。典型的な成功例であるが、眼球運動による脱感作が進む中では、外傷記憶を克服していく認知や感情の変化が治療者の誘導ではなく患者の自発的な変化として進んでいく様子が示された。

また、単回性トラウマ性障害に対するEMDR治療の効果として、38例(性被害:8、自殺:12、交通事故:9、暴力被害:4、阪神大震災:2、その他:3)の治療結果を提示した。大部分のケースにおいて1〜3回のEMDRセッションで著効した結果が示され、また、その効果は1〜3ヶ月後も持続していた。しかし、交通事故などの紛争や補償問題が未解決のケースではEMDRによる治療効果が芳しくないという知見も見られた。

単回性トラウマ性障害に対するEMDRの治療効果は高く、また効果の持続も示されたが、決してあらゆるトラウマを治癒させる魔法のような治療ではなく、例えば紛争や補償問題の存在は治療効果を低下させる可能性があり、今後はどのようなケースにどのようにEMDRを適用するとより有効かという臨床適用のあり方についての議論の深まりが必要と指摘した。

柴田氏は、虐待を受けた子どもに対して、子どもが治療場面に持ち込んだものを利用してのEMDRを試みた事例を報告した。クライエントは11歳の小学生男子で、父親によるDVから母親を守ろうとして父親から身体的虐待を受けていたが、両親が離婚して母親と二人暮しをする中で頻回の夜尿と夢中遊行を呈するようになった。母親と本人はこうした行動の背景には父親による虐待があると考えていた。そこで、本人が面接時に持参したぬいぐるみを用いて「安全な場所」を作りEMDRを実施したところ、短時間でターゲットとなる虐待のイメージが処理されていった。その後は、面接のときに本人が着てきた野球のユニフォームを手掛かりに野球のピッチングの話をする中で、クライエントによって語られる自律コントロール感をRDI(資源の開発と植えつけ)を用いることで植え付けていった。その結果、夜尿は改善し本人の自信も回復していった。この事例を通して、EMDRにおいて子どもの持ち込んだものを利用することの意味を、遊びとリソースの治療的活用という視点で考察した。

その後、再び市井が仮説として提案されているEMDRの作用機序について述べた。最近のデータとして「今、ここ」と「別のどこか」の注意配分や、数唱課題といった認知指標がPTSD、高ストレス、健常の3群で異なること、また、PTSD群では、EMDR治療により、「今、ここ」に注意が向き、数唱課題得点が上昇することを示した。さらに他の心理療法との融和性にも触れた。

指定討論の大河原氏からは、EMDRを効果的かつ安全に使用するためのアセスメントについての質問が提示された。柴田氏の事例は、母親がDVから自由になるために離婚をして、安全な環境を確保した後に出現した症状に対してのEMDRであるという点に注目することが重要である。虐待などの心的外傷を負っている子どもへの治療としては、安全な環境を確保するための家族への支援が第一に選択されるべきである。安全な環境が確保された後に、子どもが表出し始めるいろいろな症状は、子どもが自らの心的外傷を治療してもらうために、いわば生き直すために表現する症状と理解できる。また、その症状が家族や環境との関係の中でどういう意味をもっているものであるのかという視点でのシステミックなアセスメントが、子どもの事例では重要と言える。EMDRを導入するための面接自体が、母親に対して「問題の外在化」としての意味を持ち、問題を維持する文脈から開放されるという変化を内包していた。EMDRによる子どもの症状の変化と親子関係の変化が相互作用して、劇的な改善にむかったということができるだろう。本多氏の発表は、単回性トラウマの事例に対するEMDRの有効性を如実に的確に示したものであった。本多氏がEMDR適用と判断しているアセスメントのコツや基準について討論された。

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