JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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『トラウマの法廷評価と臨床家の裁判関与をめぐって』
座長:岩井圭司(兵庫教育大学)、金吉晴(国立精神・神経センター)
 【演 題】
『精神的被害の法定評価とその立場
----鑑定人、鑑定証人、専門証人』
  岩井圭司(兵庫教育大学)
『性暴力被害者援助の一環としての裁判支援』
  井上麻耶子(ウイメンズカウンセリング京都)
『弁護士として臨床家に望むこと』
  渡部吉泰(兵庫県弁護士会)
『交通事故受傷後トラウマ反応を呈した一例:
PTSD診断の是非をめぐって』
  戸田裕之(防衛医大精神科)ほか
 
 

 
 
総評: 兵庫教育大学 岩井圭司
 

近年、民事賠償訴訟をはじめとして、精神的被害の有無や軽重が裁判で争われることが多くなってきた。しかし、その判定基準については、精神医学側・司法側ともに未だに確立されたものがあるとはいい難い。ある場合には、精神的被害およびPTSD診断の範囲が非常に広く適用され、またある場合には非常に限定的に解釈されている。積極的に裁判に関与する用意のある臨床家(精神科医、心理職)はまだまだ少ないうえに、被害者擁護活動と精神的被害の公正中立な精神医学的評価とがしばしば混同されている。
 
このような現状を速やかに改善することは困難であるばかりか、拙速があやぶまれるところでもある。本シンポでは、まずは様々な立場から現状の問題点を洗い出し、今後の発展的議論の嚆矢とすることをめざした。
 
当日のシンポでは、最初に本シンポの企画者である岩井が自ら登壇し、「精神的被害の法定評価とその立場――鑑定人、私鑑定、鑑定証人」として、本企画の目論見を述べることで議論の口火を切った。岩井は、精神的被害の法定評価に携わる際の臨床家の立場と役割を区別して考えるべきであると主張した。たとえば、今日斯界の一部には、「被害者の主治医には中立な判断ができないので、公判上での被害者の精神的被害を評価をなすべきではない」とする者があるが、岩井はこのような考え方を退け、「主治医は治療者としての立場から、鑑定医は鑑定人としての立場からそれぞれに公正な評価をめざすべき」であり、「臨床家は自らの立場と限界を自覚しつつ積極的に裁判に関与すべきである」と主張した。

続いて、ウィメンズカウンセリング京都の井上麻耶子が「性暴力被害者援助の一環としての裁判支援」と題して口演した。井上によると、従来的な公序良俗と社会正義の観念のみに立脚して進行する裁判では、性暴力被害者の権利と主張は時として踏みにじられてしまうという。例えば、加害者から「いうことをきかないと殺すぞ」と刃物で脅された場合であっても、強姦罪の成立には、被害者が抵抗したことを立証しなければならない。これは、強盗罪と比べた場合には、「差別的な抵抗要件」とでも呼ばれるべきものである。こういったジェンダー・バイアスから被害者を守るためには、臨床家の果たすべき役割が非常に大きいことを、井上は強調した。

次に、「弁護士として臨床家に望むこと」において兵庫県弁護士会の渡部吉泰が、民事訴訟上の精神的損害の補充性を中心に口演した。民事訴訟上、損害は経済的損害と精神的損害とに区別される。が、精神的被害がひとたび傷害・疾病、後遺障害であると医学的に診断されると、それは経済的損害に転化する。法律家による精神医学情報へのアクセスの容易性の確保、臨床家のより積極的な裁判関与なしに公正な裁判は行い得ないと、渡部は会場の臨床家に呼びかけた。

最後に、防衛医大精神科の戸田裕之らは、「交通事故事故受傷後トラウマ反応を呈した一例:PTSD診断の是非をめぐって」で、客観的な身体的外傷は軽微であったが主観的な衝撃は顕著だった一症例について詳細な報告を行った。PTSDの診断基準はあくまで臨床的判断であり、法的な目的のために作成されたものではなく、したがって補償・損害賠償における精神医学的後遺障害の認定にあたっては新たな基準を作成する必要があることを、戸田らは主張した。

パネラーによる4演題の発表の後総合討論がもたれ、フロアを含めて活発な討論が行われた。本シンポで取り上げられた話題は多彩であったこともあり、時間が過ぎるのが非常に短く感じられた。その反面というかそれ故に、やや総花的な議論になってしまったきらいは否めない。今後も当学会ではこのテーマについて継続的に議論していくことが望まれる。

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