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| 『複雑性PTSD』 |
| 座長:中谷三保子(帝京平成大学)、白川美也子(国立療養所天竜病院) |
| 【演 題】 |
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『幼少期に受けた性的虐待被害者への成人期におけるケア』
中谷三保子(帝京平成大学) |
| ・ |
『DV被害者であったPTSDの1症例-入院治療の検討』
後藤昌子(国立肥前療養所) |
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『複雑性PTSDを来したアスペルガー症候群の男女2例について』
瀧澤紫織(植苗病院) |
| ・ |
『複雑性PTSDのマクロとミクロー治療構造と危機介入-』
白川美也子(国立療養所天竜病院) |
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複雑性PTSDという概念は、PTSD概念の普及につれて、一般の臨床現場においても次第に認識されるようになっている。 現時点では、人格障害として、あるいは問題患者として疎んじられ、埋もれてしまいがちな当該疾患の患者を適切にみわけ治療にのせていくことや、危機的状況や困難をいかに回避するかが課題であると考え、今回のシンポジウムを企画した。
まず、中谷は「幼少期に受けた性的虐待被害者への成人期におけるケア」というテーマで、複雑性PTSDのなかでも特に臨床的関与が困難な、幼小児期の性虐待をうけた成人クライエントに対する外来治療について報告した。患者本来の生きる力を大切にしながら、丁寧な支持を行い、EMDRなどのトラウマワークも含めて、臨場感あふれるプレゼンテーションを行った。筆者は演者の「声」に強い印象をうけた。文章による症例報告だけでは得られにくい「よりそい支える」あり方、やりとりの細部にまで行き届いた配慮のある治療場面のイメージがフロアとの間で共有された。
次に、後藤は「DV被害者であったPTSDの1症例-入院治療の検討」というテーマで、DV被害者の入院治療について報告した。複雑性PTSDの治療において、「安全」をいかに提供するかは重要な課題である。まず物理的安全として個室の確保。治療関係の安全の目標を不安刺激の低減と設定し、そのために主治医は支持的な面接を提供し、看護師には心理教育とカンファレンスを行う。また適応的な認知行動の形成と強化や、患者が治療内容を理解し介入が批判と受け取られないようなさまざまな配慮を行いながら、患者の状態を行動分析により評価し、治療目標を定めて各スタッフが協力して援助した。演者は行動療法の立場をとっているが、いわゆるトラウマワークを行わなくても、行動観察と安全の確保に焦点をあてるという明確な治療方針のもとに良好な回復が得られたという示唆の多い報告であった。
さらに、瀧澤は、「複雑性PTSDを来したアスペルガー症候群の男女2例について」というテーマで、行為障害と診断されていた男児、統合失調症と診断されていた女性を、アスペルガー症候群を基盤とした複雑性PTSDとして捉え、前者には心理教育と認知行動療法、後者には加えてEMDRなどのトラウマワークによるアプローチによる治療経過を報告した。解離による「悪性の想像上の友人」(問題行動をおこす外傷由来の人格状態)があったこと解離性の幻聴などが前医診断の根拠であろう。アスペルガー症候群における特有の認知特性や、トラウマ反応と自閉症圏の病態があいまって激しい症状が出現していたが、そのような症例においても、特有な認知の特徴を踏まえたアプローチと段階的治療を行えば外傷的な出来事の統合は可能であることが示された。
最後に白川は「複雑性PTSDのマクロとミクロー治療構造と危機介入-」というテーマで複雑性PTSDの治療を困難にする行動化、再演などへの対処について症例を用い呈示した。複数回の性被害既往のあるクライエントの入院直後に現れた極度の不安と衝動コントロール不能に対する危機介入としてのEMDRでは、過去の監禁状況での被害体験の再想起と処理がなされた。学校教師によるセクシュアルハラスメントを体験したクライエントの再想起期における行動化(離院行動)を契機に、ego
state therapyを用い、問題となる衝動の裏に過去のトラウマの再体験とそれを乗り越えようとする健康な衝動の双方があることを自覚することで改善がもたらされた。段階的な治療の重要性、治療構造の設定における行動化や衝動コントロール不能へのアプローチ、危機介入時におけるトラウマワークの有効性を示した。
時間の関係で、全体ディスカッションができなかったが、治療者の示唆とクライエントの自主性の問題、アスペルガー症候群の特異性などの質問やコメントがあった。またコメンテーターの田中は、おもに複雑性PTSDの治療における内的外的資源の重要性と、症例の理解や改善における対人関係への治療者側の受けとり方(完全によい、悪いという対人関係はない)、それに関連してなりたつ、ほどよい存在としての治療者のあり方について述べた。
複雑性PTSD概念には「人にとって心的外傷とは何か、どのような影響を及ぼすか」を考える豊富な資源が隠されている。クライエントにとって有効な治療が行われるために、今後この概念を適用した治療を行う治療者が増えることを期待したい。
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