JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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  JSTSS 第3回大会(2004.3) での講演から
『PTSDの病原論と回復の過程』

アリク・シャレフ(ハダッサ大学精神科・教授)
 
 

  外傷後ストレス障害(PTSD)は、心的トラウマとなる出来事の結果として生じる深刻な不安性障害である。サバイバーの中には、PTSDが慢性化し、生涯にわたって持続する者もいる。慢性PTSDはかなりの障害と苦痛を伴う。重要なことは、PTSDは、「外傷的出来事」という明確に定義された出発点を有する唯一の不安性障害ということである。それゆえにこそ、PTSDの発症経過と病態特性を追跡し、系統的に研究することが可能となった。本講演では、PTSDの病因と病態特性に関する最新の研究について紹介する。

PTSDの病因をめぐる最も重大な二つの疑問は、(a) なぜPTSDを発症するサバイバーと発症しないサバイバーがいるのか、ということと (b) PTSDの発症によって、どんな心理的、生物学的、生理学的変化が生じるのか、ということである。

従来の説では、PTSDの原因として外傷的出来事の役割が強調され、PTSDは外傷的出来事の時点において獲得された恐怖条件付け反応の結果であると主張された。しかしながら、最近のデータは、外傷的出来事と外傷的出来事直後の反応は、PTSD発症のすべてを説明するにはいたらないことを示唆している。したがって、トラウマは、PTSD発症のきっかけ、すなわち出発点ではあっても、原因としては十分なものではない。本講演では、PTSDの恐怖条件付け説に関する最新の情報について述べ、その見方の利点と限界を考察する。

PTSDに対する別の説明が示唆したのは、障害は海馬の損傷によるというものである。 この知見は、長時間のストレス下では高レベルのステロイドの影響により海馬細胞の損傷が起きることから説明されてきた。この説はアロスタティック・ストレス説として知られている。従来の知見は、この説を確証しているように見えた。しかし最近の研究は、海馬がより小さいことはPTSDの疾患特徴ではなく、むしろPTSD発症の危険因子のひとつであることを示唆している。

最後に、プロスベクティブ研究のデータは、サバイバーがPTSDを生じるのは当然というわけでもないことを示唆している。むしろPTSDは、早期に広く見られる症状からの回復が得られないことによるものである。したがってPTSDとは、外傷的出来事に対する早期の反応からの回復の障害である。この説に従えば、PTSDは、正常な回復を妨げているところの外傷的出来事の後になって生じた要因によって主として説明されるものである。この見方を示すデータを紹介して本講演の結論としたい。さらに言えば、PTSDには、進行性かつ時間依存性の中枢神経系の感作が関与しており、そのほとんどは外傷的出来事に続く最初の2,3ヶ月以内に起きている。臨床上や研究上において、この説が意味するところと、PTSDの早期治療と予防への適用を考察する。
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