JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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「PTSD治療に関する検討委員会」報告
(第4回JSTSS学会発表を踏まえて)

『PTSDの治療薬処方の手引き』

 
 

 

1.はじめに

本年の3月に開催されたJSTSSパネルディスカッション「PTSD治療のこれからを考える−「PTSD治療に関する検討委員会」報告(飛鳥井望委員長)が行われ、薬物療法に関してもフロアも含めて活発な議論がなされ、以下のとおり一定の合意が得られた。

ここでは当日の「PTSDの薬物療法に関する最新のエビデンス」報告(広常秀人委員)を中心に国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)編集による治療ガイドライン1)、米国精神医学会(APA)編集による治療ガイドライン2)、英国National Institute for Clinical Excellence(NICE)による治療ガイドライン3)、エキスパートコンセンサスガイドライン4)を参考にしながら報告する。ただし、本邦ではPTSDの保険適応を有する薬剤はまだないので、以下のとおり提案するものである。

注)以下は、当学会で得られた一定の合意であり、一人一人の患者への適切あるいは妥当な処方として提示したものではない。治療者は個々の患者の治療にあたって、個別の臨床状況を考慮した上で各自方針を決定して頂きたい。


2.薬物療法の適用について
少なくとも1ヶ月(急性期において)、目立った改善がないまま症状が持続している場合

1)心理治療を施すか、専門家を紹介する。
2)以下の場合には薬剤を処方する。

  • 症状が重症かつ/または持続的
  • 日常生活の障害が深刻
  • 重症の不眠
  • 他の精神医学的問題がある(うつ、不安、自殺念慮など)
  • 現在も多くのストレスを経験している
  • すでに精神療法を受けているが、なお症状が顕著

3.処方指針
* 以下、B,C,D症状とは、それぞれ侵入、回避・麻痺、過覚醒

1)選択的セロトニン再取込阻害薬(SSRI)

SSRIは、第一に推奨されるPTSDの治療選択薬である。
PTSD症状全般に効果が高いとされ、PTSD症状自体のみならず、合併症、併存障害、さらにPTSDからの回復力を高める上でも有効とされる。パロキセチンは身体的・性的暴行、他者の死もしくは重傷の目撃、深刻な事故もしくは身体的外傷、戦闘などすべてで有効であるとされる。SSRIはその他の抗うつ薬に比べて、副作用が少なくより安全とされているが、不眠、興奮、胃腸症状、性機能不全が副作用としてあげられる(パロキセチンParoxetine/フルボキサミンFluvoxamine)。

2)その他の抗うつ薬

  1. 三環系抗うつ薬(TCA)
    TCAはMAOIとよく似た効能スペクトラムを有し、B症状および全般の改善、C症状の改善も見られる。しかしながら、効果はMAOIよりも少し落ちる。MAOIに比べて深刻な副作用は少ないが、低血圧、不整脈、抗コリン性副作用、過鎮静、覚醒症状が起こりうる(イミプラミンImipramine/アミトリプチリンSmitriptyline)。
  2. その他セロトニン作動薬
    トラゾドンは、SSRIと相乗作用があり、SSRIによって誘発される不眠に対して補助的に有効とされる。その他セロトニン作働性薬剤では、シプロヘプタジンの効果報告は逸話的で、現時点では推奨すべき根拠がない(トラゾドンTrazodone/シプロヘプタジンCyproheptadine)。

3)抗アドレナリン作動薬

同薬剤は、B症状、C症状、そしておそらく解離症状に効果があると思われる。
しかし十分な臨床治験はなされていない。アドレナリン遮断薬は全般に安全だが、血圧と脈拍のモニターがルーチンに必要である。低血圧の人や高血圧の治療中(降圧剤使用中)の人には要注意である。いくつかのケース報告によれば、クロニジンの方がグアンファシンよりも耐性が生じやすいようである。プロプラノロールは時に抑うつ症状や精神運動緩慢が生じる。
(クロニジンClonidine/グアンファシンGuanfacine/プロプラノロールPropranolol)。

4)ベンゾジアゼピン系薬

ベンゾジアゼピン系薬剤は、ともに抗不安薬としても抗パニック薬としても有効である。
臨床家には既に抗不安や不眠に対してよく用いられているのが実情だが、それに対する実証的研究が十分なされていないのが現実である5)。現時点では、BおよびC症状の軽減は認められないが、D症状に著明に効果を見ることがある。トラウマ受傷初期にアルプラゾラムもしくはクロナゼパムを投与した群と非投与群で比較したところ、6ヶ月後にベンゾジアゼピン系薬剤投与群の方が、PTSD発症率が高かったという研究報告もある6)。既往にアルコール・薬物の依存歴がある人には慎重かつ注意深い使用が求められる。連用による依存形成にも注意を要する。さらに精神運動緩慢発現と抑うつ症状の悪化がありうる。その他の薬と比しての利点は特にない。

したがってPTSDにベンゾジアゼピン系薬剤の単剤使用は推奨できない。中途覚醒に対する時限的治療や全般性不安に対する即効性を期待しての補助的治療薬としてはよい。
(アルプラゾラムAlprazolam/クロナゼパムClonazepam)

5)気分安定薬

気分安定薬は、ともにD症状を軽減するとされる。カルバマゼピンはB症状の軽減、バルプロ酸はC症状の軽減に向く。ともにオープン臨床試験がいくつかあるが、無作為臨床試験はまだない。ともに双極性の気分障害に有効である。ともに重大な副作用を有しうる。
(カルバマゼピンCarbamazepam/バルプロ酸Valproate)

6)抗精神病薬

ISTSSのガイドラインでは、臨床効果について逸話的報告も少なく、PTSDに日常的には推奨できず、PTSDの中核症状そのものに効果はなく、第一選択、第二選択薬に抵抗性がある場合、特に過剰な警戒心、妄想症状、興奮、精神病症状に対しては効果が期待できる、と述べているが、近年リスペリドン、オランザピン、クエチアピンを中心とした無作為臨床試験が小規模で対象の多くが退役軍人ではあるものの、実施されつつある。それらによれば、一部のPTSDで中核症状や睡眠障害に有効であることが報告されている7)。抗精神病薬には多くの副作用があり、ときに深刻な場合もありうる(チオリダジンThioridazine/リスペリドンRisperidone/オランザピンOlanzapine、クエチアピンQuetiapine)。

付記)薬物(SSRIを中心に)と心理療法を併用の小規模サイズのRCTがなされつつある。8)9)

また、英国国立臨床研究所(National Institute for Clinical Excellence: NICE)が2005年
3月に「プライマリ・ケア施設および専門病院における小児や成人のPTSDの診断と治療の
改善を目指す新ガイドライン」3)を発表した。それによると、「トラウマ後の急性期で症状が
軽い場合には、注意深い観察も対処法の選択肢に入れる」としており、薬物療法について
は「PTSD治療専門家による慎重な選択を要し、安易に選択するべきではない」としている。


4.まとめ
PTSD治療において,薬物は,慢性期の治療に有効と思われ,早期介入の治療も期待される.心理療法との併用も有効性が期待される.
処方指針としては、

1)SSRIは,薬効試験で他に勝り,現在の第一選択薬
PTSD中核症状・併発症(うつ,不安障害)にも有効。効果発現に,少なくとも4-6週間必要
2)不眠,焦燥感(SSRIで誘発も)にはSARIを
3)ともに,無効,副作用強いとき,TCAに切り替えも
4)衝動性,攻撃などには気分安定薬,さらには非定型抗精神病薬の併用も有効
今後,PTSDの病態に沿った,さらなる薬剤の治験および開発が期待される。

付記1.
アドレナリン遮断薬は効果発現が1〜2週と早く、過覚醒、再体験、解離症状に著効することもあり、早期介入・治療の有効性が期待される。

付記2.
こどもに関する薬物療法については、別の機会に譲る。

なお、別表(別ファイル)は、文献1),5)〜7),10〜12)をもとに2000年以降の文献を加え改訂したものである。表中のエビデンスのレベルの項のA〜Fは、注2を参照されたい。注2「エビデンスのレベル」の項は各薬剤の効果をエビデンスの強さに基づいて6段階の水準に分けたもので、これはアメリカの健康ケア研究・政策局(the Agency of Health Care Policy and Research: AHCPR)がEBMのために作成したシステム5) である。


【文献】(引用順)

1) エドナ・B・フォア他編、飛鳥井望他訳:PTSD治療ガイドライン-エビデンスに基づいた治療戦略、金剛出版,2005.

2) Robert J Ursano et al:Practice Guideline for Treatment of Patients With Acute Stress Disorder and Posttraumatic Stress Disorder. The American Journal of Psychiatry , 2004.

3) National Institute for Clinical Excellence:Post-traumatic stress disorder.The management of PTSD in adults and children in primary and secondary care.
Gaskell and the British Psychological Society.2005

4) エドナ・B・フォア他編、大野裕/金吉晴 監訳:エキスパートコンセンサスガイドラインシリーズPTSD、アルタ出版,2004.

5) Albucher RC et al.: Psychopharmacological treatment in PTSD: a critical review. J Psychiatr Reserch 36:355-367, 2002.

6) Gelpin E et al.: Treatment of recent trauma survivors with benzodiazepines; a prospective study. J Cln Psychiatry. 57(9): 390-394, 1996.

7) 広常秀人ほか:外傷後ストレス障害(PTSD)と抗精神病薬.トラウマティック・ストレス.2(2):29173-185,2004.

8) Otto MW, Hinton D et al.: Treatment of pharmacotherapy-refractory posttraumatic stress disorder among Cambodian refugees: a pilot study of combination treatment with cognitive-behavior therapy vs sertraline alone.
Behav Res Ther. 2003 Nov;41(11):1271-6.

9) Davidson JR et al.: Trauma, resilience and saliostasis: effects of treatment in post-traumatic stress disorder.
Int Clin Psychopharmacol. 2005 Jan;20(1):43-8.

10) Tucker P et al.: Paroxetine in the treatment of chronic posttraumatic stress disorder: results of a placebo-controlled, flexible-dosage trial.
J Clin Psychiatry. 2001 Nov;62(11):860-8.

11) Marshall RD et al.: Efficacy and safety of paroxetine treatment for chronic PTSD: a fixed-dose, placebo-controlled study.
Am J Psychiatry. 2001 Dec;158(12):1982-8.

12) 広常秀人ほか:[総説]PTSDの薬物療法紹介-国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)による治療ガイドラインを中心に-.トラウマティック・ストレス.1(1):29-38,2003.


別表.文献報告から得られたPTSD治療における薬効のエビデンス

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