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総評:松岡 豊(国立精神・神経センター) |
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ストレスと身体的健康の関連はセリエの頃から知られていたが、身体疾患におけるトラウマの影響やPTSDに関する検討はまだ始まったばかりである。近年、不慮の事故や交通事故で重度の身体外傷を患ったもの、エイズやがんなどの致死的疾患を患ったもの、更に心筋梗塞や脳卒中で倒れたものの中にも、PTSDと診断されないまでも外傷後ストレス症状を持つ人がいることが報告されてきている。そこで総会二日目の午前、B会場では病院で働く臨床家にとっては古くて新しいこれら身体疾患患者におけるトラウマについての理解を深めるべく、「一般医療とトラウマ」というテーマのシンポジウムが開かれた。
内富庸介氏は、がんの医療現場では、情報開示(検査結果、診断、再発、積極的抗がん治療から緩和医療への移行など)を前提する場合、医療者は患者に悪い知らせを伝えた後に生じる落胆、孤立感、疎外感、絶望などへの通常の対応から、大うつ病、適応障害、急性ストレス障害、PTSDなどへのより専門的な対応まで必要とされることを述べられた。そして従来から、がん告知後に辛い心的外傷の再体験症状がしばしば観察されていたがPTSDの診断基準を満たすものは少なく、がんがcommon
diseaseであることから、事例として取り上げられることは少なかったことについて説明された。またがん患者の心的外傷の特徴として、がんが内なる脅威であること、慢性的な脅威であること、不確実性を伴う脅威であるという三点をあげられた。診断後に侵入症状や過覚醒症状に苦しんだがん患者や二次ストレスを抱えた看護スタッフなど、自験例を適宜交えながらお話され、初めて聞くものにとっても分かりやすいご講演であった。更にがん患者のトラウマを解明する神経画像研究、がん患者に対する集団精神療法、がん専門医に対して悪い知らせを伝える時のコミュニケーション・スキル訓練などの研究成果を紹介された。
大園秀一氏は、化学療法など集学的治療法の進歩により、小児がんは約6割の患者が長期生存する時代となったが、心理的な影響に関しての研究は少なく、支援を必要としている者がどの程度存在するのか明らかにされていないという問題点を述べられ、広島大学で行われている研究について報告された。目的は長期生存の小児がん患者(寛解中、発症後5年以上)の両親に対して、病気と治療体験が外傷後ストレス症状(PTSS)としてどの程度の割合で影響しているかを調査し、PTSSに関連する医学的、人口統計学的、心理学的要因を検索することであった。評価項目は、医学的・人口統計学的要因、外傷後ストレス症状(IES-
R)、不安(STAI)、抑うつ(SDS)、家族機能認知(FAD)であった。母親54名、父親44名が参加し、IES-R総得点でcut
off の25点を超えた症例は母親22.2%、父親25%であった。Cut off値以上・以下で両親をそれぞれ2群に分類し、単変量解析を行った結果、母親は状態・特性不安、抑うつ、再発の経験、家族の役割認知の低下、児が6才以降に発症したことが抽出され、父親は状態・特性不安と児が10才以降に発症したことが抽出された。多変量解析では母親の状態不安、児が6才以降に発症したことが抽出され、父親は状態不安のみが抽出されたことを報告された。以上より、約4分の1の小児がん患者の両親は、患者が長期に寛解を維持していても心理的負担を抱えていることが明らかにされた。また父親と母親において関連要因に違いがあることは、今後の支援に向けて重要な足がかりになると論じられた。
川瀬英理氏は、まずわが国の救命救急センターは、生命の危険があり、緊急に医学的処置を必要とする患者を診療する場であり、身体症状の重い患者が24時間搬送される過酷な医療現場であることを説明された。搬入される患者の中には、精神症状を持つ患者や自殺企図患者、交通事故を含む不慮の事故による身体外傷を負った患者、そして性的・身体的暴力による犯罪被害者なども多いが、トラウマという観点から実態を検討したものは少ないという現状を述べられた。また、病室外にも眼を転じてみると、家族や友人の自殺既遂や予期しない死を経験した者も多数見受けられることから、救急医療においては、患者のみならず家族や友人においても心的外傷を体験する者が多いことを指摘された。そして本発表では、首都圏郊外の救命救急センターにおいて、心的外傷になりうる出来事を体験した患者についてのデータベースを基にした実態調査の結果を報告された。PTSD診断A1基準(DSM-IV-TR)で規定される心的外傷となりうる出来事を体験した可能性のあるものは全入院患者の約3割にも達していることを示された。そして救命医療施設で実施可能な精神保健的対応として、パンフレットを介した患者教育、救急医療スタッフの教育、精神科リエゾン機能の向上を提言された。
発表後の討論においても、フロアからは内科医、産婦人科医、脳外科から精神科に転向された医師、看護師そして精神科医などから、質問やコメントがあり、活発な交流ができたと思われる。内富氏から、本年7月1日、第18回日本サイコオンコロジー学会総会が横浜で開催されことが紹介された(http://accessbrain.co.jp/kanwa2005/)。今後、本テーマが本学会の柱の一つとなり、将来的にはサイコオンコロジー学会や救急医学関連学会との合同シンポジウムなどの開催を通して、学際的な交流が進むことを期待したい。
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