JSTSS Japanese Society for Traumatic Stress Studies -日本トラウマティック・ストレス学会設立準備会-
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第4回大会シンポジウム
『治療と回復』

座長:
白川美也子(国立病院機構天竜病院)
金 吉晴(国立精神・神経センター)

【演題】
『トラウマからの成長の可能性』
開浩一(長崎ウエスレヤン大学)
『回復過程において抑うつ状態を呈した解離性同一性障害女性例』
大矢 大(ノートルダム清心女子大学児童学科)
『児童思春期から青年期にかけて多重被害にあった1女性の治療』
後藤昌子(肥前精神医療センター)
『暴力的噴出を繰り返していた19歳男性の治療過程について-DV加害者治療という視点から』
山崎知克(国立病院機構天竜病院)
 
 

 
 
総評: 白川美也子(国立病院機構天竜病院)
 

トラウマティック・ストレスによる後遺症に、近代医学的治療という文脈での援助がなされるようになってから、実際にはまだ歴史が浅い。今後も、心理療法、薬物療法その他の治療的エビデンスの集積やマニュアルおよび社会的制度の整備が積み重ねられていく必要がある。一方、そのような整備の段階においては、臨床的な営為が硬直化しないような配慮も必要となってくる。

上記をふまえ、本シンポジウムにおいては、治療と回復をテーマに、トラウマ後の成長(Post traumatic Growth: 以下PTG)概念の紹介と、複雑なトラウマをもつ三症例の中長期にわたる治療過程の検討を行うことになった。

PTGとは容易に乗り越えられない危機に直面した結果生じた肯定的変容体験であると定義されている(Tedeschi & Calhoun)。開浩一氏(長崎ウエスレヤン大学)は、PTG概念の紹介と、頚髄損傷者7名を対象にた、同概念の半構造化面接を行った結果を提示した。自己の変化、他者との関係における変化などのPTGがあったこと、その背景として(1)受傷、(2)告知、(3)更なる喪失、(4)差別や偏見の4段階のショックによるスキーマの崩壊と再構築があり、社会的支援、対処能力、時間経過などの要因が関連していることを報告した。氏は、PTGのような肯定的変容に着目することによって、サバイバーのエンパワメントが期待されると考えている。一方でPTGが生じる過程にはDistress苦悩があり、成長にいたっても苦悩が共存することを忘れてはならないという考えも述べられた。

症例検討としては、まず大矢大氏(ノートルダム清心女子大学児童学科)によって、初診時15歳の、解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder, 以下 DID)例に三年半にわたる経過の報告がなされた。症例には、性も年齢も異なる様々な交代人格が存在し、時として様々な自己破壊行動も伴う治療経過であった。経過中の抑う出現については、統合の進展とともに痛ましい記憶が甦ることで必然的に現れるものであり自殺の危険性に留意すること、抑うつ状態はそれまでの心身の消耗を回復し現実を受容していくための準備猶予期間であるという視点を治療者がもっていることが重要であることが強調された。このような幼児期に遡る外傷体験をもつ患者の治療においては、外傷体験への注目と共に、一種の証人として、また愛着対象として、患者の成長をともに「体験」すること自体も治療の一部なのではないかと感じられた。

次に後藤晶子氏(肥前精神医療センター)から、DVの目撃や心理的虐待などの多重被害をうけていた成人女性の治療が報告された。抑うつや、自傷などの症状の改善に行動療法的に取り組むうちに、患者の側から「自然に」過去の虐待と症状の関連への気付きが報告されるようになる。その後も患者主体の問題解決に添う形で、次第に外傷の覆いはがしが達成され、数年間という比較的短期間で症状の著名な改善をみたという治療過程であった。自己統御感、自己尊重感、適切な対人関係の学習経験不足から再外傷を重ねる児童思春期からの複雑トラウマのケースにおいて、懇切丁寧な行動療法的アプローチで、トラウマワークを行わなくても、症状行動の消失、スキル形成、生活の安定がなされることが明確に伝わってきた。「問題行動を直す」のではなく「自分の希望に添って自分の行動を変え、なりたい自分になる」という明確な課題のある安定した治療関係のなかでの患者主体の治療のありうるべき形をみた。

最後に山崎知克氏(独立行政法人国立病院機構天竜病院)から、幼小児期からの重度の被虐待体験から複雑性PTSDを発症し、DV加害を繰り返していた男性の治療過程が報告された。治療には、認知行動療法的な枠組みのもとにEMDRを用いた外傷性記憶の処理、自我状態療法、グループ療法などが併用された。セッションの進行とともに、「パートナーに暴力を振るうときに過去の母親への感情を投影していること」などが自覚されていった。治療の膠着時、DV加害者の変化のステップ(Bancroft & Silverman,2004)のうち、(1)支配的かつ特権的な行動パターンや態度の認識、(2)相手を尊重する態度や行動の獲得、(3)相手に対する歪んだイメージの見直、(4)短期的・長期的な償い、(5)行為の結果の受容、という項目が達成できていなかったことに気づかれた。すなわちこれらの要素が、それまでの虐待被害者および被虐待による女性虐待加害者に対する治療のノウハウだけでは達成できなかった部分であり、DV加害という問題におけるトラウマ学習の問題、ジェンダーとの関連が推測された。

臨床は、対人相互作用における創造的営みでもある。回復とは、社会的、歴史的存在でもある人としての総体の、再構成であり成長であり旅であるともいえないだろうか。いずれの演題も臨床における多様性と創造性が感じられるものであり、エビデンスの集積とバランスをとりながら、このような成果をも集積し続けることが臨床における豊かな実りにつながっていくことだろう。

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