平成18年2月23日
PTSD誤診報道を巡って
会長 金吉晴
会員各位
謹啓
皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、本年1月26日の朝日新聞および毎日新聞紙上で、PTSD誤診報道の続報が掲載されました。
もともとの記事は、平成16年5月の朝日新聞全国版朝刊ならびに同日夕刊コラム、毎日新聞全国版朝刊に、日本精神神経学会ならびに産業医学会の合同調査の結果として「PTSDの半数は別症例」と報じられたものです。記事には、本来PTSDとは診断できないはずの、出来事から1ヶ月以内に診断がつけられている例が約半数に上っていると書かれており、これらが誤診であるとされています。しかし上記の続報では、精神神経学会の見解として、この調査では診断の時期についての質問は無く、報道された数字は発症時期に関するものであると記されており、報道内容のような調査結果は無かったことが明らかにされました。また、このような誤った内容が伝わったことに関しては、学会の責任であることも述べられております。
また同学会のアンケートに依れば、80%の患者については、その診察を始めたのが体験より1ヶ月以上後であり、大多数の患者については、1ヶ月以内のPTSD診断は物理的に不可能と考えられます。したがいまして、日本の精神科医がPTSD診断を国際的基準よりも広く扱う傾向があるなどということは、示されておりません。
上記の報道以降、犯罪被害者等基本法の成立、PTSDの薬物療法ならびに認知行動療法の進展などトラウマ支援にとって重要な動きがありましたが、上記の報道に影響されて、診断が不備であることを理由に、被害者のための重要な行政対応、治療的支援、法的援助活動などの一部に支障を生じてきました。また日常臨床においてもPTSDの診断がためらわれたり、患者のための法的書類におけるPTSD診断の信頼性が不当に低められるなどの実害が出ておりました。遅きに失したとはいえ、このような事態が収拾されたことは、大変に喜ばしいことと考えます。
心的トラウマについては、洋の東西と時代を問わず、その治療と援助を強く求める声がある一方で、他方では被害やトラウマを否認し、支援活動そのものを阻害しようとする動きが見られてきました。幸いに日本におきましては、これまで各方面からトラウマ支援について深いご理解と暖かなご支援を頂いて参りましたことに、改めて感謝を申し上げます。しかしながら、今回、一部に上記のような誤った内容の発表があり、それによって支援活動が滞ったことは、大変に残念なことと感じております。
当学会といたしましては、一部の誤解や臆見に左右されることなく、トラウマ被害者に対する適切な理解と支援、また診断と治療技術の向上に努めて参りました。今後も益々その決意を新たにし、社会的使命を果たしていく所存です。会員の皆様をはじめ、関係各位の一層のご指導とご鞭撻をお願い申し上げる次第です。
末筆ながら皆様の益々のご発展をお祈り申し上げます。
謹白
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