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総評: 前田正治(久留米大学医学部精神神経科学教室) |
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PTSDをはじめとする様々なトラウマ反応に対しては、臨床上薬物療法はきわめて有効である。レイプ被害など深刻なトラウマを負った人が外来を訪れた時、薬物療法なしでは治療の導入すら図れない場合も多いのである。にもかかわらず、本学会で今まで薬物療法のシンポジウムが開けなかった。その理由として、第一に、未だ十分な薬物療法ケースの集積がないと考えられた、あるいは第二に、コメディカル・スタッフには薬物療法の話題が縁遠いのではないかと考えられた、大きくその2つの理由があったのだろう。
今回はじめて薬物療法に関するシンポジウムを組んでみて、それらの心配が杞憂であることがよくわかった。各シンポジストの報告は非常に充実しており、またフロアからの討議も活発であった。とくにコメディカル・スタッフからの、現場での実践に即した(そして正鵠を射た!)質問には我々も舌を巻く思いであった。たとえばPTSD例のなかでも双極型感情障害2型のような躁状態を呈するケースには、どのような薬物療法が適切かといった質問である。現場スタッフの薬物療法への関心の強さを、十分伺い知ることができたのである。
さて、最初に報告をしてもらったのは、前会長である金 吉晴氏(国立精神神経センター)である。氏は国際薬物アルゴリズム作成委員会に日本から唯一参加した経験から、PTSDの薬物アルゴリズムについて分かりやすく紹介していただいた。選択的セロトニン再吸収阻害剤(SSRI)の使用が中心となって、その他抗うつ薬、抗不安薬、感情調整剤等をどのような場合に使っていくべきか、その原則が示された。評者にとってとくに興味深かったのは、どのような薬物であれ有効と認められた場合は、少なくとも1年間は継続するべきと勧告されている点である。
次には、大江美佐里氏(久留米大学医学部)が、本邦におけるparoxetineの使用状況について、多施設間共同研究の結果を発表した。予想通り、paroxetineは施設を問わずおおくのPTSD例の治療で用いられており、しかも副作用が比較的少なく、全般的な有効性が高いという結果であった。一方で、並存例や難治例も多く、他剤併用療法もまたかなりの割合を占めることも明らかとなった。同時に、定式化された認知行動療法などが行われているのは極々少数で、やはり薬物療法主体で苦労して治療を行っている現場の状況を垣間見る結果でもあった。
最後には、帆秋善生氏(大分丘の上病院)より、強制的ストレス負荷時におけるラットの脳内ノルアドレナリン分泌に関する動物実験結果から、ストレス脆弱性ラットの特性、あるいはバイティングによるストレス緩和といった興味深い基礎研究データの紹介があった。さらに氏は、自らの豊富なPTSD例、とくにいわゆる複雑性PTSD例治療の経験から、実践に即した薬物療法のあり方について論じた。このような基礎研究から臨床応用まで幅広く俯瞰しようとするこころみを聞き、氏の臨床家としての懐の深さとともにトラウマ治療の視点の豊かさに目を見張る思いであった。
全体討議に先立ち指定討論者である広常秀人氏(大阪大学医学部)より、各シンポジストの報告の問題や疑問点を集約してもらった。その後の討議の様子は、先述したとおりで、とても実り深いものであった。少なくとも病院臨床においては、薬物療法なくしてPTSD治療は語れないと考えられる。今後も本学会において、ぜひこの薬物療法シンポが組まれることを望むとともに、シンポジウムとは別にコメディカル・スタッフにも分かりやすい、基礎的な薬物に関する教育セミナーなどがあればと思う次第である。
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