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総評:浜松市精神保健福祉センター 白川美也子 |
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トラウマ臨床の現場において、援助者を最も悩ませ、困らせる症状「解離」。その解離の成り立ちは多様である。解離が連続体モデルなのか、類型学的モデルなのかは未だに結論がでない。近年の愛着研究や発達精神病理学的な観点から、解離そのものが当初想定されたようなトラウマ・インパクトに対する単純な線形反応ではないことは明らかになってきている。本シンポジウムは、臨床心理、小児科、精神科、それぞれの現場での思考法や体験や切り口から、解離という大きく様々な側面をもつ現象の把握を試みることを目的とした。
田辺はDESを中心とした尺度研究での知見にも焦点を当てながら、解離の定義、モデル化、想定された関連要因を概観した。「解離」に関して多様な定義やモデル化が行われる背景について、研究・臨床実践の立場の違いによる焦点化の違いに加え、現象自体の異種混合性(異なる性質のものが表面的な表現型の類似性から同一視されている事態)と家族的類似性(各々が部分的な特徴を共有しつつ全てに共通する特徴を指摘できない緩やかなクラスタとして存在している事態)を指摘したうえで、一つの解決の方向として複数の仮説的構成体からなる多因決定性(多重決定性モデル)による理解と研究の蓄積というアプローチの有効性を示唆した。また、解離の病理性に関連して、「心的外傷」との絡み合い、特性モデルと類型モデルの現段階での知見(未決着)、病理性理解の鍵としての「統制性」への注目とその問題の多重性・多層性について検討した。
柳田は、トラウマによる解離の典型である、トラウマ体験の“最中および直後に起こる解離”Peritraumatic Dissociation(以下、PD)について、PD概念の提唱者であるMarmarの研究室での知見や、自験例、また最新の情報をふまえ、問題提起を行った。PDはその後のPTSD発症やPTSD症状の持続を予測するといわれ、この場合の解離とは、外界から”切り離された感覚”により特徴付けられる意識状態の変容である。急性ストレス障害(以下、ASD)の診断基準にもこのPD症状は含まれるが、それによりASD診断がその後のPTSD発症を予測しなくなるという否定的見解も出されている。そのため、急性期の反応においてPDのみを強調することが、急性期のトラウマ反応の正しい記述を妨げているともいわれ、PDの役割について統一された見解はまだ出されていない。このような流れの中で、最近ではPDに加えてPeritraumatic DistressおよびPeritraumatic Panicが、その後のPTSD症状の予測因子として注目が集まるようになっている。
紀平は小児科医の立場から解離と愛着機能の関連を強調した.またMain らに始まる現代の愛着理論,SchoreやPutnam による理論を紹介し,愛着機能を情動制御/ストレス対処システムとして解説した.これにより解離を,心理学的次元を越えて発達神経生物学的視野におくことが可能になる。紀平は言語獲得以前の乳幼児例をあげて,乳幼児D型行動は思春期・成人期解離の発達的萌芽と見なせるものの,外傷記憶が愛着体験の潜在記憶の中に再構成され修正されていく可能性を示した. Schoreの理論は愛着機能についての神経生物学的階層モデルであり,それは一次解離や二次解離を階層性の崩壊,すなわち上位中枢の機能不全にともなう下位機能の解放現象としてよく説明するが,三次解離の理解には Putnamの離散的行動状態モデルがむしろフィットする.新生児学者Wolfに起源をもつこのモデルには,ダイナミック・システム理論でいう非平衡相転移、分岐、自己組織化といった概念が図示されているようである.
白川は精神科受診例中、解離が認められた入院・外来112症例について、成育歴中の虐待種、PDDの有無等について検討を加えた。DIDやDDNOSなど重篤な人格解離の問題をもつ一群には、乳幼児期からの生命の危険が伴う外傷体験がある症例と、そうでない症例があり、前者においては場合によっては人格のもつトラウマの問題を脱感作する必要があったが、後者においては人格の存在を不問に付して愛着形成と自己コントロール能力に焦点をあてた心理教育的アプローチが有効であった。後者の解離状態の出現にはいわゆる愛着形成不全からくるパトナムのいう離散型行動状態の残存と、想像機能の関与、他者との関係、思春期特有の問題が関連していると考えられた。また比較的軽度の心理ストレスで解離が引き起こされた少数症例の背景にはネグレクト、心理的虐待、母親の抑うつ、母親の自体の解離、PDDの存在がみられた。
全体を通じて、まず田辺が多重多層的な解離の包括像を示し、次に柳田が解離モデルの一極であるトラウマに直接由来をする解離:peritraumatic dissociationの知見を、紀平がもう一極である愛着形成期の統合不全による解離モデルを提出し、白川がそれらの複合としてようやく分類できる臨床像を呈示し、結果として田辺の述べた統制性の問題が臨床においても重要な鍵概念になることが示された。解離臨床においては、治療者の立場や態度が臨床像に大きな影響を与えるため、状態像を適切に判断し、適切な対処をすることが求められる。更に着実に、共通認識を積み重ねていきたい。
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