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総評:平林直次(国立精神・神経センター武蔵病院) |
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2005年7月15日に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療および観察等に関する法律(医療観察法)」が施行され、他害行為を行った精神障害者に対する医療が本格的に行われることとなった。医療観察法では、「他害行為について認識し、自ら防止できる力を獲得すること」や「被害者に対する共感性を養うこと」が目標・理念のひとつとされた。このため「他害行為に対する内省」に積極的に取り組まれることとなり、その治療過程でPTSDに類似する症状を示す症例が経験されるようになった。
本シンポジウムでは、加害者に認められるPTSD類似の症状とその特徴を明らかにし、被害者に認められるPTSDとの異同について検討した。
樽矢は、医療観察法病棟では、対象行為(医療観察法の対象とされるきっかけとなった重大な他害行為)の直面化を意識した多職種チームによる入院時面接や、対象行為に対する振り返りや内省を目的とした集団療法や個別面接が行われることを報告した。その治療過程では、対象者のもつ精神疾患による症状だけではなく、対象行為について認識し、内省することによる多様な精神症状を呈することを報告した。
永田は、他害行為(殺人)を契機としてPTSDに類似した症状を示した妄想型統合失調症3例を報告した。PTSD類似の症状は、その経過などから統合失調症の症状と区別された。この他害行為後に認められたPTSD類似の症状は、被害者におけるPTSD症状と症候学的には多くの共通点を持っていた。その一方で、他害行為後に認められたPTSD類似症状は、契機となる他害行為に対する自責や悔恨から生じる苦悩と密接に関連していた。このことから、永田は、加害者においてもPTSD類似の症状が出現する可能性があり、他害行為を行った精神障害者の治療に当たっては十分な注意が必要であることを指摘した。
安藤は、感情障害をもつ医療観察法入院処遇対象者の治療経過を通して、他害行為に関連して生じたPTSD症状について報告した。また、入院対象者16名について、出来事インパクト尺度改訂版(IES-R)を用いたフォローアップ調査を行い、PTSDの下位項目(過覚醒症状、侵入症状、回避症状)に特徴的な変化があることを明らかにした。これらの報告を通して、今後、医療観察法による治療を行なっていくうえで、加害者のトラウマ反応に対しても丁寧に取り組んでいくことは重要な課題のひとつであることを指摘した。
橋爪は、DV (domestic violence) の加害者である元夫に対して殺人未遂事件を起こした鑑定事例を報告した。鑑定結果では、被告人は元夫の暴力開始後にPTSDに罹患していたが、犯行時に侵入症状は伴っておらず、PTSDは本件と直接的な関係はないとした。犯行は意識狭窄を伴う衝動行為であり、是非善悪の弁識能力及び弁識に従って制御する能力は著しく低下していたと結論づけられた。
医療観察法施行後、他害行為を行った精神障害者の治療が本格的に行われるようになり、本シンポジウムでは、重大な他害行為を行った精神障害者にも、他害行為を契機としてPTSDに類似した精神症状を認めることが報告された。また、本シンポジウムで報告された鑑定例ではPTSDと犯行との間に関連性を認めなかったが、PTSDは他害行為の原因となる可能性があることが示唆された。本シンポジウムを通して、被害者だけではなく加害者にもPTSDに類似した症状が生じる可能性があること、その治療や診断においては他害行為との関係に十分に注意する必要があることが明らかになった。
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