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【人為災害】大規模交通災害後の地域における被害者支援

大規模交通災害と精神保健活動

公共交通機関で大規模事故や事件が発生した場合、負傷者や遺族に対して精神保健サービスを提供する必要性は高い。しかしながら、乗客が広い地域に分散して住んでいる、乗客情報が得にくい、加害企業の責任が問われるなどの問題があり、精神保健サービスを提供する上での困難な状況がある。したがって、自然災害と比較すると、組織的で長期にわたる関与は、行われにくいという傾向がある。
日本では実に多くの大規模交通災害が発生してきた。太平洋戦争後だけをとっても列車事故、船舶沈没、飛行機墜落事故、多重追突など枚挙にいとまがない。しかしながら、ほとんどの事案では組織的な精神保健活動は行われてこなかった。例外として挙げられるのは、ガルーダインドネシア航空機事故(1996年)で、半年後から福岡県内の生存者に健康調査が実施された。また、11人の死者を出した明石歩道橋事故(2000年)では、加害者である明石市が相談窓口を開設したが、その利用には限界があった。

JR福知山線脱線事故後の状況

2005年4月25日に発生したJR福知山線事故は、死者107名、負傷者550余名を出す大惨事となった。この事故は、たまたま阪神・淡路大震災の被災地域で発生したこともあり、さまざまな医療保健システムの真価が問われる機会となった。たとえば救急医療に関しては、震災後に整備されてきた広域情報システムが、効率的に機能できたのかという点が注目された。精神保健に関しても、負傷者や遺族に対して、どのようなサービスが提供できるのか当初から関心が高かった。
初期の精神保健活動の最大の特徴は、コーディネートが行政機関によって行われた点であり、自然災害以外の事故・事件では例外的なことであった。この初期活動の限界は、相談の方法が主に電話であり、訪問などのより積極的な関与は、本人からの要望があった場合に限定されていた点であった。その後、兵庫県はJR西日本に要請し、乗客名簿を入手し、電話および訪問による健康相談を行った。この活動自体は画期的であったが、訪問を希望したのは電話連絡がついた者の3割弱であった。また、電話や訪問を通して継続した関与の必要性が認められたのは、電話連絡がついた者の12%に留まっていた。

課題

今回の事故では、当初から行われた電話相談に加えて、負傷者への訪問が行われた。これは、大規模交通災害後の介入としては、これまでにない取り組みである。しかし、その過程には、いくつかの課題があった。一つは、活動の根拠が明確でない点であり、災害救助法や地域防災計画などに必要性が明記してある自然災害とは、異なる点である。また、個人情報保護の観点から乗客名簿の提供に関する明確な規定がないことも、精神保健活動を行う別の障壁となった。
アメリカでは1996年に制定された「航空災害家族援助法 aviation disaster family assistance act of 1996」に、国家運輸安全委員会(NTSB)が被害者支援に果たすべき役割が明記してある。それは、NTSBがイニシアティブを取って支援活動にあたるべきこと、精神的問題については独立の非営利組織(多くの場合アメリカ赤十字)を指定し活動を行わせること、乗客の情報を支援組織が入手できること、加害企業による支援活動をNTSBが監視することなどが挙げられている。今後、わが国でも大規模交通災害後の被害者支援のための制度作りが進むことが、もっとも望まれることであろう。

(兵庫県こころのケアセンター 加藤寛)