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【自然災害】座談会:東日本大震災における悲嘆と支援者ストレス

3ヵ月後の現状とこれから (トラウマティック・ストレス誌vol9-2)

出席者

(発言順):中島聡美1・村上典子2・大澤智子3・小西聖子4(司会)
1.独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 成人精神保健研究部
2.神戸赤十字病院 心療内科
3.兵庫県こころのケアセンター
4.武蔵野大学
※この座談会は平成23年6月17日にインターネット上の会議として行われました。

目次

はじめに
グリーフについて
惨事ストレスについて
今後どう支援していくのか
おわりに

1.はじめに

日本トラウマティック・ストレス学会の学会誌である「トラウマティック・ストレス」第9号2巻(今秋発刊予定)におきまして、先般の大震災を受け、特集【東日本大震災】を組むこととし、その企画の一案として座談会を開催いたしました。大変異例なことであるとは存じますが、緊急性が高いことを踏まえまして、当雑誌発刊前に学会ホームページへ掲載することと致しました。
ホームページ掲載にあたり、ご理解いただきました学会事務局および座談会にご参加いただきました先生方に厚く御礼申し上げます。

「トラウマティック・ストレス」編集委員長 金 吉晴

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2.グリーフについて

小西:
東日本大震災における死者・行方不明者は合わせて2万人を超えており、これ程大規模な被害は日本の災害上、近年なかったことと思います。多くの方がこの震災で大事な人を失ってしまったのです。この座談会では今回の大震災におけるグリーフ・惨事ストレスを取り上げます。お話いただく前に、まず先生方に今回の震災にどのように関わっているのかについて簡単にご紹介頂きたいと思います。
大澤:
兵庫県こころのケアチームの一員として宮城県へ行きました。それと同時に消防職員の惨事ストレスに関してのコンサルテーションや、総務省の派遣による震災支援として宮城県の消防本部などに関わっています。
中島:
岩手県のメンタルヘルスに関するアドバイザーとして、県のメンタルヘルス施策等についての検討に協力したり、また精神保健福祉センターの支援を行なっています。被災地の保健所等で保健師を対象にした災害のメンタルヘルスについて研修などを行っています。また、精神神経学会の災害支援委員会および災害対策本部会議のメンバーとして震災支援に携わっています。
村上:
日本赤十字社の兵庫県支部の救護班として岩手県に行きました。また日本赤十字社のこころのケアチームの一員としても岩手県に行きました。そこでは保健師さんと連携をとってご遺族のお話を聞いたり、保健師さんへのグリーフケアのレクチャーなどに携わりました。
小西:
ありがとうございます。わたくしの活動もご紹介させていただきますと、トラウマティックストレス学会の東日本大震災特別委員会の活動として福島県への支援に携わっています。保健福祉事務所などで保健師さんへの研修、支援者ストレスの研修や教育委員会からの依頼による講演などの活動をしています。また総務省の派遣で福島県、宮城県の消防本部への支援に関わっています。さて、先生方の活動をご紹介いただきましたところで、まずは今回の震災おけるグリーフ・悲嘆について中島先生からお話いただけますか。
中島:
2万人を超える死者・行方不明者がいるという報道を受け、あまりにも喪失体験が多いと感じました。阪神・淡路大震災(以下、阪神大震災)の時は、おそらくトラウマに焦点は当たっていましたが、グリーフに関してはあまり大きく扱われなかったと思います。喪失体験がどのような形で表れるのか、ご遺族をどうケアしていくのかは新しい課題ではないかという印象を持っています。
小西:
そうですね。阪神大震災の時は、PTSDとグリーフはまだ分けて考えられていなかったという印象ですよね。遺族ケアの必要性に対する意識は高かったと思いますが、その問題の扱い方に関して、あまり戦略がなかったような気がします。では、被災地に実際に入られてみてどうでしたか。
中島:
避難所で他の被災者と生活する多くの方々は、悲しみを表現することが非常に困難であるという印象を受けました。たとえば、町全体がひどい被災を受けていると、家族を亡くした方が多く、自分だけでないので悲しみを表現できませんし、集団で過ごしているので泣く場所もないのが現状です。また災害の特徴として、家や生活基盤そのものが失われているので、どの被災者もかなりの意識を「残された家族をどうするか」、「自分がどう生きるか」などに向けなければならないと思いますので、それが悲嘆から少し目をそらす役割もしていると感じます。しかし、一方で通常の悲嘆の場合、初期段階に悲しみを強く表現する時期がありますが、そのこと自体が難しいという問題もあります。中には悲しみでひきこもったり、抑うつ的になっている方もいると思いますが、生活場所がまだ整備されておらず、全体としては悲嘆を扱うという状況にないというのが私の印象です。
小西:
なるほど。大澤先生いかがですか。
大澤:
中島先生がおっしゃったように、泣いたり、悲しんだりする環境がまだ整っていないと感じています。被災者とお話していると仮設住宅に移る過渡期において様々な現実的な課題をこなすことに精いっぱいで、落ち着いて悲しむという状況にさえ至っていないと感じます。それから、東北地方の文化的特徴として、自分のことに関してあまり発言しないという特性があるのかもしれません。すごくお話ししてくださる被災者もいますが、「自分が本当に話したいから話す」よりは「わざわざ遠方から来て下さったから」とリップサービスのような印象を持ちました。
小西:
そうですね。私も実際に「来ていただいたからということで、サービスとして話をしてくださる、で最後は(支援者側に)明るくまとめてもらう」、これってお話を聞くということなんだろうかという印象を持ったことがあります。村上先生はいかがですか。
村上:
東日本大震災の特徴の一つとして、まだ行方不明の方がたくさんいらっしゃるということだと思います。ご家族を亡くされた方が「でも私なんて幸いにも身元が分かって見つかったから良かった」という言い方をされたことがすごく印象的でした。
小西:
今までにない行方不明者数を踏まえると大きなテーマですよね。中島先生いかがですか。
中島:
そうですね。行方不明者の方がいる被災者のお話を聞くと、初期は自分がその人の死を認めたら本当に死んでしまうのではないかという心配があり遺体安置所まで調べに行くことができなかったけれど、時間が経つとせめて身元が分かって遺品やご遺体だけでも見つけたいという気持ちに徐々に変化していったということでした。ただ、やはり一方で死を認められない、認めたくないという方もいると思いますので、災害の救援金や遺産相続の問題など出てきたときに、こうした方々が本当に死に直面できるのかという事はとても懸念されることだと思います。
小西:
今の中島先生のお話は初期から反応が少しずつ変化するということでしたが。
村上:
その意味では、まだモーニングワーク、グリーフワークが進まない、まだまだとても抑圧されていて、多くの方が「悪い夢を見ている」と少し麻痺している段階ではないかと感じます。なぜかと言いますと、集団の中で案外皆さん普通に明るくされているんですよ。例えばマスコミは「案外元気です」「前向きです」と報道しますが、グリーフを臨床的に扱ってきた感触からすると、とても違和感がある程、皆さんが割と元気そうなんですよね。
大澤:
自分自身が現地に入っている際に感じたのですが、あまりの惨状に専門家自身の感覚も麻痺していたり、逆に躁状態だったりする人もいたことを思えば、その渦中にいる被災者の方たちが麻痺していたとしても不思議ではないと思います。
小西:
なるほど。まだまだグリーフの問題は扱えていない現状があるようですが、では今後どう支援をしていくのかという課題については後ほど取り上げたいと思います。

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3.惨事ストレスについて

小西:
さて、もう一つのテーマでもある惨事ストレスについてです。その象徴となるような仕事が遺体回収ですね。ある一か所の災害だと、現地の消防・警察という限られた方が関わることになります。今回は回収自体もまだ終わっていない地域もありますし、たくさんの方が携わっています。惨事ストレスについて、経験の深い大澤先生いかがですか。
大澤:
個別の案件などを聞くと、たくさんのご遺体を扱った、ご遺体の状態がとても悪かった、あるいは子どもが亡くなったケースに関して今でも頭に残っているという話がありました。また、救助が目的で派遣されたと思っていたけれど、実際には生存者の発見はなく、ご遺体の回収をしなくてはいけない、また、どこを探せばいいのかさえ分からない状況の中で、自分たちの役目がすごく曖昧になってしまい辛かったというお話を聞きました
小西:
そうですね。惨事ストレス全般に関しても今までにない課題点があるように思います。一つの点は、おそらく阪神大震災等に比べて、医療やレスキューの目的で数多くの派遣チームが長期入っているということです。そうした中で起きてくる問題に関して、中島先生は何かありますか。
中島:
私は惨事ストレスの方に対応したわけではないのですが、たとえばDMAT(災害派遣医療チーム)の方たちが現地に行かれても、あまりに亡くなった方ばかりで本来の治療する救命するという目的が果たせず、自分たちの仕事ができないということで非常に強いショックを受けたと聞いています。
村上:
そうですね。中島先生がおっしゃったように、救護班員として現地に入った人間は想定を超えた現場であったことから、やはり少なからず傷ついていると感じています。
小西:
なるほど。支援をしに行く人たちがあまりうまく機能しないという問題は、普通は災害の初期の段階で起こる問題だとは思いますが、それが今回はとても大きい印象があります。命を救う役に立つだろうと思って行くが実際には遺体しか扱えなかったり、避難所ではこころのケアをする状態ではなかったり、自分が専門家としてできることができない現状が多々あって、無力感や不全感を抱いて帰ってくる方もたくさんいらっしゃるようですね。
村上:
はい。それからご遺体に関わることで言いますと、ある被災地では、遺体安置所は警察が管理しているのですが、遺骨を管理している場所は町役場が管轄で、一般のボランティアの方がずっと番をしていました。日常的にずっと遺骨と一緒にいて、そして遺骨を探しに来た方とお会いしたりと遺骨やご遺族のお世話を一般の方がしていることは衝撃的でした。
大澤:
阪神大震災のときもご遺体の管理において、斎場が足りずに一般事務職だった方が何か月にもわたってドライアイスを交換しなくてはいけなかったことがありました。
小西:
今回の大震災は、今までそういったことにあまり従事したことのない方やむしろ初めての方もたくさん現地に入っていますよね。当然、具合が悪いことが予想されるのですが、たとえば消防庁のメンタルサポートチームのような既存の支援システムがない場合、どうしても支援に入りづらい現実があると思います。こうした方たちに支援に入るためには支援システムが必要だと思いますが、いかがですか。
中島:
そのような方たちに関してのケアはあまりなされていないように思います。メンタルヘルスに関わる側が様々な状況を想定し、ケアに入るかどうかは別として「今後このようなことが起こった場合にケアができますよ」という情報を広く周知することが必要だと思います。ご遺体を扱うような場合には、想定される事態などについて、ある程度こういうことがありますとかケアができますということを行政等を通して知らせていくことが、今後あってもよいのではないかと思いました。
村上:
私は、遺骨の安置所に行った際に、DMORT(災害死亡者家族支援チーム)研究会の災害支援者のメンタルヘルスマニュアルと家族・遺族支援マニュアルをお渡ししました。職員の方たちが「これを今後も広めて下さい。自分たちはマニュアルも何もないところでご遺族に接したり、ご遺体と接したり、手探りの状態で本当に辛かった」とおっしゃっていました。今後も遺体対面や遺骨などのお引渡しは行政の方がされると思うので、ぜひシステムとして行政職員の方たちに広くそういう知識を持っていただけたらなと思いました。
小西:
情報を知らせるということがとても大事だということですね。情報に関しては、阪神大震災の場合に比べると、今回の東日本大震災では大きく変わった点のひとつであると思います。インターネット上にある、災害に関する支援情報は当時とはケタ違いです。画像や動画もあります。有用な情報が様々な形式でのっていますが、被災した人がすぐにアクセスできるわけではないですよね。最初は停電でインターネットどころではないし、アクセスできるようになっても生活していくことでいっぱいでなかなかできない。また、どの情報が適切かを調べるにも知識がいると思いますし、良いことだとは思うのですが、その辺りが課題なような気がします。
中島:
今後の遺族のケアや惨事ストレスケアのことを考えると、情報をどう伝えるか、いかにうまく提供するかが課題だと思います。インターネットという媒体を有用なものにするためには工夫が必要だと思います。たとえば、仮設住宅にコミュニティフロアのようなものを作ってインターネットを閲覧できるようにするとか、パソコンのない被災者や高齢者でも情報が共有できるような工夫が必要かもしれません。しかし、関心を持ってインターネットで情報を探してくれる場合は良いですが、そうでない場合には、やはり人を通して直接情報を伝えるのがいいだろうと思います。
小西:
そうですね。

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4.今後どう支援していくのか

小西:
グリーフという問題はこれから起こってくる問題ですよね。今この時点(2011/6/17)での状況で私たちは話をしていますけれど、もしかしたらグリーフのことはもっと半年後、あるいは1年後、そういうところで話さなくてはいけない問題なのかもしれません。被害が長引く分、精神的な状況も長引きがちであると思います。今後グリーフに関してどう支援していけば良いのかについてはどうでしょうか。
中島:
まずご遺族に関して言うならば、今後一番心配なのは自殺予防の問題です。これから仮設住宅に移りますが、特に東北地方は冬になるとなかなか外出できず家にこもってしまうという時に、悲嘆が顕在化し始めると思います。抑うつや希死念慮など、そういったものが高まる時に被災者への介入、適切な他機関への紹介をどのようにやっていくかについて特に、仮設住宅の中でどのような全体的なケアを組むのかについて考えていく必要があると思います。
小西:
そうですね。自殺予防の中にあることとグリーフはすごく近いところにあると思うんですけれど、そういう地方の自殺予防の枠組みをうまく利用することはできるのでしょうか。
中島:
できると思います。たとえば、岩手県は自殺予防の取り組みが進んでいる地域ですが、県の精神保健福祉センターや岩手医大がすでに自殺予防のための地域モデルを行っているところがあります。被災地に、自殺予防としてこういったプログラムを充実させていくことは、有効だと思います。ただ、ノウハウがない地域に新しくこうしたプログラムを入れることは非常に難しいので、そのあたりは各都道府県で異なるとは思います。
小西:
そうですね。今まで自殺予防がどのくらい行われていたかにもよると思いますが、そういう既存のものをうまく利用していくことも考えないと、とても難しいのかなと思ったりしますね。自殺は、これからますます心配なことですし、メンタルヘルスのケアの一番大きいことだと感じますが、村上先生いかがですか。
村上:
中島先生がおっしゃったように岩手県は確かに進んでいると感じます。それから、仙台では仙台グリーフケア研究会というのが前々からありまして、主に自死遺族のわかちあいの会等活動されています。グリーフケアや自死遺族に関して非常に頑張ってネットワーク等を作って活動されている方たちがいますので、そういう方たちが少し手を広げてというのもありかなと思います。ただ、神戸で診ている自死遺族の方が「あんな大変なことが起こってしまったら、家もある私はますます辛いって言えなくなってしまいます」って嘆いていらっしゃったんですね。そういう他の遺族にも今回とても影響を及ぼしたと感じました。自殺予防に関して非常に有効な面がある半面、今までいらっしゃった自死遺族の方がどう反応するかについても注意を向けなければならないのかなと思いました。
小西:
そうですね。大澤先生はいかがですか。
大澤:
自殺に関しては現地専門家もとても心配しています。啓蒙的なこともそうですし、早期発見や多くの安全網をどう増やしていくのかが課題になると思います。それから、それぞれの人たちのもっている資質やリソースについて、さらに横のネットワークを充実させて活用できると良いと感じています。
小西:
大事なことですね。他にはどうでしょうか。
中島:
たとえば、遺体安置所におけるケアはもっとあっていいだろうと思います。そこで遺族が衝撃を受けたときにサポートするような体制を今後つくっていくのがよいと感じます。震災から1カ月後くらいにあるご遺体安置所に伺ったのですが、ご遺体はきちんと棺におさめられており、直接中をあけなくてよいように棺の上に写真がおかれていていました。御遺品もきれいな箱に入っていて、お花もあり、お線香をあげる場所もあり、死者の尊厳が守られている空間でした。起こったことは異常な事態ですが、弔うことができる環境だと感じました。遺族に対する心のケアは実はそういうところから始まっていると思いますから、そういった面はもっと今後充実していけばいいと思います。
村上:
やはり今回思ったことは、あまりに数が多く、その方たちへの対応は専門家レベルだけでは足らないと思いました。ですから、より多くの方にグリーフケア、遺族支援のことを知ってもらう必要性をとても感じました。プライマリーケアとして、かかりつけ医として診ていた先生が、ある程度グリーフケアをできるようになっていくためには、それを支援する活動としてレクチャーや講義などが必要ではないかと感じています。
大澤:
その通りだと思います。専門家だけで関わるには限界があります。保健師さんや学校の先生のような被災者の身近にいる人にも手伝っていただかざるをえないのではないかと思います。ただ、問題になるのは、そういった方たち自身が被災者であり、喪失あるいは死別体験をもつ方たちなので、コンサルテーションを密にする必要があると思いますね。
小西:
そうですね。被災者と会う方たちをどう支援していくのかということも今後の課題ですよね。グリーフは今後ゆっくりと起こる問題ですから、そういう意味では色々な知識を知ってもらうという点で今後も教育のチャンスがあると感じます。ある保健所では、たとえば「お話を聞いてとてもつらい気持ちになるし何もしてあげられないけれど、それで良いのでしょうか」など質問がありました。マニュアルを見れば載っているのかもしれないけれど、「話したい人がいるならそれは聞いてあげるだけで十分いいんです」などと誰かが直接伝えていくことが、支援者が安心して支援していくためには必要だと感じました。
大澤:
そうですね。被災地の精神保健福祉センターや保健所はとても良い活動をしています。しかし、自分たちの活動が「きちんとできているのか」に関する不安が大きいのだと感じました。「それでいい」「何も間違っていない」と言い続けていくことも、こころのケアチームとしてのこれからの大切な役割ではないかと思っています。
小西:
それは絶対必要ですよね。
中島:
実際、保健師さんが多くの場面で被災者に接します。地元の方もおっしゃっていましが、こころのケアを受けることに対する敷居感が非常に高いという傾向があるようです。ですから、先生方がおっしゃっていたように、被災者と非常によく接する保健師さんや内科医などプライマリーケアの医師に対する十分な情報提供やコンサルテーションなどサポートが必要だと思います。その際に特に大事なことは、グリーフは病気ではないということを理解してもらうことです。ほとんどの方は病気ではないので、その悲嘆を一緒にいる人が共有する、見守る、必要に応じてサポートするだけで良いということを十分に伝えることが非常に重要です。ただ、その中でうつ病や自殺、複雑性悲嘆のような長期慢性化した悲嘆の問題もありますので、その方たちを見逃さないようにし、専門家へ繋ぐための情報提供が必要だと思っています。
村上:
そうですね。今回の大震災は阪神大震災と比較されることが多いですが、新潟中越地震と地方部であるというところなど共通点があると思います。新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンターで講演や保健師さんなど援助職向けにグリーフケアセミナーを2006年から毎年させていただいておりまして、ご遺族向けのパンフレットも作りました。今回、許可をいただいて被災地に持っていきました。そのパンフレットは直接、ご遺族が見られるようにつくっています。病気と思わせない方がいいという点に関して、そろそろ被災者の方にもお伝えする時期かなと感じました。
中島:
確かに今回の大震災は新潟県中越地震の場合と地域の感覚や保健師さんがメンタルヘルスに関して担っていた点などに関して近い部分があると思います。村上先生がおっしゃるように、落ち着いてからご遺族の方たちにも、自分たちが向き合っている問題が病気ではなく悲嘆であるということを少しずつ伝えていく状況が必要だと思います。パンフレットなど保健師さんが持っていて、必要だと感じる方に渡せることはいいですよね。ただ問題は、何かあったときの受け皿を同時に用意しておかなければならないと思います。その辺りは県のメンタルヘルス機関と連動して、何かあった時に保健師さんが相談できる窓口やご遺族が相談できる電話相談など、そろそろ作っていく方がいいかもしれません。
小西:
そうですね。
中島:
被災県では新潟中越地震の際に支援にあたった保健師の方に、被災地に来ていただいてお話いただくという研修を予定しているそうです。今まで被災を経験された保健師さんが培ってきたノウハウを被災地の保健師さんにつないであげることも有用だと感じました。
小西:
それはいい案ですね。大澤先生いかがですか。
大澤:
保健師さんを対象に研修をするには、「体のケアはこころのケア(につながるもの)」だと何度も伝えています。つまり、こころのケアは保健師業務とは異なる活動ではなく、被災者のこころの安定や生活の安定・再建につながる活動はすべて「こころのケア」になりうるのだ、と。それから、すべてを病的と捉えてしまわないこと、ただし、万が一「病気」が疑われる際には相手を傷つけないやり方で専門家につなぐのかを考える、と伝えています。保健師さんへのサポート体制をつくることは、効果的、効率的だと感じます。そして医療機関との連携、ネットワークがより活性化されることを望みます。
小西:
今の段階ではグリーフはまだ医療モデルに持ち込まないということが必要だと思います。問題解決指向の支援法はグリーフにはなかなか向かない態度ですよね。問題解決の地道な積み重ねが高齢者の慢性的な疾患をすくったり、アルコールの過剰摂取を止めたりすることはあるけれども、グリーフに関してはそうではない態度が大切だと伝えることも必要ですね。
大澤:
必要だと思います。グリーフやこころのケアという概念が世の中に浸透してきていると感じる反面、その言葉が独り歩きして実際に何を意味するのかについては十分に理解されていないような気がします。こころのケアは話を聴くことだと思っている方が多いですよね。日々の生活に関わる実際的な支援を通して被災者の生活が安定することが「こころのケア」であって、辛い体験をきくことだけがこころのケアでは決してないことを分かってもらいたいと思います。実際、一回の介入しか出来ない場合、辛い話を掘り下げて聴くことは、害を生むだけです。短期あるいは一回の介入しかできないのならば、アセスメント(専門家あるいは他のサービスにつなげる必要があるのか否かを判断する)のみに徹するべきだと思います。
中島:
やはりグリーフワークは悲しむことなしには進まないと思います。苦痛を避けて通れないのが悲嘆ですから、苦痛を避けさせるようなケアはかえって妨害になってしまうことがあります。だから十分悲しめたり、弔ったり出来る環境をつくることの大切さを社会全体に理解してもらえると良いと思います。
小西:
そうですね。家族が亡くなって悲しくて辛いことは病気ではないし、それは人間として当たり前の反応ですね。グリーフケアの本質が理解されず、報道などではこころのケアが「人はみんな幸せでストレスがない、そういう状態にするものである」と捉えられていると感じることがあります。喪失の悲しみは誰も変えられないし、それが今後続いていくことも何も変えられないけれど、グリーフケアとはそういう悲しみをゼロにする魔法ではないこと、でも亡くなった人と心でつながっていく方法であることを、特に被災していない人も含めて社会全体に理解されると良いと思います。

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5.おわりに

大澤:
阪神大震災でこころのケアが大々的に言われるようになり16年の年月が経ったことで、概念として悲嘆、惨事ストレス、こころのケアということが世の中に浸透してきていると感じました。ただ言葉だけが独り歩きしてしまうのではなく、グリーフケアやこころのケアが本来意味するもの、または惨事ストレスの対策として具体的に何をしていけば良いのかについて、今回の大震災を契機に考えることが必要だと感じています。
中島:
こころのケアチームの活動について現場におけるノウハウの集積がまだ十分ではなく、今後はその効果の検証が必要ではないかと思います。そういったことを踏まえて、平時からこのような災害のご遺族に対応できるようなメンタルヘルス関係者の養成が今後重要だと思います。また、子どもの悲嘆についても、どのような対応が望ましいのかがまだよくわかっていません。教育現場と連携したサポートを提供していくことが必要だと思います。
村上:
災害支援やグリーフケアに関する今までの活動が追いつかない程に、大変な事態になってしまったという無力感がありましたが、たとえば阪神大震災をきっかけにクラッシュ症候群(下敷きになっている人たちが急変して亡くなった)を教訓として、震災から10年くらいかけて厚生労働省が指示するDMATという救命医療のチームが全国にたくさんできたように、今回の非常に悲しい出来事ですけれども、これをきっかけとして日本中にグリーフケアが広まったというようなシステムを作っていけたらいいなと思っています。
小西:
大澤先生、中島先生、村上先生、本日はどうもありがとうございました。

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