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【自然災害】豪雨などの風水害に対する心理的反応と支援について

平成30年7月豪雨に寄せて

2018年7月20日
日本トラウマティック・ストレス学会災害対応委員会

台風、豪雨などの風水害は、毎年大きな被害を各地にもたらします。昭和20年代から30年代前半にかけて、数千人規模の死者を出す台風被害が続いたことから、昭和30年代後半以降、法整備や治山治水が進み、被害規模は徐々に抑制されてきましたが、最近の地球温暖化に伴う異常気象によって、河川の氾濫、大規模な土砂災害が多発しています。

たとえば、平成16年は台風が日本本土に10個上陸したほか、梅雨前線や秋雨前線が刺激され豪雨災害が多発した年でした1)。7月には新潟県中越地方や福島県会津地方で大雨となり死者15人、床上浸水1万2千戸余りの被害をもたらしました。9月には台風21号で三重県や愛媛県で土石流が発生し死者26名、10月の台風23号では兵庫県豊岡市で堤防が決壊したほか、各地で崖崩れが発生し全国で92名の死者が出ています。この年は7月に異常高温が続いたことなど、今年の気象とよく似た状況が見受けられます。

その後も平成21年台風9号では兵庫県を中心に27名が死亡、平成26年8月豪雨では広島市で災害関連死を含めて77人が死亡、平成27年9月関東・東北豪雨では茨城県を中心に20名の死者が出るなど、大きな被害を出す水害が多発しています。

押し寄せる濁流や巨大な岩石が混ざった土石流を経験した恐怖は、強いトラウマ反応を引き起こすことがありますし、家族や家財を失ったことによる悲嘆、過酷な環境での避難生活と生活再建の困難から生じるストレス反応など、さまざまな心理的反応が生じる可能性があります。平成16年台風23号の被災者を対象に1年後に実施された調査では、床上浸水以上の被害があった被災者では、IES-RによるPTSD症状の高い群が28%、K6によるうつ病および不安障害のハイリスク群は一般人口の約2倍という結果で、被害が甚大であれば心理的影響は強く残る可能性が示唆されています2)

多くの場合、心理的反応は時間の経過とともに、徐々に低減していくことが知られています。そのためには、生活再建、健康の維持、そして地域コミュニティの活性化などが重要で、心理的支援はさまざまな被災者支援活動とリンクしながら提供される必要があります。こうした活動の基本は、過去の自然災害の経験から蓄積されてきたもので3)、政府や自治体がまとめた行動指針にも明記されています。また、サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)として欧米でまとめられているガイドラインでも、被災者が望む現実的な支援が優先されることや、支援団体間の連携の重要性が強調されています。

今回の平成30年7月豪雨では、当初、地域内の精神科病院のライフラインが途絶したことから、DPATを中心とした緊急対応が行われました。その後は、主に保健師活動と連携した精神保健活動や、疲弊した支援者の支援などが、地元の関係者によって地道に行われています。酷暑の中での活動をされている被災地の関係者の奮闘に敬意を払うとともに、今後長期にわたって必要な支援が提供されることを期待しています。

★災害後の精神保健活動に関する情報が得られる主なサイト一覧

注)心理的支援に関するガイドラインは数多くあるが、公的機関が作成したもの、当委員会委員が作成に関与したものを中心に列挙した。

・厚生労働省研究班「災害時地域精神保健医療活動のガイドライン」
https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/document/medical_personnel05.html

・サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版(Psychological First Aid ; PFA)
http://www.j-hits.org/psychological/index.html

・WHO版心理的応急処置(PFA)フィールド・ガイド
http://pfa-jp.org/

・サイコロジカル・ファーストエイド学校版(Psychological First Aid for Schools: PFA-S)
http://www.j-hits.org/psychological_for_schools/index.html

・地方自治体作成のガイドライン(仙台市)
http://www.city.sendai.jp/seshin-kanri/kurashi/kenkotofukushi/kenkoiryo/sodan/seshinhoken/heartport/mental/guidelines.html

・子どもにやさしい空間(Child Friendly Spaces: CFS)
https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/cfs2.html

・災害下における子どものこころのケアの手引きとリーフレット
http://child-adolesc.jp/notice/2016-04-18/

・サイコロジカル・リカバリー・スキル実施の手引き(Skills for Psychological Recovery Field Operations Guide;SPR)
http://www.j-hits.org/spr/index.html

・災害グリーフサポートプロジェクト
http://jdgs.jp/index.html

 

【参考文献】

1)     気象庁 「平成16年夏から秋にかけての集中豪雨・台風等について」」
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/ijyoukishou/gouu_taifuu0411.pdf#search=%27%E5%B9%B3%E6%88%9016%E5%B9%B4+%E5%8F%B0%E9%A2%A8%27

2)     藤井千太、後藤豊美、加藤寛. 風水害による心身の健康への影響―平成16年台風23号被災地域で1年後に実施したアンケート調査の結果から. 心的トラウマ研究 2:19-30, 2006

3)     酒井明夫、丹羽真一、松岡洋夫監修「災害時のメンタルヘルス」医学書院, 2016