【自然災害】『遺体が救援者に引き起こす気持ちの変化:救援者向けパンフレット』

公開日 2005年01月14日

遺体を扱った後の気持ちの変化

災害救援において遺体を扱う業務は、大きな困難を伴います。この業務では、無念さ、恐怖、嫌悪感、気持ち悪さ、怒りなど、様々な気持ちが生じます。時には、自分の出来ることが不十分だと、自分を責めたり、無力感や憤りを感じる場合があります。まるで何も感じられないようになったり、現場を離れても、惨事の様子が頭に残ることもあります。犠牲者が子供だったり、貴方自身やご家族の誰かを連想させる場合、影響の度合いはさらに強くなります。

このような気持ちの変化は、人間として自然な反応です。強い感情を持つことは当然であり、それを出すことは決して悪いことではありません。そのため、気持ちとの付き合い方を各自覚えることが望ましいです。つまり、必要以上に気持ちを苦しくすることなく、救援任務を遂行し日常生活に支障が出ないようにすることが目標となります。

対処の方法

以下に、同様の経験を経た人々から得た対処の方法を記します。ご参考になれば幸いです。

【基本的な心構え】

業務の目標を忘れないで下さい。そして、それを見失わないようにして下さい。

業務前に「心の準備」をすることは簡単ではありません。そのため、業務内容で何が求められるのか、可能な限り事前に知ることが大切です。また、同じような経験をした同僚から話を聞くことも大切です。

休憩をこまめにとり、衛生を保ち、食事と水分をしっかり摂って下さい。

業務外の時間では、心身ともに休んで下さい。

【遺体への接し方】

遺体に接する時間は必要最小限にして下さい。そして、ほかの人にも必要以上に見せないように、敷居、カーテン、パーティション、カバー、袋などを用いて下さい。

業務中は、防護服・手袋を着用し、二次感染の危険性を減らして下さい。

特定の遺体に集中しすぎないようにして下さい。自分が強い気持ちを抱きやすい遺体(自分自身、身内、子供を連想させる遺体)には、特に注意が必要です。

遺体はあくまでも遺体であって、もう生きてはいないことを、自分の中で言い聞かせてみるのも一法です。これは、必要以上に気持ちが流されないためなので、業務終了後、そのような距離感を取ったことに対して、決して自分自身を責めないで下さい。

遺体の近くにある遺留品は、身元確認のために重要であり、遺族にとって大切な所有品です。扱いには注意を払って下さい。しかし、遺留品への必要以上な執着は、あなたの気持ちを必要以上につらくしますので、注意が必要です。

臭いを消すための香水や香料は、業務体験とともに後々の記憶に(悪い形で)残ってしまうことがありますので、使用にあたっては注意が必要です。

【周囲との関わり方】

業務中でも業務外でも、誰かと話すことは非常に重要です。そうすることによって、自分自身の考えや気持ちに捕われることを防げます。

同僚が苦しんでいる場合、話をよく聞いてあげて下さい。その人が強い感情を抱いていても、それは当然な反応であり、決してその人が弱いわけではありません。

ユーモアは、ストレスに打ち克つためには効果がありますが、時と場合をわきまえて下さい。

もし時間的余裕があるのならば、業務チーム全体で話し合い、励ましあって下さい。業務の難しさについて相談し、もしどうしてもつらい場合には、上司と相談の上、休息、配置転換などを検討して下さい。

悪夢、緊張感、嫌なことを繰り返し思い出すことは、遺体業務中によく起こります。配偶者や恋人にこの気持ちを打ち明けることが出来れば、それに越したことはありませんが、内容の性質上、実際にはそれが難しいこともあるでしょう。もし話したくても話せない場合、自分の変化が強すぎると感じた場合、不安、落ち込み、不眠やイライラが2週間以上続く場合は、カウンセラーや病院など、専門家に相談することを考えて下さい。

重村 淳(防衛医科大学校 精神科学講座 /

Uniformed Services University of the Health Sciences 精神科)

※この文章は、”Information for relief workers on emotional reactions to human bodies in mass death” (Uniformed Services University School of Medicine, Center for the Study of Traumatic Stress作)をもとに作成したものです。(http://www.usuhs.mil/centerforthestudyoftraumaticstress)

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