【自然災害】被災された方に対するトラウマケアの基本的な原則について

公開日 2011年10月28日

震災被害に対して、昨今のメディア報道のなかにはPTSDの治療・ケアに関して誤解を招きかねない内容のものが散見され、執行部一同危惧しています。震災特別委員会とも協議を重ね、取り急ぎ現在の段階での、被災者に対するトラウマケアの原則について我々の見解を以下にまとめましたのでご覧ください。またより具体的なケアの在り方については、10月10日の第10回大会にて検討したいと思います。皆様のご参加を心よりお待ちしています。今後とも、皆様とともに被災者の方々に対するケア・治療のありかたを考えていければと心から願ってやみません。

トラウマケアの基本的な原則

今回の被災者の多くの方に程度の差こそあれ様々なトラウマ性の反応(外傷後ストレス反応)が生じるでしょうし、同時にそれは自然な反応でもあります。
一方で、被災者の方は皆トラウマ反応から立ち直る自然回復力や復元力(レジリエンス)を持っています。それゆえ医療機関などの専門機関にかからなくても自然に回復することも少なくありません。
しかしながら被災した状況によっては、たとえば命の危険のあるような体験や、悲惨な光景の目撃、近親者との死別などを経験すると、深刻なトラウマ反応や悲嘆反応を示すことが予想されます。そして、そうしたトラウマ反応の代表的なものが外傷後ストレス障害(PTSD)でありますが、それ以外でもうつ病、アルコール依存、認知症などの原疾患の悪化といった様々な精神疾患やそれによる生活障害が生じるかもしれません。
そのような場合の多くには精神科治療や心理療法が有効です。具体的には抗うつ薬を中心とした薬物療法がありますし、トラウマに焦点化した認知行動療法などの各種心理療法があります。しかし何より大切なことは、地域の治療資源に応じた、そして地域の特性を生かした治療を選択することです。どのような場合でも、そうした治療者の工夫によって相応の効果をあげることができると考えています。
同時に、心理教育や支持的な立場から行うカウンセリング、あるいはソーシャルワーク的な支援などの非特異的治療やケアもまた非常に重要です。もちろん自殺予防や精神科リハビリテーションの促進など、従来から行われてきたケア技法が有効であることは言うまでもありません。
保健師等の戸別訪問などのアウトリーチや、電話相談、地域にある自助的な活動など地域に根差したケアも回復にはきわめて有効です。特に被災規模が大きい今般の震災では、こうした包括的サービスは不可欠であるといえます。
支援者の疲弊や代理受傷にも十分なケアを行う必要があります。
被災者に対して科学的な調査研究を行う場合には、まず倫理面に配慮することはもちろんですが、被調査者に対する配慮を十分に行い慎重に行わなければなりません。
今回の災害の被害状況から、長期的視点に立ったケアが必要です。そのためにも行政、各種支援機関、学術団体等とも可能な限り連携を組みながら、被災者のニーズに沿った取り組みが必要であると考えています。

(日本トラウマティック・ストレス学会会長 前田正治)
(震災特別委員会委員長 加藤 寛)

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