【自然災害】大規模災害後の心理的支援について

公開日 2011年10月29日

はじめに

心理的支援(こころのケア)は、大災害の場合には、とても重要な長期的支援の一つです。しかしながら、支援の方針・方向性を定めないままに複数のチームが現地に向かうと、被災地をかえって混乱させてしまうことになりかねません。また、被災地での受け入れ態勢や、計画や情報が不十分な状態で先んじて活動しようとすると、最悪の場合、被災地に害を与えかねません。災害の影響は、直後の混乱期を過ぎてからも長く続きます。心理社会的な支援活動は、地域社会に根ざし、持続可能なものであることが望ましく、これを立ち上げるには被災地の十分なアセスメントと準備が必要になります。

厚生労働省のガイドラインはこちら

活動の基本的な態度

災害発生後早期(直後~4週間程度)に推奨されている心理的な支援法は「サイコロジカル・ファーストエイド」です。サイコロジカル・ファーストエイドは、治療を目的とした介入法ではありません。被災者に関わるすべての救援者、支援者にとって必要とされる基本的態度と、被災直後の苦痛を和らげるための介入方法をまとめたものです。
*「サイコロジカル・ファーストエイド実施の手引き」は、兵庫県こころのケアセンターのウェブサイトで入手できます。

サイコロジカル・ファーストエイドの全文はこちら

基本的な姿勢

公認されたシステムの枠内で実施し、指定された役割の範囲を踏み越えない。
秘密保持、プライバシーへの配慮。
いきなり支援を押しつけるのではなく、まずは様子を見守る。
穏やかな声でゆっくり話す。慌てず、丁寧に、忍耐強く対応する。
シンプルでわかりやすい言葉を使い、略語や専門用語は使わない。
被災者が話しはじめたら聞く。話を聞くときには、その人が何を伝えたいのか、あなたがどう役立てるのかに焦点をあてる。
被災者が身を守るためにとった行動や、困っている人を助けるのに役立った行動など、よいところを認める。
被災者の多くは自分からはケアを求めたがらないことを知っておく。
その人なりの対処法をいっしょに探しながら、「求められている」ことをする。
被災者への接触の目的は、苦痛を減らし、現在のニーズに対する援助をし、適応的な機能を促進すること。外傷体験や喪失に関する詳細を聞き出すことが目的ではないことを、常に念頭におく。
支援者自身の情緒的、身体的反応に注意を払い、セルフケアを行う。

◆避けるべき態度、対応

被災者が体験していることを決めつけたり、憶測したりしない。
すべての人がトラウマを受けている、自分の体験を話したがっている(話す必要がある)と考えない。
被災者の反応を「症状」と呼ばない、診断の観点で話さない。
体験の詳細を聞き出そうとしない。
不正確な情報を提供しない。

<サイコロジカル・ファーストエイドによる支援>

被災者に近づき、活動を始める
目的:被災者の求めに応じる。あるいは、被災者の負担にならない共感的な態度でこちらから接近する。 ・現場の状況と個人の様子を観察し、介入が侵入的になりそうにないという判断をしてから接触を開始する。
安全と安心感
目的:当面の安全を確かなものにし、被災者が心身を休められるようにする。
物理的な危険や、さらなるトラウマとなる刺激から被災者を守る。
災害救援活動や支援事業に関する情報を提供する。
行方不明者のいる家族、遺族を支える。

・安易な励ましや否定は控える。穏やかな態度でそばにいることが、安心感と落ち着きを与える。
・支えになりたいという意志を伝え、求められていることをする
・悲しみの表し方は一人ひとり違うことを知っておく

安定化
目的:圧倒されている被災者の混乱を鎮め、見通しがもてるようにする。
どのような混乱なのか見極め、場合によっては無理になだめようとせず、穏やかにそばに控えている。
周囲の現実との接触を取り戻せるように手助けする。
見通しを伝える。
情報を集める
目的:被災者がいま必要としていること、困っていることを把握する。そのうえで、その人にあった支援を組み立てる。
リスクとニーズを把握するために、体験内容の概要を尋ねる。
トラウマ体験について、詳細な描写を求めることは避ける。
現実的な問題の解決を助ける
目的:いま必要としていること、困っていることに取り組むために、被災者を現実的に支援する
手も足も出ないと感じている大きな問題を、扱うことのできる小さな部分に切り分ける。
優先順位を決め、無意味な行動を意味のある作業の方向へ導く。
周囲の人々との関わりを促進する
目的:家族・友人など身近にいて支えてくれる人や、地域の支援組織との関わりを促進し、のちの継続的な支援に被災者を結びつける。
家族や友人に連絡を取り、支えてもらうことを勧める。
家族や友人を支えることを勧める。
被災者同士、支援者、専門家、地域のサービス機関などとの関係づくりを促す。
対処に役立つ情報
目的:苦痛をやわらげ、適応的な機能を高めるために、ストレス反応と対処の方法について知ってもらう
ストレス、トラウマ、喪失に対する一般的な反応について、情報提供する。
紹介と引き継ぎ
目的:被災者がいま必要としている、あるいは将来必要となるサービスを紹介し、引き継ぎを行なう
支援者ができることとできないことを明らかにする。
引き継ぎを行なうときには、被災者が「見捨てられた」と感じないように十分配慮する。

その他資料

・『心的トラウマの理解とケア 第2版』金 吉晴/編 じほう,2006.

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