【人為災害】アルジェリア人質事件に関する緊急のコメント

公開日 2013年01月30日

報道関係者各位

 

一般社団法人 日本トラウマティックストレス学会

会長 前田正治

 

アルジェリア人質事件に関する緊急のコメント

 

要旨

今般発生した人質事件におきまして、被害者、ご遺族、および関係者は想像を絶する心労を被っているかと存じます。現在、関係企業をはじめとして様々な方面からの熱心なサポートが行われており、その御努力には心より敬服いたします。その一方で、とくに報道・取材の在り方によっては被害者の心労が一層高まることも懸念されます。

このような人権上・健康上の観点から、報道関係者の皆様には、被害者とその家族、ご遺族、および関係者への最大限のご配慮をお願い致します。特に、個別取材等につきましては極めて慎重なご検討をお願い申し上げます。

 

理由

過去の人質・監禁・殺人事件の被害者の治療やケアに関する知見から、ご遺族はもちろんのこと、生還した方々にあっても大変な心的外傷を被ることが強く懸念されます。その第一は、監禁され、死の恐怖にさらされ続けたことによる様々な心理的・身体的反応です。さらに心配されることは、一般に「生存罪責感情」と呼ばれるもので、「なぜ仲間を助えなかったのか」「なぜ自分だけが生き残ってしまったか」という強い罪責感情が生じることです。

今般の事件では、残念なことに多くの方がお亡くなりになりました。かろうじて生還した方々におかれましても、上記のような耐え難い心理的苦痛に襲われていることが十分に予想されます。ご遺族や被害者の皆様には十分な配慮はもちろんのこと、場合によっては医療機関によるケアも必要になるでしょう。特に早期段階でのケアを考える際、報道の過熱によってその傷が広がる、いわゆる「二次的外傷」が強く懸念されます。回復にあたっては、安全で落ち着いた環境を準備することが非常に大切で、その上でのケアへと続きます。しかし、メディア・スクラム等の過剰報道によってそのような原則が守られないと、被害者の精神的ストレスが高まり、上述のような精神保健上の問題が一層強まることが予想されます。

真実を知り、国民にそれを伝授することが報道機関の重要な使命であることは十分に認識していますが、被害者の健康や人権こそがまず最優先に守られなければなりません。報道機関の皆様におかれましては、こうした被害者の心身面への深刻な健康問題に関する最大限のご配慮をいただき、個別取材等はきわめて慎重に行われることを切望してやみません。皆様のご理解をいただければ幸甚です。

最後にお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、生還者の方々やご家族、関係者の方々のご回復を心より祈念いたします。

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