第11巻第2号(2013年12月発行)抄録集

公開日 2015年04月14日

【特集 救援者・支援者のメンタルヘルス対策】

消防における惨事ストレス対策―阪神・淡路大震災から東日本大震災,そして今後の展望

大澤智子
兵庫県こころのケアセンター

阪神・淡路大震災以降,消防職員に対する惨事ストレス対策は確実に発展し,東日本大震災を契機により現実的なものに移行しつつある.本稿では,消防庁が主体となり行ってきた惨事ストレス対策の歴史を振り返り,「緊急時メンタルサポートチーム」の活動内容を紹介する.そして,東日本大震災時の対応とその後に実施された消防職員と消防団員およびそれぞれの組織を対象にした調査結果の抜粋を提示し,そこから生まれた新たな惨事ストレス対策の指針を紹介し,今後の課題を示した.


自衛隊における惨事ストレス対策―東日本大震災における災害派遣の経験から

山本 泰輔*1・角田 智哉*1・山下 吏良*1・重村  淳*2・清水 邦夫*1
*1 防衛医科大学校 防衛医学研究センター *2防衛医科大学校 精神科学講座

陸上自衛隊では,東日本大震災の災害派遣の現場で,部隊レベルや個人レベルで平時を上回るさまざまなストレス対策活動が行われた.組織として派遣隊員に実施した施策としては,①メンタルヘルス巡回指導チームの派遣,②隊員の疲労回復施策(交代制休養),③メンタルヘルス長期フォローアップ,の3つであった.海・空の自衛隊も概ねこれに準じた活動を行った.これらについて紹介する.
東日本大震災では,自衛隊史上最大の災害派遣規模に加え,遺体関連業務や放射能関連業務に多くの隊員が関わることになったため,発災当初,我々は「メンタルヘルス上の問題を抱える隊員が大量に生じるのでは?」と懸念したが,これまでのところ,杞憂に終わっている.さまざまな要因が挙げられるが,平時から培ってきた惨事ストレス対策が効果的に機能したこともその1つであると考えられ,今後もさらなる向上に取り組んでいきたいと考えている.


東日本大震災における海上保安庁の惨事ストレスへの取り組みと課題

水口勲*1・廣川進*2
*1海上保安庁
*2大正大学

海上保安庁では震災対応業務に従事した職員を対象に計4回惨事ストレスチェックテストを実施した.調査時期は発災1週間後,1カ月後,1年3カ月後,1年9カ月後である.1回目から3回目の高得点者率は順に9.4%,4.5%,2.3%であり,また,3回目実施者数に対する4回目の高得点者率は0.4%であった.1回目から3回目まで連続実施が把握できている671名のデータにもとづく新たな分析において,1回目から3回目のIES-R得点に有意な差がみられ,2要因(混合計画)の分散分析やIES-RとSRS-18の相関分析からは,惨事ストレスと日常ストレスの関連が示唆された.ヒアリングデータの分析からは直後からの非常時モードの中で心身のストレス反応が凍結されて症状を出せない人がおり,平時の状態に戻っていく中で惨事ストレス反応を出してくるタイプとともに,日常的なストレスが重なる複合的なストレスの存在が考えられた.


警察における惨事ストレス対策

藤代富広
警視庁長官官房

わが国の警察における惨事ストレス対策は,東日本大震災後に本格的かつ組織的に実施された.警察庁が被災県警察に対し惨事ストレス対策に係る支援を実施する一方,被災地に職員を派遣した都道府県警察においても対象職員の惨事ストレス対策を実施した.
そして,今後の大規模災害等に際して的確な惨事ストレス対策を実施できるように,警察庁が調査および被災県警察における支援活動を踏まえての惨事ストレス対策マニュアルを策定した.これを活用し,都道府県警察では健康管理または災害対策訓練等のさまざまな機会において惨事ストレス対策の教育を実施している.いかなる大規模災害に際しても,被災地等の治安と住民を守り続けるため,組織的な惨事ストレス対策の教育をさらに推進することが課題である.


【原著】

被災しながら活動する救援者が組織に求めるストレス緩和策―組織的ストレス緩和策尺度の信頼性,妥当性の検討

平野美樹子
長岡赤十字看護専門学校

目的:大規模災害発生時,被災しながら活動する救援者のストレスを緩和するための組織的ストレス緩和策尺度の信頼性,妥当性を検討する.
方法:新潟県中越地震で被災しながら保健,医療,救急業務に携わった職員317人を対象に,面接調査等から作成した組織的ストレス緩和策尺度36項目,災害ストレスフルイベント53項目,勤務状況,被災状況等について質問紙調査を行った.探索的因子分析により,組織的ストレス緩和策尺度(4因子,35項目,Cronbach’s alpha=0.95)の構造を確認した.また,既知グループ法として,災害ストレスフルイベント経験多群・少群の2群間における組織的ストレス緩和策尺度項目得点の差を検定した.
結果:探索的因子分析の結果,組織的ストレス緩和策として4因子が抽出され,【つらさを察した労い】【健康を保つ先を見通した支援】【明確な職務と肯定的フィードバック】【家族の安全と連絡の確保】と命名した.組織的ストレス緩和策得点は,災害ストレスフルイベント経験多群において高く,有意差が認められた.
結論:結果から,組織的ストレス緩和策尺度は一定の信頼性,妥当性をもつことが示された.

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