公開日 2017年07月05日
このたびの16回大会では、最優秀演題賞1件、優秀演題賞2件の受賞がありました。
受賞された先生に、研究紹介も含めたコメントをいただいております。
最優秀演題賞
佐久間 篤先生(東北大学病院 精神科/みやぎ心のケアセンター)
演題:大規模災害後のPTSD症状の長期経過:混合軌跡モデリングを用いた解析
最優秀演題賞という、大変栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。本研究のベースとなる、5年間にわたる東日本大震災の支援者支援、健康調査を継続できたのは、調査にご協力いただいた支援者の皆様、みやぎ心のケアセンターのスタッフ、東北大学精神医学教室のメンバー、本当に多くの方に支えられた結果です。また、本研究は震災直後から献身的な支援を継続してくださっているJSTSSの皆様の協力なくしては行うことができない研究でした。
本研究では、東日本大震災の災害支援者である、被災自治体の行政職員と病院職員の計274名を対象に、発災から14、30、43、54ヶ月時点においてPTSD症状を調査し、対象者の4%が慢性的に高いPTSD症状を抱えていること明らかにしました。4%もの職員が高いPTSD症状を抱えたまま働き続けているという驚くべき結果でしたが、さらに衝撃的だったのは、この方々のPTSD症状の平均点が、14ヶ月時で45点、54ヵ月時で53点と、時を経るごとに悪化していたことです。
東日本大震災で活動している地元の災害支援者は、支援者自身も家族や住居を失っている場合が多く、支援者であり被災者でもあるという二重の災害ストレスを経験している方が大勢います。こうした方々の状況を明らかにし、対策を講じていくことは、災害が頻発する本邦では欠かせないと考えます。この受賞を、本邦における災害支援者のメンタルヘルス対策につなげていくことが、私たちに課せられた使命だと思います。この度は本当にありがとうございました。
優秀演題賞
東海林 渉先生( 東北大学大学院医学系研究科予防精神医学寄附講座/みやぎ心のケアセンター)
演題: 災害復興期における心理支援法 サイコロジカル・リカバリースキル(Skills for Psychological Recovery)の実施可能性の検討:前後比較研究
このたびは優秀演題賞を賜り、大変光栄に思います。本研究を遂行するにあたり、加藤寛先生、大澤智子先生をはじめ、たくさんの方々にお力添えをいただきました。心より感謝申し上げます。この受賞を励みとして、予防精神医学寄附講座一同、より一層、被災地のメンタルヘルス支援に関する研究や支援活動に貢献できるよう努めてまいりたいと思います。
本研究は、災害復興期の心理支援として効果が期待されるサイコロジカル・リカバリースキル(Skills for Psychological Recovery:SPR)の実施可能性を検証した初めての研究です。研究では、精神不健康を有する14名の住民の方々を対象にスーパビジョンを受けながらSPRを実施しました。12名(85.7%)がSPR介入を完遂し、介入後には精神健康の改善や、レジリエンス・自己効力感の向上が認められました。なかでも自己効力感は、2ヵ月後の追跡時も改善が持続することが確認され、長期効果の可能性が示唆されました。介入による有害事象は確認されず、わが国の災害被災地においてSPRが安全に実施可能であることが示されました。今後は対照群を用いた比較研究が必要であるとともに、SPRの普及に向けて、平時からの教育を充実させたり、事例を介したSV等を継続させたりしていく必要があると考えられました。
優秀演題賞
長峯 正典先生(防衛医科大学校 防衛医学研究センター 行動科学研究部門)
演題:災害支援活動において支援者が被る心理的苦悩と共感性との関連
この度優秀演題賞をいただき、大変光栄に思っております。
災害支援活動において支援者は、直接的・間接的に多くの心的外傷を被ります。本研究は、支援者に生じる心理的反応と、支援者の共感性との関連について、実証的な検証を試みたものです。この研究により、「個人的苦痛(不幸な他者を前にして自身が不安や動揺を感じる傾向)、及び想像性(相手の立場に同一化する傾向)が高い支援者は、ネガティブな心理的反応を被りやすい。」という結果が得られました。これらの知見は、災害支援活動のみならず、種々の人道支援活動、医療現場においても適用することができるものと考えております。今後は、支援者に生じうるネガティブな心理的反応をできるだけ緩和できるように、教育的介入に焦点をあてて本研究をさらに発展させていければと思っております。
今後とも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
以上、3件です。
受賞された先生方、おめでとうございます。