【被害者支援】4:犯罪被害者支援における一次予防 :トラウマインフォームドケアから

公開日 2018年04月20日

「犯罪被害者支援」というと、被害に遭われた方への情報提供やケアなど、事件後のサポートが思い浮かぶかもしれない。実際、犯罪被害者支援の主たる活動は「被害に遭われた方」へのサポートであり、事件に巻き込まれて混乱している方に、いかにスムーズに役立つ支援を届けるかが課題となっている。そのため、事件の早期に被害者に関わる警察や医療、行政窓口等は、被害者が求める対応を行いながら、心理相談や法律相談支等、被害からの回復に必要な社会資源を照会し、連携を図りながら支援を提供することが求められる。

こうした危機後の関わりは「介入」と呼ばれ、被害の影響をできるだけ小さく留め、回復を促進することを目的とする。予防医学の観点からいうと、危機が起きたあとの対応である「二次予防」にあたり、早期に適切な介入を行うことで、肯定的な予後につなげる。とはいえ、犯罪被害は深刻なダメージをもたらすため、中長期的な対応が必要なことが多く、被害者の損なわれた機能の回復と社会復帰を目指す「三次予防」も重要になる。

このなかで「一次予防」とは、危機が起こる前の予防的な取り組みを指すため、しばしば犯罪の未然防止の取り組みと同義で捉えられやすい。地域社会や個人レベルでの防犯対策、子どもに対する暴力防止の教育や社会啓発活動など、これらは一次予防であるだけでなく、いざというときの対処法を身につけることで二次予防にもつながるものである。

こうした一次予防は、「念には念を入れよ」「備えあれば憂いなし」といった準備性を高めるものであり、犯罪そのものを予防しようとする発想である。「風邪予防のためのうがい、手洗い」「交通事故から身を守るシートベルトの着用」と同じものである。ところが、実際には、いくら備えたとしても、「風邪」も「交通事故」も「犯罪」も防げるものではない。肝心なのは、「風邪っぽいな」という症状にいち早く気づいて養生することや、「交通事故」が起きたらすぐに警察に連絡するといった対処を知っておくことである。犯罪被害を受けたら人はどうなるのか、どんな症状が起きて、どのように対処したらよいのか。そうした知識や情報が広く周知され、あたりまえのこととして認識されている必要がある。

だれでも、犯罪被害に巻き込まれる可能性がある。相談窓口の情報は知られつつあるが、「犯罪被害が起きたら、自分や家族はどんなふうになるのか」を知らずにいる人は少なくないように思う。「悪いことは考えたくない」という意識もあるだろう。犯罪被害を受けてから、「実は、日本でもたくさん起きていることです」「眠れないなど、今まで通りに生活できなくなるものです」という心理教育を受けて安心する人は多いが、こうした情報を「初めて聞いた」という被害者は稀ではない。犯罪被害を受けて、思うように生活が送れなくなったことで自責感を抱いたり、「こんなふうになるのは自分だけだ」と思い込んで、誰にも相談できずにいたりする人もいるだろう。こうした人に必要な情報を届けるには、二次予防として情報発信をするよりも、一次予防の段階で周知するほうがよい。

犯罪被害やトラウマといった情報を健康にまつわる一般的な情報として提供することは、トラウマインフォームドケアに含まれる。トラウマインフォームドケアとは、トラウマになりうるできごとやその影響について、人々が認識し、正しい知識をもってケアにつなげるアプローチである。それは支援者に限らず、多くの人に望まれる対応である。今後、トラウマインフォームドケアの観点から犯罪被害者支援のあり方を検討することで、さらに取り組むべき課題がみえてくると思われる。

JSTSS被害者支援委員会
大阪大学大学院人間科学研究科准教授
野坂祐子

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