【自然災害】平成27年関東東北豪雨の常総市の経験と水害後のこころの問題・支援活動

公開日 2018年07月26日

筑波大学医学医療系災害地域精神医学
茨城県立こころの医療センター
高橋 晶

この度は西日本の水害対応をされている皆様、誠におつかれさまでございます。 我々も以前同様の水害の体験をしました。茨城県常総市において平成27年関東東北豪雨では、今回と同様に雨雲が停滞し、筑波大学の隣町の常総市で鬼怒川が決壊し、市の大半、市役所、保健所その他市の中心的な施設が水没しました。今回の西日本の水害は本当に痛ましく思っております。

平成17年から26年までの10年間に、全国の市町村の96%で1回以上の水害が発生しているといわれ、すなわち日本のどこでも水害は起こる可能性があるということです。

今回、常総水害をふりかえってみて、その中から水害時の精神的対応についてまとめてみました。平成27年9月10日、台風18号の影響で記録的豪雨により鬼怒川が溢水し、茨城県常総市では市役所を含む約40平方kmが浸水する洪水被害が発生しました。死者、負傷者も多く存在し、住宅被害も全壊、大規模半壊・半壊あわせて、4000件以上でした。

茨城県はこの水害に対して茨城県こころのケアチーム(現:災害派遣精神医療チーム[DPAT])を結成し、被災者に対して精神医学的対応を急性期から行いました。この水害の前に、茨城県ではDPATはまだ準備段階でしたが、我々は筑波大学に災害精神支援学講座があり、国内外の災害支援機関の見聞・人脈を広げるとともに、DPAT体制を事前に県と話し合い、準備体制がありました。そこで発災時には県障害福祉課、筑波大学附属病院精神神経科、茨城県立こころの医療センターと即座に連携し、災害急性期から避難所巡回活動を実施しました。

急性期には身体的な問題も多く、災害派遣医療チーム(DMAT)、日本医師会災害医療チーム(JMAT)と連携しました。避難所ではほとんどの人が、不眠に悩まされ、今後の事に不安を抱き、また命からがら避難所にきたため、普段の内服薬を持参できず、高血圧や糖尿病などの慢性疾患に対応しました。また不眠や長期間のストレスフルな避難所生活で疲労して、精神・身体ともに不調になっていく様子が多く見られました。精神疾患を持っている方は、薬剤がなく、環境変化で精神症状が悪化し、緊急入院が必要なケースがありました。認知症の方が避難所で徘徊することも見られました。また長期の避難所生活でいらいらして、住民同士でけんかが起こることもあり、飲酒に伴う問題も散見されました。ヘリコプターで救助された人が、命が助かったのは大変ありがたいが、とても恐ろしかった体験を語られたり、脳梗塞で麻痺があり、自分で動けない方が、浸水で水位が上がり、大変恐ろしい体験をして、その他トラウマ体験を語られました。

水害1週間後からは日本赤十字社こころのケアチームとともに市役所内に合同本部をおき、支援者支援と被災者支援に役割分担して活動し、市や避難者の状況に合わせて、各災害医療チームと柔軟に連携・対応しました。

県のチームとしての活動は約1ヶ月で終了しましたが、こころの問題、精神的な問題は当然1ヶ月で収まることはありません。その後の中期において、常総市からの依頼もあり、常総市こころの相談として、県臨床心理士会、県精神保健福祉センターとともに、日中、夜間相談窓口設置しました。茨城県認知症疾患医療センターチームの活動として、被災高齢者訪問活動を行い、チームで100件を越えるケースを訪問・対応しました。これは、現在も形をかえて、認知症専門医と精神保健福祉士のチームで継続しています。引きこもりがちな認知症が疑われる高齢者は災害時には、平時以上に医療機関につながることは困難であるため、アウトリーチをして、同時に必要に応じて診断、入院対応、適切な施設へのつなぎを行い対応しました。市役所職員支援活動、市役所職員のストレスチェック、個別相談の対応も現在の災害地域精神医学部門で適宜実施され、現在も継続しています。

水害の支援活動の特徴を記していきます。地域で水害被害状況も様々であるので地域の中でも温度差が出来ることがあります。水害では、水が引くと一見、町は穏やかになり、復興がすすむかのように見えます。しかし、実際には長期化することが知られています。水没した家の工事にはお金がかかりますが、倒壊でない場合、金銭補助が少ない傾向にあります。このため、家を建て替えるにしても金銭的に大変苦労することが散見されます。時には同じ場所には立てられず、また仕事がなくなることもあり、他の場所に移住します。この結果、若い家族が減り、高齢化します。これは他の災害でも同じ傾向ですが、局所的な災害では他の地域との差が明確になります。また疲労した支援者が多く退職することもあります。支援者は復興のキーパーソンであるので、これは地域にとって大きな痛手です。この事を踏まえて、高齢化予防、支援者支援を早期から行う、もしくは想定をする事が必要と思います。

水害の種類では、土砂災害では、死傷者が多く出ることがあり、それに伴い、本人、家族の心的外傷、抑うつなどの反応が出る可能性があります。

地域の特性に応じて、認知症の高齢者、精神疾患の方、児童のケース、外国人対応などが案件として上がる事があります。避難所では、被災体験の中で、ヘリコプターにつり上げられて救出された体験をした方、上昇する水位の中で瀕死の恐怖を体験した方、ペットを失った方、精神疾患を持つ方、家が倒壊、浸水、車の水没などを経験した人が多くいます。これらの事柄はメンタルヘルスを悪化させることがあるので、もし可能であれば避難所でチェック出来るとよいかもしれません。

また支援者支援の観点からは、市役所職員などの支援者は市民の矢面にたって、強い怒りをぶつけられることがあり、これが影響して、その後の職員が心身の不調になり、病休することもあります。誹謗中傷は抑うつや心的外傷とも関連があります。災害対応に関わった人は対応後に心身ともに体調を悪化してしまう事がよく見られます。その影響を減らすように自分自身を守るセルフケア、組織・上司が部下を守る配慮が重要で、被災地の復興のキーパーソンである支援者を支える工夫が必要と思います。

水害は局所災害であることも多く、実際の対応の共有がされていない事があり、今後、「水害こころのフォーラム」のような地域を越えた水害時のこころの対応を共有する事も必要に思います。

このように水害を以前経験した我々の経験から、水害のこころの対応について、記しました。もちろん、水害は程度が様々で一概に今回記したことが、すべて当てはまっているとは思いませんが、水害を体験された西日本の皆様にとって、なんらかのお手伝いになることを願っております。

このページの
先頭へ戻る