【報道関係者各位】川崎死傷事件に関する緊急のコメント

公開日 2019年05月30日

報道関係者各位

一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会
会長 元村 直靖

【要旨】
2019年5月28日に川崎市にて大変痛ましい死傷事件が発生いたしました。大切な方を失われたご遺族、被害者とそのご家族、また、関係者には、想像を絶する心労を被っているかと存じます。

当学会は、犯罪や災害等にあわれた方の心のケアを最重視しており、専門的知見から、報道関係者の方々に対応のご配慮をお願いするものです。

最初にお伝えしたいのは、このような想像を絶する苦痛にあるご遺族、被害者とそのご家族、関係者にとって今一番重要なのは、落ち着いて、安心できる、守られた環境であるということです。犯罪被害者等基本法にあるように、日本国民すべては、被害者等の方々の支援、回復に寄与する義務があり、報道関係者においてもその責務があります。

被害にあわれた方々には、報道・取材の在り方によって、その心労が一層高まることがあります。人権上・健康上の観点および被害者支援の観点から、報道関係者の皆様には、ご遺族、被害者とそのご家族、関係者への最大限のご配慮をお願い申し上げます。具体的には、個別取材等、特にご遺族、児童への取材につきまして、極めて慎重なご検討をお願い申し上げます。

【理由】
過去の犯罪被害者の治療やケアに関する知見に基づくと、ご遺族はもちろんのこと、被害者とそのご家族、関係者にあっても大変な心的外傷(トラウマ)を被ることが懸念されます。まず、死の恐怖にさらされたことによる様々な心理的・身体的反応です。そして、生存者罪悪感(サバイバーズ・ギルト)」と呼ばれますが、「なぜ犠牲者を救えなかったのか」「なぜ自分だけが生き残ってしまったか」という強い罪責感情が生じえます。

また、今般の事件では、ご遺族、被害者とそのご家族、関係者におかれまして、このような耐え難い心理的苦痛に襲われていることと察します。さらには、被害直後であることを鑑みますと、現在、ご遺族、被害者とそのご家族、関係者は出来事を受け止めることも困難であり、非常に混乱した状態にあると考えられます。したがって、ご遺族、被害者とそのご家族、関係者の皆様には、まず安全で落ち着いた環境の準備が最優先となります。このような環境があることで、被害者とそのご家族が心身の回復に専念することができ、ご遺族が大切な方を悼むことのできるようになります。

ケアの際には、報道の過熱によってその傷が広がる、いわゆる「二次被害」が強く懸念されます。「メディア・スクラム」と呼ばれるような過剰報道によって安全な環境が阻害されると、心の傷が一層強まります。

真実を知り、国民にそれを伝授することが報道機関の重要な使命であることは十分に認識していますが、被害者の健康や人権こそがまず最優先に守られなければなりません。報道機関の皆様におかれましては、こうした被害者の心身面への深刻な健康問題に関する最大限のご配慮をいただき、メディア・スクラムを防止し、とりわけ個別取材等はきわめて慎重に行われることを切望してやみません。皆様のご理解をいただければ幸甚です。

お亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈りするとともに、ご遺族、被害者とそのご家族、関係者の方々のご回復を祈念いたします。

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