公開日 2019年07月12日
このたびの18回大会では、2件の受賞がありました。
受賞された先生に、研究紹介も含めたコメントをいただいております。
最優秀演題賞
芦立悠佳先生(武庫川女子大学大学院文学研究科)
演題:小児期逆境体験と主観的・客観的共感性の関連
この度,最優秀演題賞という栄えある賞をいただき,誠にありがとうございます。
驚きと同時に,大変恐縮しております。
小児期逆境の体験者が抱える対人関係の問題の背後には,共感性の低下があるとされています。従来,共感性の測定には質問紙が用いられてきましたが,自身の共感性に対する認知や信念を測定しているにすぎず,共感性の主観的側面しか測定できていないのではないかという疑問がありました。
そこで本研究では,78名の女子大学生を対象に,Multifaceted Empathy Test(MET)の最新版であるMET-CORE2という実験課題を用いて客観的な共感性を,質問紙調査を用いて主観的な共感性をそれぞれ測定し,小児期の逆境体験が客観的・主観的共感性に及ぼす影響について検討しました。
本研究の結果から,小児期に逆境を体験した人は,まったく体験していない人に比較して,主観的には共感性が高いと信じているのに対して,実際の共感性は低い可能性が示唆されました。以上が本研究の概要となります。
本研究における協力者の皆様,ならびに連名発表者である福井義一先生(甲南大学),松尾和弥先生(甲南大学大学院人文科学研究科)に心より感謝申し上げます。実験のお膳立てから,データ収集・分析,卒論執筆に学会発表のアシストまで,未熟な私をサポートして下さり,本当にありがとうございました。
(本研究は,2017年度甲南大学文学部人間科学科卒業論文の一部です)
優秀演題賞
森島 遼先生(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻精神医学)
演題:東日本大震災3年経過後の抑うつの長期経過と希死念慮の関係:東日本大震災の被災者コホート研究
このたび優秀演題賞を頂戴し、大変光栄に存じます。東日本大震災後の抑うつの長期経過に関わる因子の検証と、抑うつの長期経過と自殺念慮の関係を発表いたしました。2012年から2014年に宮城県東松島市の特定健診で用いられた質問調査票から、抑うつ(Kessler 6 ≥ 8)、自殺念慮、人口統計学的項目などを使用しました。解析対象は全調査参加の1473名のデータとしました。 東日本大震災から3年経過後、調査参加者の約10%が抑うつの慢性群や遅発群に該当しました。 抑うつの慢性群や遅発群に関わる因子は、高い心理的ストレスに加え、住環境や雇用状況によって予測されることが示唆されました。慢性群や遅発群は特に自殺念慮リスクが高いことも示されました。
本研究結果より、中・長期的な被災地の精神保健活動において心理的ストレスに加え、環境的(就労・住居)な困難のある方への支援の重要性が示唆されました。
この場を借りて、現地支援スタッフの方々やご指導いただいた東大精神医学教室の先生方に感謝申し上げます。
引き続き被災地の長期的精神保健活動に役立つ研究を進めていきたいと思います。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
以上、2件です。
受賞された先生方、おめでとうございます。