第19回大会奨励賞(2020年10月)

公開日 2020年11月05日

このたびの19回大会では、4件の受賞がありました。
受賞された先生に、研究紹介も含めたコメントをいただいております

最優秀演題賞

山崎 真之先生(防衛医科大学校 精神科学講座)

演題:東日本大震災に派遣された陸上自衛隊に対する前向きコホート研究

 

この度、最優秀演題賞という大変栄ある賞をいただき、誠にありがとうございます。

驚きと同時に、大変恐縮しております。

 

皆様ご存じの通り、災害支援活動では、被災者のみならず支援する側も甚大なストレス(惨事ストレス)を被ります。支援者のPTSD罹患率を10%と推定している先行研究もあり、その影響の大きさを物語っています。本研究は、東日本大震災に派遣された陸上自衛官(約5万6千名)を対象として、心的外傷後ストレス反応の経過を6年間に渡って観察し、職務環境や任務内容といった諸々の因子との関連について調査したものです。

心的外傷後ストレス反応との関連が大きかった要因として、①支援者自らが被災していること、②3ヶ月以上に渡る長期の派遣、③高年齢、④派遣任務終了後の過重労働(休日出勤や残業)が3ヶ月以上持続したこと、等が抽出されました。こうした知見が今後の災害支援活動に活かされ、災害支援に携わる人々のメンタルヘルスの改善につながれば、研究に従事した者としてうれしく思います。

本研究を推進するにあたり、オランダのエリック・ファーマッテン陸軍大佐(兼ライデン大学精神科教授)をはじめとする研究チームから多大なるご支援をいただきました。また、所属長である吉野相英先生(防衛医大)、長峯正典先生(防衛医学研究センター)には、発表にあたり細やかなご指導をいただきました。ご支援賜りました多くの方々に、この場をお借りして御礼申し上げます。

 

優秀演題賞

吉田 博美先生(駒澤大学学生相談室、武蔵野大学心理臨床センター)

演題:トラウマへの態度を見直して安心して健全な支援を行うための教育教材の開発と倫理教育の必要性

 

この度は、優秀演題賞という名誉ある賞を授与いただきましたことに、大変うれしく、光栄に思います。学生時代からご指導いただいております小西聖子先生、心理臨床の基礎からご指導いただきました森山敏文先生、そして臨床・研究・教育場面で出会った方々から両親までこの場を借りて心から感謝の言葉をお伝えしたいと存じます。

 

本研究は、私たちが武蔵野大学心理臨床センターで学び、指導してきた教育を捉え直し、トラウマを安全で安心して学ぶ臨床教育のための教材開発を行い、教材の使用感について50名の支援者にアンケート調査を行いました。結果、90%以上の方から本教材は役に立つとご回答いただき、特に「トラウマへの態度や価値観を見直すワーク」において、価値観の見直しと支援者のケアの重要性、限界を自覚し、対処法がある安心感、そして仲間の重要性を再認識したという回答を多くいただきました。

このことからも、健全な支援を継続的に実施するには、事例を通じてトラウマに関する知識、臨床技術、支援者自身のトラウマへの態度や価値観について相互的に補完し合い、対話を繰り返しながら、思考の幅を広げる倫理教育の必要性が示唆されました。トラウマ支援に伴う不安や迷いを希望に変えるのは、その気持ちを安心して率直に対話ができる仲間や心の拠り所を築くこと、そして倫理順守が困難になりそうな状況や対処法を共有し、お互いに認め合えるチームを作ることが支えになるのではないかと思います。

最後に、本研究の成果として、各地でトラウマ支援に従事している方々の貴重なご意見も反映させて改訂した教育教材を武蔵野大学心理臨床センタートラウマ支援コンテンツhttps://www.musashino-u.ac.jp/rinsho/trauma_support/に載せました。これは今できる一つの形をご提案したものですが、これからトラウマ支援を学ぶ人たちにとってトラウマに携わってきた支援者たちの積み重ねた経験が糧となり、少しずつトラウマ支援の基礎が定着する一助となれば幸いです。

 

今回の受賞を励みに、これからもトラウマ支援や教育、研究について自分ができることから取り組んでいこうと思っています。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 

優秀演題賞

千葉 柊作先生(東北大学大学教育学研究科 公益社団法人宮城県精神保健福祉協会 みやぎ心のケアセンター )

演題:東日本大震災後に誕生した子どもとその家族への縦断支援研究(2)

   保護者の被災状況及び過去のトラウマ体験によるクラスターごとの経過について

 

この度は優秀演題賞という、身に余る賞を賜り、大変光栄に存じます。

今回の発表では、東北3県縦断研究「みちのくこどもコホート(MiCCaGEJE)」で得られた、宮城県の震災発生後に誕生した子どもがいる62家庭のデータについて、震災と保護者の過去のトラウマ体験が家庭に与える影響について分析を行いました。各家庭の保護者について震災の被害度、保護者自身の幼少期のトラウマ体験などの変数を用いてクラスター分析を行い、トラウマに関連した得点の低い「健康群」、震災の被害度が高い「震災関連トラウマ群」、幼少期のトラウマ体験が多い「過去トラウマ群」の3群を見出しました。この3群それぞれについて2016年から2018年までの3年間の保護者の精神健康(IES-R,k6、BDI-Ⅱ)及び子どもの問題行動指標(SDQ、CBCL)の経過を追跡したところ、震災関連トラウマ群ではIES-Rの得点が2016から2018年で有意に低下していた一方、SDQについては過去トラウマ群において経年で上昇し、2018年度においてはSDQとCBCLの得点について3群の中で過去トラウマ群が他群よりも有意に高いという結果になりました。

これらの結果から、宮城県については震災そのものの精神健康に対する影響は経年によって低減していくものの、子どもの問題行動に関しては幼少期のトラウマといった震災前からの脆弱性を抱える保護者の家庭において次第に増えていく可能性が示唆され、長期的な家庭全体への支援の必要性が示されました。

研究に協力して下さったご家庭の皆様、すべての連名発表者の先生方、みちのく子どもコホートに関わってくださった全ての皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。

今後ともご指導・ご鞭撻のほど、何卒どうぞよろしくお願い致します。

(本研究は東北3県縦断研究「みちのくこどもコホート(MiCCaGEJE)」の一環として行われました)

 

優秀演題賞

冨本 和歩先生(東北大学大学院医学系研究科精神神経学分野)

演題:重症精神疾患におけるトラウマとPTSDの割合

 

この度は、優秀演題賞をいただき、誠にありがとうございます。精神病性障害と気分障害を含む重症精神疾患(severe mental illness: SMI)の者ではトラウマ性の体験を経験している割合が高いと言われます。しかし研究の多くは欧米圏からのものであり、アジアでの実態は十分に調べられていません。過去10年以内の精神科の入院歴のある、東北大学病院精神科に通院中の精神病性障害、気分障害の患者82名を対象に、面接によって1) PTSD診断のA基準(DSM-5)を満たすトラウマ、2)精神科入院治療によるトラウマを調査し、PCL-5とCAPS-5でPTSD診断の有無を調べました。A基準を満たすトラウマ体験は全体の60%以上が経験し、精神科入院治療が現在もトラウマである割合は25.6%でした。10人に1人以上が併存するPTSDの診断(CAPS-5)でしたが、診療録上は1名のみがPTSDの診断とされていました。A基準を満たすトラウマ、PTSDの割合は日本の一般人口での割合より高く、欧米の先行研究の結果との比較ではトラウマはその下限、PTSDの割合は同等でした。本研究の結果、本邦においてもSMIのトラウマ、PTSDは過小評価されている可能性が示されました。また、精神科入院治療によるトラウマを4人に1人に認めたことは、強制入院や隔離拘束などの処遇が増加している日本では看過できない結果と考えられました。

 本研究の実施に当たり、調査に協力いただいた患者の皆様、貴重な発表の場を与えてくださった日本トラウマティック・ストレス学会の諸先生方に感謝申し上げます。

 

以上4件です。

受賞された先生方、おめでとうございます。

このページの
先頭へ戻る