国際交流委員会からのお知らせ

公開日 2021年05月27日

 

国際トラウマティック・ストレス学会(International Society for Traumatic Stress Studies)が、気候変動とトラウマに関する報告文書"Briefing Paper: Global Climate Change and Trauma"を公開しました。文書は以下URLで無料閲覧・ダウンロードできます。

https://istss.org/public-resources/istss-briefing-papers/briefing-paper-global-climate-change-and-trauma

抄録は11言語に翻訳され、うち日本語はISTSS理事・JSTSS国際交流委員会委員の大江美佐里先生が担当しました。その内容を以下に転記します。

 

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人類にとって、身体的・精神的な健康は、生活する環境と切り離すことはできません。気候変動を放置すれば、人口全体のメンタルヘルスに壊滅的な影響を及ぼすことが予想されます。気候変動が心的外傷性ストレスやその他の精神的健康に及ぼす影響は主として、平等ではないものの、集団で体験している問題に起因しています。これらの問題には、不十分な政治的意思や有害な政策、災害、貧困、暴力への曝露の増加、重要な場所や景観の浸食、人間の身体的健康や生態系の健康への弊害などが含まれます。この報告書では、気候変動とトラウマに関する知識の現状を説明し、いくつかのギャップを明らかにすることで、公衆衛生、政策、臨床、研究の各分野におけるこのテーマの迅速な開発と協力を促します。

 

急激な気候変動と慢性的・段階的な気候変動の両方が、DSM-5の基準Aの心的外傷的出来事の頻度と重症度に影響を与え、その結果、心的外傷後の精神症状を引き起こす可能性があることを本報告では記載しています。社会的、経済的、環境的な領域で、生涯にわたり気候変動誘発ストレッサーを集団として、しかし不均等に体験することにより、結果として気候変動が心的外傷性ストレスや精神的負担の一因となっていることを私たちは指摘しました。また、代理受傷として体験したストレッサーの影響や、気候変動に関連するストレッサーの予測に焦点を当てた研究分野が増えていることも紹介しています。加えて、気候変動によるストレス状態の中で、精神的な健康を支え、向上させ、積極的な集団行動を促し、心理社会的適応に寄与する可能性のあるさまざまな要因と、これらの分野における今後の研究の必要性についても述べています。特に、心的外傷後の成長における個人的および集団的行動の理論的意味合いと、気候変動の文脈における心的外傷後の成長に関する新たな研究分野の可能性について論じています。さらに、現在および将来の公衆衛生、政策、臨床、研究に関連するさまざまな取り組みを紹介し、これらの分野における提言を行っています。

 

気候変動の影響を緩和するための効果的で実現可能な方法はすでに存在しており、迅速かつ適切に実施されれば、何世代にもわたってトラウマを防ぐことができる可能性があります。この報告書が、気候変動に直面している人々、コミュニティ、社会の心の健康と福祉を優先し、促進し、保護するために、現在入手可能なエビデンスと必要な行動を明らかにすることに役立つことを願っています。

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