第20回大会奨励賞(2021年7月)

公開日 2021年09月07日

このたびの20回大会では、3件の受賞がありました。
受賞された先生に、研究紹介も含めたコメントをいただいております

最優秀演題賞

片岡 真由美先生(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野)

演題:日本の児童相談所職員におけるトラウマ体験への累積暴露とPTSD症状との関連

 

 記念すべき20周年の学会でこのような栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。研究にご協力くださった各児童相談所の所長、職員の皆様に心より感謝申し上げます。

 児童福祉に関わる職員は、業務でのトラウマ体験をしやすく、それによるPTSD症状が職員のリスク判断力を低下させ、虐待への早期介入を妨げる恐れのあることが先行研究で指摘されています。

 今回の研究では、児童相談所職員の87.1%が何らかの業務でのトラウマ体験をしており、被支援者同士の暴力を目撃することがPTSD症状と有意に関連することが示されました。また、経験するトラウマ体験の種類の累積数が一定数を超えると、累積数が増えるほどPTSD症状との関連が強くなることが示唆されました。

 子どもとその家族を虐待というトラウマから守るためには、支援側の児童相談所職員の業務でのトラウマにも注目し、その経験や悪影響を減らしていくことが重要であると考えます。そのために今後どのようなことができるか、児童相談所の方々のご意見を伺いながら考えていきたいと思います。

 今回の受賞を励みにより一層精進し、トラウマで苦しむ人が少しでも減ることに貢献できる研究を行ってまいりたいと思います。

 本研究を進めるにあたり、多大なご指導をくださった東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔准教授、ご支援をいただいた同分野の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

 

 

 

 

優秀演題賞

辻内 琢也先生(早稲田大学人間科学学術院 早稲田大学災害復興医療人類学研究所)

演題:福島原発事故首都圏被害者に持続する甚大な精神的被害ー人間科学的実証研究から

 

 この度は、優秀演題賞という栄誉を授かりましたことを、共著者一同、大変光栄に感じております。我が国において、精神医学・心理学・福祉学をはじめ学際的にトラウマの臨床と研究の歴史を作り上げてこられた日本トラウマティック・ストレス学会に、私どもの調査研究と支援活動の成果をご評価いただけたことに、こころから感謝申し上げます。

 

 この研究は、早稲田大学プロジェクト研究所『早稲田大学災害復興医療人類学研究所(WIMA)』のメンバーと、科研費(基盤研究B)『原発事故被災者の移住・帰還・避難継続における新たな居住福祉に関する人間科学的研究』の研究メンバーである、金智慧(早稲田大学人間科学学術院・医療人類学・臨床心理学)、岩垣穂⼤(日本女子大学人間社会学部社会福祉学科・精神保健福祉学)、増⽥和⾼(武庫川女子大学文学部心理人間関係学科・地域福祉学)、平⽥修三(仙台青葉学院短期大学こども学科・発達心理学)、⽇⾼友郎(福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座・社会心理学)、扇原淳(早稲田大学人間科学学術院・社会医学)、⼩島 隆⽮(早稲田大学人間科学学術院・建築環境心理学)、桂川泰典(早稲田大学人間科学学術院・学校カウンセリング)、熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院・行動医学)、といった多領域連携による学際的・学融的研究として「“被災者支援”に役立つ実践的研究」を大目標として10年間続けてまいりましたものです。

 発表の内容は、これまでの9回にわたる量的・質的⼤規模アンケート調査の結果と、⼼的外傷後ストレス(PTS)症状と⼼理・社会・経済的要因との関連を明らかにしたものです。質問紙は、避難元⾃治体である市町村が避難者だと把握している全世帯に配布されました。年度によって協⼒⾃治体が若⼲異なるため厳密なコホート調査ではありませんが、避難指⽰区域内だけでなく区域外避難者も含まれており、県外避難者の全体的な傾向を知る意味で価値がある経年調査と言えると考えられます。ストレス尺度として改訂出来事インパクト尺度(IES-R)を使⽤した結果、2012年からの推移をみるとIES-R:25点以上の者の割合は、2012年:67.3%、2013年:59.6%、2014年:57.7%、2015年:41.0%、2016年:37.7%、2017年:46.8%、2019年41.1%であり、現在も約4割の避難者にPTSDの可能性が⽰唆されました。多重ロジスティック解析にて、このPTS症状には様々な⼼理・社会・経済的要因が関連しておりました。爆発時の死の恐怖、故郷の喪失、避難先での嫌な経験、相談者の不在、家族関係の悪化、不動産の⼼配、⽣活費の⼼配などが統計学的に優位な関連が認められました。その背景には、作られた安全・安⼼神話や、不合理な避難・帰還区域の設定と賠償⾦の格差などの構造的暴⼒が存在し、包括的な連携⽀援が必要だと考えられました。

 

 今回の受賞は、共著者の学術メンバーだけではなく、民間支援団体である「震災支援ネットワーク埼玉(SSN)」、「東京災害支援ネットワーク(とすねっと)」と協働して現在も続けている原発事故被災者・被害者支援活動も同時に評価いただけたものと理解しております。原発事故被災者・被害者の身体・心理・社会的苦悩は今後も継続するものと思われます。今回の受賞を励みに、学術メンバーと支援団体と協働して、今後さらに10年、支援および調査研究を継続させていていく所存でおります。学会の先生方のご指導ご鞭撻を、今後ともどうぞよろしくお願い申しあげます。

(早稲田大学災害復興医療人類学研究所ホームページ:http://www.waseda.jp/prj-wima/

 

 

優秀演題賞

福地 成先生(東北医科薬科大学精神科学教室、公益社団法人宮城県精神保健福祉協会 みやぎ心のケアセンター )

演題:東日本大震災後に誕生した子どもとその家族への縦断支援研究(1)

  :養育者の精神健康は震災後に出生した子どもにどのような影響を与えるのか

 

この度は、優秀演題賞という名誉ある賞を授与いただきましたことに、大変光栄に存じます。

 

 本研究は、東北3県合同で実施している「みちのくこどもコホート(MiCCaGEJE)」で得られた、震災発生後に誕生した子どもがいる223家庭のデータについて、震災の被害、子どもの情緒・行動の問題、保護者のメンタルヘルスの関連性について分析を行いました。複数の観測変数により潜在変数「保護者のメンタルヘルス」「子どもの情緒・行動の問題」を構成し、震災被害に関するいくつかの質問項目を観測変数として共分散構造分析(SEM)を行いました。変数間に探索的にパスを設定し、モデルの検討を行いました。その結果、震災による被害そのものは「子どもの行動の問題」に影響をおよぼしていませんでした。「保護者のメンタルヘルス」は「子どもの行動の問題」に直接的な効果をおよぼしていました。震災後に出生した子どもは、保護者のメンタルヘルスの悪化を介して、間接的に震災の影響を受けている可能性が示唆されました。震災から時間が経過していても、保護者への支援が子どもの情緒・行動の問題を改善する可能性があると考えられました。

 

 研究に協力して下さったご家庭の皆さま、みちのくこどもコホートに関わってくださった全ての皆さまに、この場を借りて心より御礼申し上げます。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、何卒どうぞよろしくお願い致します。
 

(本研究は東北3県縦断研究「みちのくこどもコホート(MiCCaGEJE)」の一環として行われました)

 

以上3件です。

受賞された先生方、おめでとうございます。

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