【被害者支援】子どもへの性暴力~最近の動向~

公開日 2023年01月28日

 性犯罪・性暴力を巡る社会の動きは近年活発化しており、この1年の間でもさまざまな出来事があった。2022年度は、政府による「性犯罪・性暴力対策の集中強化期間」の最終年度に当たっている。2022年6月には、AV出演被害防止・救済法が成立した。そして、2021年10月から2023年1月現在まで、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会が継続的に開催されている。当部会では、性犯罪に対処するための法整備について審議されている。例えば、性交同意年齢の引き上げやグルーミング行為(性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為)に係る罪の新設などが話し合われており、子どもへの性暴力の問題と深く関連している。また2022年3月にはアメリカで、DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版のテキスト改訂版)が発行された。PTSDの診断そのものに変更はないものの、解説では性的トラウマ体験についてより広く例示されている。身体接触を伴う望まない性的体験のみならず、ポルノグラフィーを見させられること、性器を露出されること、望まないのに性的内容の写真や動画を撮られること、それらを配布されることなども新しく記述され、海外においてはさまざまな形態の性被害によるPTSD発症の実態が明らかになってきた成果だと考えられるだろう。
 現在わが国の子どもの性暴力に関しては、SNSを介した被害の増加が顕著である。SNSを介した性被害には、自画撮り画像(自分で写した自身の裸体等の画像)送信によるもの、SNSを介して知り合った相手と実際に会い、身体接触を伴う性被害に遭うものなどがある。SNSでのやりとりがあった上での被害という特徴を捉えれば、被害防止の観点から、加害者と被害児童との関係性がSNSにおいてどのように進展したのかが着目されるだろう。これまでの海外の研究からは、加害者が児童に共感したり賞賛したりして信頼関係を築き上げた後、性的な内容を入れ込むというグルーミング行為のプロセスが指摘されてきている。他方でわが国においてはSNSを介した子どもの性被害研究は十分に進んでいるとは言い難い。ちなみに私たちの研究グループでは、オンライン調査会社のモニタである若年成人2万人を対象に調査を実施し、18歳未満の児童期に、自画撮り画像送信又はSNSを介して知り合った人からの身体接触を伴う性被害経験の割合について、男子・女子・男女に属さない性別で評価するとともに、リスク要因の分析を進めており、本学会第21回大会シンポジウムで発表をしたところである。
 立場や関係性が利用され、被害を被害として認識されない場合があるなど、子どもへの性暴力は潜在化しやすく、その実態を明らかにすることが望まれる。そして制度や研究を進展させるのみならず、日常において子どもから発せられるかすかなSOSをキャッチできるかは、傍らにいる私たち大人にかかっている。

【参考文献】
American Psychiatric Association: Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th edition, text revision). 2022.
櫻井鼓、他:SNSを介した子どもの性被害の実態 日本トラウマティック・ストレス学会第21回大会抄録集 2022.

JSTSS被害者支援委員会
追手門学院大学/横浜思春期問題研究所
櫻井 鼓
 

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