公開日 2024年06月04日
2023年9月、旧ジャニーズ事務所が故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性暴力を認め、被害者の方々も会見を開き、男性が性暴力被害により受ける心的外傷の深さが広く知られるところとなった。長期にわたり誰にも相談できずに苦しんできた男性の性暴力被害者の存在を多くの人が認識し、社会全体で男女問わず性暴力の被害者に対する温かな支援を行う必要性が一層高まった。本学会も、会長名でこの被害者の方々へのケアの必要性を述べている(https://www.jstss.org/docs/2023090200011/)。
性犯罪に関する法律については、2017年の刑法改正により、強姦罪が強制性交等罪に改められ、男性が法律上性器に身体の一部や物の挿入を伴う性犯罪の被害者として扱われるようになった。さらに、2023年には不同意性交等罪に改められ、同意なき性交は男女問わず犯罪とみなされうることとなった。統計を見ると、男性の不同意性交等の被害に係る警察に被害届が出された件数は、2022年が64件、2023年が100件であった。
2019年に内閣府が全国20歳以上の男女5000人を対象に実施した暴力被害に関する調査結果では、女性で6.9%、男性では1.0%の人が無理やりに性交等をされた被害体験を回答しており、男性でも相当数の人が性暴力被害の経験を有していることが窺われる。また、性暴力の加害者との関係について、男性では「通っていた(いる)学校などの関係者」が23.5%と最多で、「全く知らない人」は17.6%、「職場・アルバイト先の関係者」が11.8%であった。男性の性暴力被害者は教師、部活動等の顧問やコーチ、上司といった密な関係にある目上の人物から被害に遭っており、加害者の要求を断れば学校や職場に行きづらくなると感じた人も少なくないと考えられ、男性の性暴力被害は潜在化する傾向が推察される。
なお、実際の被害男性(男児)にあっても、「僕が警察に言ったから(加害者である)コーチ/先生が逮捕された」と罪責感を抱くことが少なくない。また、被害にあった息子を心配する保護者でも、心理支援の提供を断ることも珍しくない。男性は強くなければならないという価値観や、「強くなるため」「うまくなるため」に必要な指導であったという加害者の言葉、「誰にも言っちゃいけないよ」と被害申告を封じさせて共犯関係に仕立てる加害者の言葉が相談の妨げになっている可能性もある。そのため、被害者、保護者及び関係者に対して、性暴力被害により心的外傷を受ける男性にも適切な心理支援が必要であること、被害申告が遅くなったとしても被害者のせいではないこと、加害者に心理的に支配されていた可能性があるため長期的なケアを心掛けていただくことなどを伝える心理教育が必要である。
引用文献
内閣府:男女間における暴力に関する報告書. 2021
JSTSS被害者支援委員会
人間環境大学
藤代富広