公開日 2025年09月16日
このたびの第24回大会では、4件の受賞がありました。
受賞された先生に、研究紹介を含めたコメントをいただいております。
受賞された先生方、誠におめでとうございます。
優秀演題賞(口演)
土肥 早稀先生(東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻 精神保健学分野)
演題:助産師を対象としたトラウマインフォームドケア動画研修の効果:無作為化比較試験
この度は身に余る賞を賜り、誠に光栄に存じます。
本発表では、助産師を対象としたトラウマインフォームドケア動画研修プログラムを開発し、ランダム化比較試験によってその効果を検討しました。その結果、研修プログラムを受けた助産師は、対照群の助産師と比較して、トラウマインフォームドケアに対する態度と職場の心理的安全性が有意に向上し、バーンアウト(特に対人関係の遮断)を有意に抑制させることが明らかとなりました。
多くの女性が過去に何らかのこころのケガ体験をし、その影響が周産期の女性やその家族に及ぶ可能性を考えると、助産師がトラウマの視点を持って女性に関わり、その影響を予防していくことが重要だと考えます。講評でもご指摘いただきましたように、助産師がトラウマインフォームドケアを実践するための研修を提供することが、本研究成果として助産師教育および臨床実践におけるトラウマ領域への一助となれば幸いです。
本発表にあたり、東京大学大学院医学系研究科の西大輔先生をはじめ、共同演者の皆さまには大変丁寧なご指導を賜りました。また、日本赤十字社医療センターの馬目裕子様、鈴木麻衣子様には多大なるご協力をいただきました。さらに、研究にご参加くださった助産師の皆さま、学会関係者の皆さま、ご講評を賜りました方々に、心より御礼申し上げます。今後も周産期におけるトラウマティックストレス研究を通じ、社会に貢献できるよう一層精進してまいります。引き続き、ご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
優秀演題賞(口演)
日比 麻記子先生(東京大学大学院 教育学研究科臨床心理学コース)
演題:小児期逆境体験および保護的・代償的体験が成人期のセルフ・コンパッションに与える長期的影響の検討
この度は,優秀演題賞という栄誉ある賞をいただき,大変光栄に存じます。
本研究は,1,556名の労働者を対象として,小児期逆境体験(ACEs)と保護的・代償的体験(PACEs)が成人期のセルフ・コンパッションに与える長期的影響を検討いたしました。階層的重回帰分析の結果,PACEsの主効果が確認され,特に注目すべきは,ACEsの主効果がPACEsを投入すると有意ではなくなったことです。これは,保護的・代償的体験が小児期逆境体験の悪影響を上回るほど,成人期のセルフ・コンパッションの促進要因として機能する可能性を示唆しています。さらに,PACEsの下位尺度ごとの検討では,特に「関係性」の主効果が確認されました。無条件の愛,親友やメンターの存在など,豊かな関係性を小児期に経験することが,成人期のセルフ・コンパッションを高めることが明らかになりました。
講評でご指摘いただいたように,本研究は「予防的介入やレジリエンス強化の観点から大きな示唆を与えるもの」と考えております。従来の研究では,小児期逆境体験による長期的な悪影響に焦点が当てられることが多い中,本研究では保護的・代償的体験の重要性を実証しました。本分野の研究における新たな方向性を示すことができたのではないかと考えております。
今後も,本研究で得られた知見を実践に活かすべく,研究を進めてまいります。体験の時系列的な影響や,労働者以外の多様な集団での検証も重要な課題です。逆境を経験したとしても,周囲が提供する保護的な関係性や資源によって,希望ある未来を築けることを,科学的根拠をもって示していく所存です。
また,本研究は,保護的・代償的体験が健全な発達に大きく寄与することを示唆しましたが,視点を変えれば,保護的・代償的体験が乏しい幼少期を過ごすこともまた,長期的に悪影響をもたらしうる,と考えられます。これまで注目されてきた小児期逆境経験者への支援だけでなく,これまで見逃されていた「保護的・代償的体験を経験できなかった人々」に届けられるような支援法の構築にも取り組みたいと考えております。
本発表にあたり,滝沢龍先生をはじめ,東京大学大学院教育学研究科の共同演者の先生方には丁寧なご指導を賜り,深く感謝いたします。また,調査協力者の皆様,本発表へのご講評をいただいた方々に,心より御礼申し上げます。
今回の受賞を励みに,世のため⼈のために貢献できるよう,さらなる研究活動に邁進してまいります。今後ともご指導・ご鞭撻のほど,何卒よろしくお願い申し上げます。
優秀演題賞(口演)
千葉 俊周先生(国際電気通信基礎技術研究所 脳情報研究所 行動変容室)
演題:自殺リスクにおける感情制御の二面性:大規模データ解析による検討
このたびは、学会奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。日頃よりご指導・ご支援を賜りました先生方、共同研究者の皆様、そして研究にご協力くださった患者さん方に、心より御礼申し上げます。 本研究では、自殺に関連する病態を従来の単一的な枠組みではなく、情動制御の二極性(情動過剰制御と情動過少制御)という観点から捉え直しました。臨床症例や縦断データの解析により、情動を抑え込み過ぎる「過剰制御」型と、情動が過剰に表出する「過少制御」型という二つの病態が、集団レベルで自殺リスクに関与することを明らかにしました。両者は病態の発現機序や介入への反応性が異なる可能性が高く、治療方針や予防戦略の個別化に資する重要な示唆を与えるものと考えています。 発表では、多くのご質問や臨床現場からの貴重なご示唆を頂き、大変有意義な議論となりました。今後は、個人レベルでの検証を進めるとともに、二極性を踏まえた具体的な自殺予防・介入施策へと発展させることを課題として取り組んでまいります。 この研究は、共同研究者の皆様、臨床を支えてくださったスタッフの方々、そして研究参加者のご協力によって初めて実現できたものです。改めて感謝申し上げます。今後も、トラウマ・ストレス関連疾患の理解と治療法の開発に貢献すべく、基礎と臨床を架橋する研究を継続していく所存です。引き続きご指導ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
最優秀演題賞(ポスター)
小西 優歌先生 (東京大学 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 精神看護学分野)
演題:トラウマインフォームドケアに対する態度と主体価値との関連についての検討
この度は栄誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。心より御礼申し上げます。
本研究では、災害派遣医療チーム(DMAT)・災害派遣精神医療チーム(DPAT)に所属する医療従事者71名を対象に、個人の主体価値とトラウマインフォームドケア(TIC)に対する態度との関連を縦断的に検討しました。「社会をよくすること」「積極的に挑戦すること」という2項目の重要度が、TICに対する態度の前向きさと有意に関連し、組織におけるTICの普及には、これらの価値とTIC の重要性・必要性とのつながりを踏まえた教育研修の実施が効果的である可能性が考えられました。
ポスターセッションでは、日々現場で奮闘され組織のことを考えておられる皆さまから、TIC研修の実践や評価に関するご質問・ご意見をいただき、現場の実情や課題について大変学ばせていただきました。
本発表は、DMAT・DPATに登録している医療従事者を対象とした調査の一環として実施されました。研究にご協力くださいました参加者の皆さま、そして研究実施に多大なるご尽力を賜りました国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局 DMAT事務局の小井土雄一先生、公益社団法人日本精神科病院協会DPAT事務局の河嶌譲先生、桜美林大学リベラルアーツ学群の池田美樹先生に、心より感謝申し上げます。
研究の遂行および発表にあたり、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の西大輔先生、浅岡紘季先生をはじめ、研究室の皆さまから多大なるご指導を賜りました。学会の皆さま、ご講評をくださいました方々にも、改めて深く御礼申し上げます。
自分のいる環境への感謝と、数字や文字の向こうにいる人の存在を忘れず、これからも研究に精一杯励んでまいりたいと思います。今後ともご指導・ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。