被害者支援委員会企画シンポジウム「性犯罪に関する刑法改正による司法・支援現場の現状と課題―改正から 1 年を経て―」の開催(報告)

公開日 2025年09月22日

2024年8月に開催された第23回日本トラウマティック・ストレス学会において、被害者支援委員会では「性犯罪に関する刑法改正による司法・支援現場の現状と課題―改正から 1 年を経て―」と題してシンポジウムを企画した。2023年3月に「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立したことを受け、その背景について改めて整理するとともに、施行から1年の段階での精神科医療、心理臨床、司法、産婦人科看護等の現場での状況を共有し、今後の課題に関してもディスカッションを行った。

 法改正に関しては、2023年7月13日に施行された「刑法の一部を改正する法律」により、従来の「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」が統合され、「不同意性交等罪」として新たに規定された。

 従来の強姦・強制性交等罪や強制わいせつ罪に基づく司法手続は、被害者等の立場からは、処罰されるべき事例や事項が漏れてしまうという課題を抱えていると感じられることが少なくなく、それらは例えば暴行強迫要件の判断にばらつきがあることや、この要件に被害者心理の理解の不足がみられることが挙げられていた。

 シンポジウムでは、これらの背景も受け、性犯罪の本質的要素は、自由な意思決定が困難な状態でなされたわいせつな行為であることを前提に法改正の議論が行われ、暴行強迫要件に関してはそれらの他にアルコール、薬物、傷害、睡眠、フリーズ状態、虐待、立場による影響力などが原因となって同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態に改正されたことが説明された。

 法改正後1年のタイミングにおける各領域での状況の理解や対応に関しては、社会全体として性的被害の認識が広まりつつあり、以前よりも性的被害の報道が増えていること、性的被害として相談される内容の幅が広がっていること、警察・検察・裁判所のような司法の場では以前よりも性被害において被害者が抵抗することが困難であること等の心理的状況に関する理解や被害者に対する配慮がみられるようになっていることなどの印象が共有された。しかしそれらは法改正のみによる効果とは考えにくく、改正以前からも徐々に変化がみられていたであろうことも各シンポジストから共通して述べられた。また、法改正から1年という短い期間でもあることから、今後公表される統計や調査等を確認しながらより支援を深める点などに関する検討を進めることなどが提案された。

 被害者支援委員会では毎年の学術大会において注目される施策や支援等についてシンポジウムを企画している。第24回では「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターにおける支援及び運営の現状と今後の展望」のタイトルで、政策の担当者及びコーディネートや心理臨床等を担当する支援者によるシンポジウムを企画しているため、オンデマンド配信などでも視聴いただけると幸甚である。

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