【被害者支援】犯罪被害者遺族と遷延性悲嘆症

公開日 2026年07月28日

犯罪被害にあって大切な方をなくすことは計り知れない悲しみと苦痛をもたらすものであり、殺人等の遺族に対しては、警察の被害者支援や民間の早期援助団体から早期の介入や支援が行われるようになってきた。しかし、犯罪被害者遺族が精神健康の問題を抱える割合は高く、例えば、日本の研究(中島他,2008)では、当事者団体に所属している遺族で、平均8年経過した時点でうつ病12.3%、PTSD17.8%、外傷性悲嘆(遷延性悲嘆症)21.9%の時点有病率が報告されている。米国の殺人遺族(事件から平均2年経過)の研究(Williams et al., 2015)でも、うつ病48.9%、PTSD34%、複雑性悲嘆(遷延性悲嘆症)23.4%と精神疾患を抱える割合が高いことが示されている。

遺族の方の心の反応として、大切な人を失ったことによる悲嘆があげられる。本来悲嘆は正常な心の反応であり、時間の経過とともに、和らいでいくものであるため従来は病的なものと考えられていなかった。しかし、1990年代から、悲嘆が長期化して機能障害をきたした状態が「複雑性悲嘆(complicated grief)(Prigerson et al.,1995)」と呼ばれるようになり、病態や治療の研究が進められるようになってきた。その結果、複雑性悲嘆では、自殺行動のリスクが高く、社会的機能低下がみられること、身体疾患(流感、癌など)のリスクが高いことなどが明らかになり、治療の必要な病態として考えるべきではないかと言うことが研究者から指摘されるようになってきた(Prigerson et al, 1997; Boelen et al.,2008など)。そこで、ICD-11(WHO, 2019)やDSM-5-TR(APA, 2022)では、「遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder)」として精神疾患に位置付けられるようになった。遷延性悲嘆症の症状は、故人のことをしたい求め、そのことで心が占められてしまう状態です。その結果、死を受け入れられない、死別の苦痛を回避する、自分の人生が空虚に感じられるなどの気持ちが生じるが、実際にはこのような反応は死別の急性期で一般的にみられるものである。遷延性悲嘆症は、このような急性期の悲嘆反応が死別から1年以上経過しても強いレベルで持続することが特徴である。遷延性悲嘆症のリスク要因として突然の死別や暴力的な死別があげられており、そのため犯罪被害遺族では高い有病率が報告されている。

 現在の研究では、遷延性悲嘆症の治療として、薬物療法は十分な効果が報告されていない状況である。一方心理療法では、遷延性悲嘆症に特化した心理療法の効果が報告されている(Johannsen et al,2019; Pleshka et al.、2025など)。日本では、悲嘆のトラウマ的側面により焦点化した治療について有効性が報告されている(Asukai et al, 2011)。また、遷延性悲嘆症そのものに対しては、Shearら(Shear et al., 2005, 2014)の開発したPGT(prolonged grief disorder therapy)や、インターネットを利用した認知行動療法(Wagner et al,2006)が導入され、効果を検証が行われている。遷延性悲嘆症が、精神疾患となったことでより医療機関でのニーズが高まることが考えられ、今後日本での積極的な治療の研究や普及が望まれている。

 

被害者支援委員会

      武蔵野大学

      中島聡美

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