新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とスティグマ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とスティグマ

福島県立医科大学医学部 災害こころの医学講座 前田正治

 

 今回の感染症(COVID-19)で非常に問題となっているのが、様々な形で現れている偏見・スティグマの問題です。よく知られているように、精神疾患や感染症の一部(統合失調症、ハンセン氏病やHIV感染症など)はこうしたネガティブな社会的反応を招き、当事者はそのことで非常に苦しみます。また、今回の新型コロナ感染症の場合、感染経路の特定作業などでプライバシーを守ることが難しいことから、その脅威はより直接的です。


 まずは感染者やその家族・関係者に対する偏見は著しいものがあります。感染という事態は、当事者にとって災厄以外の何物でもありませんが、それは医学的な問題を抱えることだけではありません。社会的偏見や制裁ともいえる周囲の言動に曝されることからももたらされます。つまりこの感染症にり患することで、犯罪者のような扱いをうけてしまい、生物学的死のみならず社会的死の恐怖に曝されてしまいます。家族や回復者を含め、当事者をコミュニティに迎え入れることの重要性は、強調してもしすぎることはありません。

 
 またこれは、様々な形で感染症対策に関わっている対応者についても言えます。対応者は自らの感染の不安に加え、家族などへ移してしまうのではないかという不安、さらにはこうしたスティグマに晒されることの恐怖にも怯えなければなりません。筆者も感染患者を受け入れている大学病院で働いていますので、スティグマには過敏です。

このようなスティグマに晒された当事者には二つの問題が生じます。一つは、(周囲がみなしているように)自分が悪かったのではないかといった強い罪責感や自罰傾向が生じ、その人のメンタルヘルスに重大な影響を与えてしまうこと。セルフ・スティグマという現象です。福島でも多くの被災者が放射線被ばくに対する周囲の偏見とともに、セルフ・スティグマにも悩まされました。もう一つは、スティグマを恐れ、必要な検査や治療を受けなくなってしまう、あるいは申告しなくなってしまうこと。この二つは、いずれも大変大きな問題です。


 ではどうすればいいでしょうか。重要なことは、私たち一人一人が当事者性を忘れないことだと思います。残念ながら感染のリスクをゼロにすることは非常に難しい。これは家庭内感染の予防を考えても容易にわかります。換言すれば、誰でも感染し得るということです。そう思うこと、当事者性を認識することによって、他の人が同様の危機に陥った場合に、より共感的になれます。繰り返しになりますが、偏見やスティグマに曝されることは、感染そのものと同じくらいに、あるいは場合によってはそれ以上に、その人を苦しめてしまいます。感染した人に対して、敬意をもってその話を聞いてみましょう。非難するよりよほど自分の感染予防にも有益です。

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