新型コロナウイルス(COVID-19)の対応に関わる医療関係者のケアについて

COVID-19の対応に関わる医療関係者のケアについて

兵庫県こころのケアセンター 大澤智子

 

 医療関係者は、人の生き死に関わる業務ゆえに、「患者ファースト」であることを社会から期待されます。このような期待は困難な状況に直面した時、医療関係者の原動力になる反面、職員のケアが後回しになる危険をはらんでいます。脅威が続く状況下では彼らのケアなしに、職員が業務を継続することは不可能です。十分な医療器材もなく、自分自身も危険にさらされ仕事をしているのに状況は悪くなる一方。このようなことが続くと、経験豊かで優秀な職員でも消耗し、罪責感や無力感を抱きます。

幸い、影響を受けても多くの職員はそれぞれのやり方で対処しています。しかし、中には心身のバランスを崩し、上手に対処できなくなりつつある人がいるのも事実でしょう。でも、早い段階で周囲が不調に気づき、適切な対応を行えば、崩れたバランスを戻すことは可能です。以下に、病院関係者が心身の健康を保つために不可欠な4つの柱を示します。

 

1 業務を「安全」に遂行するための基本的スキル:自分の身を守る

 

 職員の安全が確保される業務遂行に必要な基本的なスキルとは、標準的な感染予防が徹底されていることや感染患者対応の知識をさします。職場の事情で感染症対応の経験がほとんどない職員がコロナ対応を任さざるを得ない場合。また、経験者でも疲れがたまることで基本的なスキルを遂行できなくなることもあります。よって、これらの基本スキルが習得され、実行されているか定期的に確認することが肝要です。先が見えない状況だからこそ、自分の身を守り、任務を確実にこなせることは職員が効力感を抱くことにつながり、この困難を乗り越えられるかもしれないとの希望にもつながるのです。

 

2 職員のセルフケア:自分が安心し、落ち着きを取り戻せることを探し、試す

 

 対応が長期化すると職員は疲弊し、ヒヤリハットの温床にもなります。長期間労働に加え、感染症特有のストレス。自分が感染するかもしれない不安。自分のせいで職場が休業を強いられる恐怖。ウイルスの特性上、知らない間に誰かを感染させてしまう可能性。万が一、感染したり、させたりすると職場はもちろん家族までもが差別の対象となりうる恐怖。これらは現実的な心配であるためやっかいです。しかし、不安は野放しにすると増幅するという特徴があり、悪循環から脱するには不安の元になっている考えに支配され続けないないことです。数分でも構いません。その考えを忘れられる時間を持ってください。心配する代わりに心のエネルギーが補充されること-例えば、身体を動かす、同僚と愚痴を言い合う、家族と話す、家族の写真を見る、動物の動画を見る-を試してください。

 

3 同僚からのサポート:身近にいるからこそできること

 

 すでに記した通り、自らが感染するかもしれないと考えると家族の元へ帰ることを躊躇する職員は少なくありません。すると、普段だと支えとなる家族との関わりが極端に減ることになります。孤独や孤立は心身の健康を蝕むことが知られており、すでにギリギリの心身状態にいる職員にとっては大きな痛手です。そこで重要なのが組織や同僚からの支えや見守りです。近くにいるからこそ、普段との違いを察知でき、小さな不調のサインに気づくことができるからです。医療関係者でなければ分からない辛さや困難を言葉や態度で伝え、労うことが力となります。以下にいくつかの例を示します。

 

行動例

 ・同僚の言動に注意を払い、普段と様子が違う際には積極的に声を掛ける

 ・お互いの状態を確認する時間、困りごとを分かち合う時間を定期的に持つ

 

言葉がけの具体例

 ・「こんな大変な中、冷静な態度を保ってくれて、とても助かっている」

 ・「怖くて/不安で/逃げ出したくても当然。私もそんな気持ちになる時がある」

 ・「(明らかに様子が違う場合)普段は〇〇なのに、最近、〇〇だけれど体調が悪いの?」

 

4 組織からのサポート:職場および管理職のみなさんへのお願い

 

 職員からの意見や要望に普段以上に耳を傾けてください。彼らの望みをすべて叶えることは無理かもしれません。しかし、自分たちの言葉に耳を傾けてくれる、ということが分かるだけでも職員にとっては大きな支えになります。多くの場合、彼ら自身も自分が言っていることが難しいことは承知していることでしょう。ですので、無理難題だと感じるようなことを言われても、拒絶するのではなく、その言葉の裏にある不安や無力感を受け止めて下さい。例えば、「防護服や医療用マスク等を入手するために毎日、手を尽くしているがどこにも在庫がない。みなさんが安心して仕事に取り組める環境を提供できず本当に申し訳ない」

 

加えて、混沌とした職場環境であるからこそ以下のことが助けになります。

・どれだけ忙しくても、短時間でも構わないので食事や睡眠の時間を確保する

・家族や大切な人と定期的に連絡が取れるようにする

・職員の家族に対して職場として感謝やねぎらいの言葉を伝える

 

職員が守られている、と感じられる職場環境をできる範囲で提供してください。何をもって守られていると感じるかは職員によって異なります。分からなければ尋ねてください。

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