新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する国際連携活動

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する国際連携活動

久留米大学 大江 美佐里

 

 JSTSSは国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)やヨーロッパトラウマティック・ストレス学会の連携組織(affiliate society)である。また,下記に詳細は述べるが,ISTSSから独立した世界的な国際交流組織に加盟している。本稿ではこうした海外学会・組織のCOVID-19に関する活動を紹介する。

ISTSSではCOVID-19に関する世界的な情報を集めてウェブサイトで公開している(https://istss.org/public-resources/covid-19-resources)。これは,ISTSSの会員数を反映して米国内の情報が多いが,日本語やスペイン語,中国語の情報も集められている。リンクする形で対面ではなくビデオ通話やアプリを用いて心理療法を行うための資料も公開されている。

 

 リンクされている中で印象に残ったサイトは,American Psychological Association(アメリカ心理学会,このうちdivision56と呼ばれる領域はトラウマ心理学のグループで,ISTSSと重複会員が多い)の”Seven crucial research findings that can help people deal with COVID-19”(COVID-19に対処するのに役立つ7つの重要な研究結果)と題されている(https://www.apa.org/news/apa/2020/03/covid-19-research-findings)。このサイトの特徴は,7つのメッセージのいずれにも根拠となる論文が示されていることにある。一般向けに専門家が説明する際にはどうしても説明を簡単にしてしまいがちになる。裏付けとなる論文を検索することができる仕組みには好感が持てる。

 

 ところで,トラウマ関連疾患をはじめとした外傷性ストレスに関する各国の学会が臨床・研究の両面で連携するプラットフォームとして,Global Collaboration on Traumatic Stress (外傷性ストレスに関する国際交流,以下GCTS)がある(ウェブサイトhttps://www.global-psychotrauma.net/)。以前は国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)の中に位置づけられていたが,現在はISTSSもJSTSS等の団体と同じ立場で交流に加われるよう,別の団体として活動をしている。現在,スイス・チューリヒ大学名誉教授のウルリッヒ・シュニーダーとオランダ・アムステルダムARQ国立心的外傷センター教授のミランダ・オルフの両名が代表となり,各団体から運営委員が選出されている。

 

 GCTSでは国際連携を念頭に置き,運営委員会で認可を受けた複数のプロジェクトが実施されているのが特徴である。COVID-19と関連し,2020年4月21日現在7つの新たなプロジェクトが立ち上がっている。そのタイトルを順に挙げると,

 

  1. COVID-19メンタルヘルス研究ネットワーク
  2. 第一線でCOVID-19診療にあたっている医療従事者の外傷性ストレスと逆境
  3. コロナウイルスパンデミックの過程における個人・社会・国家に関連する危険因子とストレス要因、対処行動と適応障害症状
  4. COVID-19パンデミックのおける職業上のハイリスクグループ
  5. 看護師の外傷後適応
  6. メンタルヘルスのための”REACH”プロジェクト
    (注:REACHを頭文字とするスキルの有用性についての研究)
  7. COVID-19の心理的影響

となる。テーマに興味があるものは誰でも(JSTSS 非会員でも)各プロジェクトの代表に連絡をとればメンバーとなることができるが,研究実施に関しては各々所属組織・所属国の倫理規程に従う必要があるので,この点に留意が必要であることを申し添える。

 

 さて,これまでGCTSや前身団体で作成した成果物の中に,COVID-19に関しても活用可能なものがあるので紹介する。まず,「児童期の虐待とネグレクトに関する情報提供(iCAN)」(https://www.global-psychotrauma.net/copy-of-ican)である。この小冊子(PDF)は,児童期に虐待を体験した成人向けに虐待の定義・虐待の影響・対処について簡便に記載したものである。現在自宅待機や在宅勤務の長期化に伴い,DV等虐待件数が世界的に増えていると報道されており,その対象者の中にはiCANが想定する児童期の虐待体験者が含まれていると想定される。iCANは日本語を含む9言語に翻訳されている。

 

 児童期虐待の背景に潜む家族関係・アタッチメントの問題を評価するためのオンライン専用の尺度の研究も行われている(児童期のアタッチメントと対人関係に関するトラウマ尺度, CARTS, https://www.global-psychotrauma.net/carts)。CARTSは家族関係を図式化した上で,それぞれの家族と児童期の自分との関係に関する質問に答える15分程度のプログラムである。2020年4月21日現在日本語を含む8つの言語で入力が可能である。

 

 COVID-19の影響が長期化する中,今後も様々な問題が出てくると想定される。他国の対応をそのまま適用することは難しい点もあるが,文化的な差異を考慮しつつ重要なものは取り入れていく気概が求められる。

このページの
先頭へ戻る